第115話 勝者は2$のチキンディナー♪(後編)

 室矢むろやカレナは、優雅にアフタヌーンティー。


 廃ビルで階段へ行った槇島まきしま皐月さつきは――


『いたぞ! デメの仇だ、このやろおおおっ!』


 パパパパ!


 乾いた発砲音と共に、廊下で弾丸が跳ね回った。


 ビシッと、いやーな音。


 霊力――今は神力と言うべきかも?――で身体強化をした皐月は、撃ってきた半グレを引き離しつつ、権能の糸を伸ばした。


 吹き抜けで、丸見えだ。


 今の廊下から飛び出しつつ、反対側の内廊下へ着地。


『待ちやがれ!』


 パンパンパン!


『いででで! てめえ、俺を撃ちやがったな!? 食らえ!』


 パンパン! パン!


『ぐほっ!?』


 素人が銃を持って、せまい場所にいるから、誤射も。


 怒り狂った半グレが撃ち返し、同士討ちで全滅。


 呆れた皐月は走りつつも、突っ込む。


「何やってるんだか……」


 腰の左右から糸を伸ばして、それを縮めることで、低空を滑っていく。


 空中で、姿勢を保つ。


「それにしても……」


 見たところ、かなり良い銃だった。


 切り詰めたカービンの小銃なぞ、半グレが手に入れられるとは思えない。


「見つけ――」

 ゴッ!


 空中での膝蹴りを受け、飛び出してきた半グレは顔面を凹ましつつ、吹っ飛んだ。


 後頭部から床に激突したまま、動かない。


 構わずに、チラッと後ろを見た皐月は、いったん着地して、走り出す。


 角を曲がれば――


「いた――」


 数人の半グレが、特殊部隊ごっこ。


 壁に張りつき、縦一列で角から登場する予定か?


 速度を落とさない皐月は、逆手に構えたナイフでなぞるように切りつけて、どんどん進んでいく。


 権能の糸を固めれば、刃物ぐらいは自由自在。


 服ごと、片腕を斬る。


 喉を横一文字。


 最後に、顔面を横なぎ。


「いでっ!」

「……がはっ!」

「おい、何が――」


 半グレたちの間に挟まるよう、全身を使っての立ち回り。


 格好つけず、横一列で銃を構えていれば、反撃できたろう。


 1人が痛みと怒りで、思わずトリガーを引けば――


「おまっ!」

「ふざけんな!」


 至近距離で数発のライフル弾が当たった半グレは、その場に崩れ落ちる。


 まだ生きているものの、内出血ですぐに死ぬ。


 残った1人は撃ち尽くしたことで、我に返った。


「お、おい? ……ケンジ? ダイ?」


 顔面を切られたことで視界がない半グレは、オロオロしながら周りを見るも――


 シュッ


 皐月が逆手のナイフで首を切りつつ、走り去った。


 後ろで、噴水のような音と、人体が床にぶつかる音。


 相手の銃を奪わないのは、安全性が不明だから。


 ゲームでは、現地調達だ! と、ほざくが……。


 敵の保管庫に入り込み、こっそり拝借する。というシチュでもなければ、まず自滅する。


 クリーニングのように、整備をしているのか?


 弾丸の種類と品質は?


 いったん分解して、各パーツの状態や嚙み合わせをチェックし、組み立て直すことが最低ラインだ。


 まして、わざとらしく置かれた銃は、触るか、持ち上げた瞬間に爆発するブービートラップ!

 

 組み合っている敵のホルスターから銃を抜き、撃つ。


 このテクニックはあるが、非常用。


 とある映画では、それで倒した後に、渋い顔の主人公がすぐに敵のハンドガンを捨てて、自分の銃に持ち替えていた。


 単純に、俺は刑事だから、説明が面倒になる。という話かもしれないが……。

 

 そういうわけで、皐月は自分の武器だけ。



「見つけ……」


 飛んできた、棒手裏剣。


 それは、片目に刺さった。


 叫んでいた奴は倒れ、ピクリとも動かない。


 訓練を受けていない半グレは、30分も経たずに、ほぼ全員が死んだ。



 廃ビルで元の場所へ行ってみれば、半グレ『刃陣はじん』のリーダー高影たかかげと数人が立ち尽くしていた。


「遅い! ……てめえ! 俺らのダチは、どうしやがった!?」


 高影の叫びに、皐月はあっさりと返事。


「くたばった! バカに銃を持たせちゃ、ダメだよ? ボクらを撃ち殺して、どーするの?」


 室矢カレナの声も。


「そこの連中で、全員ですね……」


 いきなり現れたカレナに、高影は後ずさりしつつ、叫ぶ。


『てめえ! どこから!?』


 無視したカレナが、皐月に尋ねる。


「もう、いいですよね?」


「うん……。そっちで、消しておいて」


 高影は汗をダラダラと流しつつ、ふところのハンドガンを握るも――


「俺を呼び出すとは、偉くなったもんだな? で、どいつだ?」


 男の声で、振り向く。


耳四手みみしでさん! お疲れっす!! ちょうど良かった……。そこにいる2人が、俺らを舐めやがって! お願いします!」


 ズボンのポケットに両手を突っ込んだままの、スーツ男。


 ドスドスと、肩を張った歩き方だ。


 後ろの2人は子分だろう。


 耳四手は額に怒りマークがついている雰囲気で、その方向をねめつける。


 ドスの利いた声で、周囲を震わす。


「ああ゛っ!? まったく、しょうがねえな……。この借りは高いぜ? おい、てめえら……………お疲れ様でぇえええええええっす!!」


 高影と話した後で、カレナと皐月を見た男。


 彼はポケットから両手を出し、すごい勢いで頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る