第92話 生まれ持った才能の差
「カーット! ちょっと、たんま!」
プロデューサーの叫びで、スタジオの収録はピタリと止まった。
愉快な衣装でバックダンサーをしていた
「えーと……。室矢ちゃんと、槇島ちゃん! 別の人に代わってもらえるかな? 急いで!」
舞台衣装のまま待機していた
他のアイドルと一緒に、バックダンサーを務める。
続行された収録は、あっさりと終わった。
「はい、お疲れさーん!」
祭りの後のような雰囲気の、収録スタジオ。
視聴者から見えない部分には大型カメラとそのケーブルなど、機材やボックスが無造作に置かれている。
忙しそうに歩き回り、物を移動させているスタッフとは別で、
「お疲れ様でーす!」
笑顔で挨拶する『まどか』は、せっかくのユニットで自分だけ仕事をしたことに罪悪感を覚えた。
「気にする必要はありませんよ?」
「そうそう! まどかが出られて、良かった」
控室で声をかけたら、逆に気を遣われることに……。
まどかは私服へ着替えた後で、プロデューサーと、3人のマネージャーである若い女、
そっと、聞き耳を立てた。
「だからさあ! そこを何とか、ならない? あの2人は、使い物にならないんだよ!? 水口さん。お願いだから……」
興奮したプロデューサーは、大声だ。
いっぽう、マネージャーの水口は、弱り果てた感じ。
「ですから……。プリムラは3人のユニットで、受けられるのはバラエティーぐらいになっておりまして……」
「今のご時世でキスシーンどころか、男子との共演もNGって、どうなの!?」
「申し訳ございません……」
それを聞いた『まどか』は、せっかくのユニットでカレナと皐月がハブられていることを知り、複雑な感情が込み上げてくるも――
「あの2人、主演を食っちゃうんだよ! でも、あれだけの逸材に、『演技を抑えろ!』とは言いたくないの! 分かる? だから、室矢ちゃん、槇島ちゃんは、2人か、それぞれでドラマとかに出したいなーって……。恋愛の方面にしたほうが、絶対に売れる!」
あれ?
流れが変わったことで、まどかは冷や汗をかいた。
「ちょうど、ねじ込めそうな企画があるのに……。いっぺん、話してくれない? もう1人は、いないほうが良いと思うよ? あの子も頑張っているのは、分かるけどさ……。正直なところ、次元が違う」
プロデューサーの口説き文句に、水口は社長の方針ですからの一点張りで、平謝り。
「どうか、あの3人でお願いいたします」
「ん……。分かった! 社長に、俺の意見を伝えておいてね?」
私が要らない子で、実は真逆だった……。
呆然とした『まどか』は、フラフラと歩き去った。
内廊下のベンチに座り、スマホで、いつもチャットしている相手に愚痴る。
すると、返信。
:酷いねー! その2人、潰しておく?
物騒な返事をしたコクリコに、すぐ否定する。
彼女たちは、売れない自分と組んでくれたうえ、仕事をさせてくれたと。
:まどかが、そう言うのなら、いいんだけどさ……
◇
『この名刀は、室矢家の初代当主である室矢
明るい司会の声で、席に座っている本人が微笑んだまま、答える。
『そうですね……。彼が刀を使っていたのは、事実です。懐かしい……』
見たこともない、という返事をマイルドに。
だが、司会はそのニュアンスを無視して、脚本の通りに進める。
『室矢さんのお墨付きも出たところで! 専門家の方々に値段を出していただきましょう!』
ドラムロールの後で、デジタル数字が並んでいく。
『1,000万円! これは、すごい!!』
有名な鑑定士が訳知り顔で、説明を始める。
『はい……。彼は、異能者として――』
控室へ戻った、3人。
苦笑いの皐月が、カレナに言う。
「よく、キレなかったね?」
「私も、有象無象にぶちまけたりはしませんよっと!」
カレナは言いながらも、小上がりの座布団をつかみ、壁へ放り投げた。
腹が立っているらしい。
恐る恐る、まどかが訊ねる。
「やっぱり……偽物?」
「まあね……」
「刀は美術品で、ぶつければ折れて曲がり、刃が欠けます」
説明したカレナは、小上がりの畳に座り込み、用意された和菓子を食べる。
「そもそも、異能者が使う武器は、十分な強化に耐えられる物でなければ――」
コンコンコン
『すいませーん! 挨拶に伺ったんですけど……』
最近は、カレナと皐月の存在感が増しており、現場での扱いが見るからに良くなった。
女子中学生の新人では、あり得ない。
まどかはそう感じながらも、2人のついでに、愛想がいい芸能人から挨拶された。
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