第113話 新たなるチャレンジャー!

『このは、役に立つだろ? 頼むよ! 腕のいい弁護士、つけてくれ!』


 面会室。


 透明なアクリル板で仕切られた、被疑者サイド。


 そちらに座っている沢々さわさわ炭火すみびが、頭を下げた。


 アクリル越しに座っている男は、人の足元を見る。


「つっても、なー? 今まで『俺は金持ち』と、ウザかったし! 自分で探せよ? だいたい、その態度は何だ?」


 あまりに世間体が悪いことで、誰も弁護を引き受けない。


 国選弁護人では、まともな対応を期待できず。


 切羽詰まった炭火は、観念した。


『お願いします! 高影たかかげさんが最後の頼りなんです!!』


 完全に降参して、頭を下げた炭火に、若い半グレの頭はニヤッと笑った。


「わーった、わーった! 俺らが懇意にしている先生に話しておく……。出てきたら、きっちりと恩を返せよ?」


『はい! それは、もう……』



 高影は面会室から出て、同じグループの奴らとつるむ。


 地下の薄暗いクラブに、高い酒が並んだ。


 同じテーブルの悪党たちが、気安く話し合う。


「ふーん? あの室矢むろや槇島まきしまが、沢々のヤクパーティーに出席していたんだ? すげーな!」


「あの年で!? 芸能界は怖いねえ……」

「俺らより、ヤベーなww」


「んで、どうするの、タカちゃん?」


 友人と言いつつも、上下関係がある雰囲気。


 問われた高影は、グラスを傾けた後で、ガンッと置いた。


「決まってる……。このネタは、俺ら『刃陣はじん』のもの! 大物は搾り取るだけよ?」


「だよな!」

「そう、こなくっちゃ!」

「あの2人かー。ウへへ……」


「どう追い込む?」


 自分で注いだ高影は、一気飲みした後で、答える。


「時間をかけたら、他も気づく。同時にガラを押さえて……。ヤクをぶっこむか、手早く廻しちまおう! それを撮影しておけば、もう逆らえない。あとは、2人が持っている全て……。体だけじゃなく、人脈、金、信用! 全部を吸い取っちまうぞ!! あいつらは、俺らで独占する」


「「「おおっ!」」」


 ピリリリ ピッ


「俺だ。……へえ? ちょーどいい、タイミングだな!」



 ◇



 ガチャッ


「あー、疲れたね!」


 テレビ局の控室に戻ってきた、プリムラの3人。


 先頭の『川奈野かわなのまどか』が、ドアの下で差し込まれた封筒に気づいた。


 かがんで拾い上げ、後ろのカレナに渡す。


「室矢さんに、だって!」


「ありがとう……」


 カレナは裏まで見たが、差出人の名前は書かれていない。


 封を開けず、スタスタと持ち歩く姿に、まどかは興味をなくした。


「私たちは、先に戻りますね? さようなら」


「……あ、うん! お疲れ様!」



 ◇



 珍しく電車で移動する、室矢カレナと槇島皐月さつき


 周囲のモニターや吊り広告には彼女たちのCMやバラエティー、雑誌の宣伝があり、チラチラと見られている。


 他の乗客は、芸能人クラスの美貌だが、あまりに堂々としていて、逆に本人かどうか迷っている感じ。


 会話の流れで判断しようと、注目するだけに留まっている。


 その女子2人は、横に並んだ状態。


 どちらも窓の外を見たまま、念話で話し合う。


『さっきの手紙は、どこから? ラブレターやファンレターじゃないよね?』


『半グレの1つです! 沢々炭火が、「室矢と槇島もタワーヒルズの薬物パーティーにいた」と漏らしたようで……』


 ため息を吐いた皐月が、ぼやく。


『始末しておけば、良かったのに!』


『これも、友釣りでしょうか?』


 プシュー


 駅名のアナウンスが流れて、出入りする乗客たちの姿。


 それに交じり、カレナと皐月も降りた。


 カードを取り出した皐月が改札にタッチさせながら、突っ込む。


『で? まさか、「今回も逮捕させろ」とは言わないよね?』


『言いませんよ! 都合よく、廃墟が集まっているエリアを指定されたから――』

『今度は、暴れていいと……』


『皐月……。後ろの人たち、撒きますよ?』

『ハイハイ』


 プリムラの2人と気づいたファンか、スクープ狙いのマスコミは、相手が急にブレて消えたことに驚くも、そこまで。


 異能による身体強化と、それを活かせるだけの体術による高速移動は、目で追えない。


「あ、あれ?」

「もっと早くに声をかければ、良かった……」




 ――東京の下町にある廃墟エリア


 廃ビルの1つに、半グレの集団が待ち受けていた。


 入口の見張りに追い立てられ、ガランとした空洞になっているフロアを歩く。


 ガラスのない窓から差し込む日光で、まだ見える。


 すると、反響する声。


『よお! お前らが、プリムラの室矢と槇島か! ふーん……。テレビで見るよりも、可愛いじゃねえか?』


 リーダーらしき男は、ストリート系の服装でイキった。


 取り巻きが、それに同意する。


 高影と名乗った、半グレ集団『刃陣』の頭は、きっぱりと言い切る。


『ここに来た時点で、うすうす分かってるだろうが……。改めて、言うぞ? てめーらが沢々のパーティーにいたことは、本人から聞いた! 黙っていて欲しければ、俺らに従え!』

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