第100話 囲んで権力で叩く

 『川奈野かわなのまどか』が通っている公立高校。


 平々凡々で、偏差値も部活動も、パッとしない場所。


 その校長室は突如として、日本の中心となった!



 ――ここからは戦隊ヒーローの番組として、お送りします



 あまりの事態に、残っていた管理職を集めた。


 その筆頭である校長が、自己紹介。


「わ、私が、――の校長です」


 中央に立っている1人が、手足を動かした後に、ポーズを決めた。


「文科レッド!」


 彼は、文科省に勤めているキャリアだ。


 今回の出動では、非常にやる気がある。

 なぜなら、悠月ゆづき財閥のバックアップを約束されたから。


 その横にいる男も、同じようにポーズを決めた。


「代議士ブルー!」


 最近、これといった動きをしていないなあ、と思っていたところに、出動要請を受けての登場。

 実は、ブルーの役を気に入っている。


「インフル・イエローや!」


 ギャグ枠に見えて、SNSや動画で大人気。

 つまり、インフルエンサーだ。

 敵に回せれば、一番厄介。


「委員会グリーン!」


 公立高校の話だから、お呼びしました。

 この人が電話すれば? と言ってはいけない。


「参院ピンク!」


 強化選手で実績を上げた後に、政界入り。

 女性ながら、体育大学の繋がりは無視できず。


「「「5人あわせて! 権力戦隊、デュカレンジャー!!」」」



 もはや、シャワーを浴びた後のように、ぐっしょりと汗をかいている校長。


「そそそ、それで、この度はどのような、ご用件ですか?」


 小刻みに震えているのも、無理はない。

 彼らは、権力を人の形にした5人だ。


 文科レッドが丁寧な口調で、説明する。


「そちらの高校に通っている女子生徒……。えー、1年の『川奈野まどか』さんの件で伺いました。転校の手続きをお願いします。今、すぐに!」


「か、川奈野は、ウチに在籍していますが……。どのような理由でしょうか?」


 校長の質問は、当然だった。


 けれど、委員会グリーンが口を挟む。


「君……。私が出向いたのに、そのような態度とは――」

「すぐに対応いたします! なければ、理由は作っておきますので!」


 インフル・イエローが、見かねた。


「グリーンはん……。今の質問はもっともやと、思いますで? どっちみち、書類に理由も書かな、あかんのですし」


「む……。失礼した! 君も知っているだろうが、川奈野くんは世間の注目を浴びている。そちらの手に負えないのでは?」


 ソファーが足りず、立ったままの校長は、ペコペコと頭を下げた。


「は、はい……。お恥ずかしい話ですが……」


「川奈野くんは、しかるべき高校に移ってもらう! 今のままで事件が起きれば、君たちの責任になる。……早めに頼むよ?」


「しょ……承知いたしました!」


 インフル・イエローが、補足する。


「校長先生! 川奈野さんのほうでも、手続きがいるんでは?」


「……ええ! 本人と保護者の承諾です。そちらの書類も必要ですね」


 文科レッドが、優しく告げる。


「川奈野さんへの説明は、こちらで行います……。あなたは高校として必要な書類を準備いただいたうえ、お待ちください」


「は、はいっ! ただちに……」



 高校の駐車場に戻った、権力戦隊デュカレンジャー。


 参院ピンクが、ぽつりとつぶやく。


「合体技……出せなかったわ」


 インフル・イエローが、すぐになだめる。


「い、いやいや! ピンクはん。あの校長先生は、もう観念しとったから! ……お?」


「どうしたの、イエロー?」


 ポンと手を叩いた彼は、名案を思いついた顔で叫ぶ。


「そうや! 元々は、週刊誌がスクープしたから! あいつらを残しておくわけには、いかんわ!」


 その指摘に、聞いていた4人がうなずいた。


「よし、行こう!」

「うむ……」

「乗り掛かった舟だ」

「いよいよ、合体技ね!」


 2台の車に分乗した彼らは、次なる悪の拠点へ向かう。




 ――『川奈野まどか』をスクープした編集部


「な、何だ、あんたらは!?」


「「「権力戦隊、デュカレンジャー!」」」


「「「爆裂! オーロラ・シャワー!!」」」


 今度は、合体技を出せたようです……。



 ◇



 川奈野まどかは紫苑しおん学園の制服を着たまま、通信制クラスにいた。


 まだ着なれないが、前の高校とは雲泥の差。


 視界に入る景色も、空気まで違うよう……。


「大丈夫だったか?」


 男子の声で、そちらを向けば、悠月ゆづき史堂しどうの姿。


「うん! 迷惑をかけて、ごめんなさい!」


 まどかは起立した後に、深々と頭を下げた。


 対する史堂は、パタパタと手を振りつつ、軽く応じる。


「いいって! 俺のせいで、騒ぎになったんだし……。っと! あのさ? 川奈野さんに、説明しておきたい事があるんだよ」


 史堂の視線を追えば、そこには――


 教室の出入口で、中を覗き込んでいる瀬本せもとゆい。


 同じく、紫苑学園の制服だ。

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