第99話 出動せよ! 権力戦隊デュカレンジャー!

「ねえ! いつ、結婚するの!?」

悠月ゆづき財閥の御曹司って、完全に玉の輿じゃん!」

「いいなー!」


「これぐらい、奢ってよ! どうせ、お金持ちになるんでしょ?」


川奈野かわなの! 俺、お前のことが好きで……」


「お金持ちの人、紹介してよ?」



 『川奈野まどか』の日常は、完全に破綻した。


 ただでさえ、全国のテレビに映っている芸能人。


 そこに、日本経済を動かしている財閥の御曹司とのラブロマンスだ……。



「凄いよねー! これ、買ってきたんだけど」

「ゆーちゃんも、まどかには勝てないって!」


 友人が、変わってしまった。



「お前をあんな奴に、渡したくないんだよ!」


 人気アイドルを欲しがっている男子が、次々に告白してきた。


「すぐにブレイクして、ほんとスゲーよ!」


 私がどれだけ下積みで、パッとしなかったと……。



「できれば、悠月君によろしく言ってもらえると――」


 校長すら、孫のような年齢である自分に揉み手をせんばかり。



 イジメ?


 冗談。


 誰もが、そのお零れにあずかろうと必死だ。



 校門を出れば、待ち構えているマスコミが押し寄せてくる。


「川奈野さん! 一言、お願いします!」

「悠月くんとは、どれぐらい進みましたか?」


 無視して、通り過ぎた。


「うーん。川奈野はねー!」

「はい。それで――」


 他の生徒が、勝手に答えている。


 引き返せば、マスコミに答えざるを得ない。


 まどかはこぶしを握りしめ、歩くスピードを速めた。




 ――1週間後


「無理せずに、休みなさい」

「そうだな……」


 憔悴した娘を見かねたのか、両親は気遣ってくれた。


 平日のうえ、他人の視線が気になり、外に出られず。



 まどかは自室のベッドの上で、ぬいぐるみを抱いたまま、泣いた。


「ひどいよ、こんなの……」


 彼女には、心当たりがある。


 高級料亭で密会した、瀬本せもとゆいだ。



 悠月史堂しどうから手を引け、という、ゆいの提案を蹴ったことでの報復……。


 そうとしか、思えない。



 ディアーリマ芸能プロダクションに電話して、社長に相談しようと考えたが、スマホに触っている指をとめた。


 あの人は、利益第一だ。


 それに、私は、悠月くんを懐柔しろ、という命令を受けている立場。


 だいたい、看板の瀬本さんを切ってまで、私の肩を持つわけがない。


 

 悠月くん。


 彼に相談すれば……。


 ダメ!


 そこまで迷惑をかけられないし、相談したところで……。



 室矢むろやさんと、槇島まきしまさん。


 気を遣ってくれるけど、同じ女子高生に相談しても……。



 警察。


 相談して……何になるの?



「はあっ……」



 体が、だるい。


 頭も痛くて、動きたくない。


 でも――



「遅かれ早かれ、こうなっていたんだろうな……」


 ベッドに寝転んだ『まどか』は、涙を拭いた。



 高校時代の思い出になれば、と考えていた。


 その結果が、これだ。



 ――まどかの公立高校


「川奈野さん。今日は、休みなんだ?」

「お見舞いに、行ってみる?」


「……会えなくても、何か渡すぐらいは」


 本人が不在のままで、話がどんどん大きくなる。



 女子は、金持ちとの出会いや、卒業後の就職先。

 もしくは、奢ってもらうため。


 男子は、自分の価値を証明するために口説きたい。

 教職員ですら、立身出世や、悠月財閥への転職を狙う。


 普通の女子である『川奈野まどか』は、失念していたのだ。

 有名になる、という意味を……。


 庶民がいきなり、アッパークラスの仲間入り。


 これに嫉妬する人間も多く、校内には多くのデマが飛び交い、便宜を図ってもらうためか、単純に推し始めた生徒との衝突まで。


 財閥のトップが絡んでいるため、臨時の職員会議でも議題に上がる。


「このままでは、収拾がつきません……」


「一部では、喧嘩による怪我人も出ています!」

「警察に介入されないため、対処するべきでは?」


「とりあえず……隔離しますか?」

「授業を受けさせないと!?」


「いえ……。保健室登校のように、教師が交代で見張りつつ」


「人気アイドルがいるのなら、活用してみては?」

「部活動の応援とか、良さそうですな!」

「彼女を目当てに部活が育てば、強豪校の仲間入り……」


 放課後には誰もが、『川奈野まどか』の話題だ。




 来客用のエントランス。


 そこに、スーツ姿の男が尋ねてきた。


「失礼! こちらが受付で、間違いありませんか?」


 外に面しているカウンター。


 隣接する事務室の人間が、面倒そうに近寄ってきた。


「すいません……。今日はもう、営業終了なんで! また、明日にでも――」


「私は、――と申します。では、明日に出直しましょう。あなたの氏名、所属をお願いできますか? 今日に訪ねた、という証明をしたいので」


「明日に来てくれれば……」


 渋る事務員は、スーツ男が差し出した名刺で、思わず二度見。


「あの……。そちらの方々は?」



 残り4人の自己紹介を聞いて、その事務員は文字通りに、全力で走り出した。


「しょ、少々、お待ちください!」



 走れ、事務員。


 自分が、クビになる前に!

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