第91話 名づけて、「処女いりませんか?」大作戦
ディアーリマ芸能プロダクションの社長室。
流れで、ソファに座った状態。
桔梗が、口火を切る。
「さて、川奈野くん……。君は、巻き込まれただけ」
「は、はい……」
恐る恐る同意した『まどか』は、対面の社長を見た。
桔梗が指摘する。
「だが、悠月財閥の御曹司に不愉快な思いをさせてしまった……。専属のタレントである君が、そもそもの発端だからな?」
まどかは、何も言い返せず。
それを見た桔梗は、結論を述べる。
「君は、悠月くんの相手をするように……。先に言っておくが、専属アイドルを辞める自由はあるが、オススメしない」
「なぜ、ですか?」
桔梗は改めて、状況を告げる。
「私が見た限り、悠月くんは我々に悪感情を持っていない。しかし、彼の実家がどう判断するのか、不明だ……。最悪のケースでは、悠月家への攻撃と見なし、我々が訴えられるか、内々で詰め腹を切らされる。下手をすれば、いきなり事故死か半殺しだぞ?」
ゴクリと唾を飲み込んだ、まどか。
桔梗は、話を続ける。
「彼に助けられた君が、体を張るべきだ! ……君が辞めて1人で逃げた場合、このディアーリマ芸能プロダクションとグループ企業は、原因となった君を総力で追い詰める! そのことは、事前に承知しておくように」
「ハ、ハイッ!」
ガクガクと首を縦に振る、まどか。
それを見た桔梗は、優しい声音に。
「あくまで、最悪の場合だ……。いずれにせよ、ウチに対するイメージを改善しなければならない」
「はい、そうですね……」
同意した『まどか』は、視線で訴えた。
ふうっと息を吐いた桔梗が、命じる。
「悠月くんは、君に興味があるようだ……。仕事という名目で、彼と会うチャンスを与えた。あとは、君次第……。頑張ってくれ」
まどかの視線は、まだ止まない。
桔梗が、もっと具体的に言う。
「彼は……あからさまな誘いを嫌うようだ。『彼に誘われた場合、絶対に断らない』という条件にする。体の状態が悪く、どうしても無理な時には、『いつなら大丈夫!』と、上手く説明するように」
まどかは、おずおずと告げる。
「あの……。私、未経験で」
「同じ女として、気持ちは分かるが……。これほどの相手は、そういないぞ? 『必ず、抱いてもらえ!』というわけではなく、健全に仲良くしてお別れも十分にあり得る。業務命令だから、悠月君とのデートはこちらで負担しよう! 金の心配は不要だ」
話し終えた桔梗は、ジッと見つめる。
まどかは、その視線を受けて、愛し合った男子と初体験をしたいです! という言葉をひっこめた。
指で
「本来の用件は、君と組む新人2名の紹介だったな? 少し、待ってくれ」
立ち上がった桔梗は、窓をバックにした役員机へ歩み寄り、顔写真を貼ったプロフィールを持ってきた。
応接セットの中央に置かれたガラステーブルの上へ、滑らせる。
「読みたまえ」
「はい」
手に取って、流し読み。
“
“
どちらも、外国人の女子だ。
芸歴は真っ白……。
「室矢って、あの『室矢』ですか!?」
「そうだ……。今は『室矢』の安売りだが、彼女は本物だよ」
まどかは桔梗の熱っぽい返事に、社長の推し? と勘繰った。
その雰囲気を感じ取ったのか、桔梗が仕切り直す。
「彼女たちと一緒に仕事をする気があるのか? という話だ」
困惑した『まどか』が、問い返す。
「自分で言うのは、何ですが……。私のような『売れないアイドル』よりも、同じ『室矢』の『
「彼女たちは無名の新人……。けれど、扱いが難しい。自然に接することができて、業界を知っている君が、適任だ!」
言われて、2人のプロフィールを見れば――
“ユニオンの公爵令嬢”
“槇島神社で崇められる存在”
なるほど。
これがキャラ作りではなく、ガチならば……。
どう接していいのか、悩むだろう。
桔梗は、プロフィールを見ている『まどか』に説明する。
「彼女たちのマネージャーは、
顔を上げた『まどか』は、驚いた声に。
「水口さんって……あの!? 養成所では、ぜんぜん見かけないのに……」
売れている芸能人ほど、レッスンに出ない。
首肯した桔梗が、淡々と続ける。
「私が呼んだ……。この2人は、少し特殊だからな? 君には、先ほどの悠月くんの件と、彼女たちとの芸能活動をしてもらいたい。……悠月くんと会うのは、君だけだ。しかし、彼女たちへの相談は構わない」
水口さんに見てもらえるだけで、
そう思った『まどか』は、すぐに応じた。
まだ仕事ができるのなら、選択の余地はない。
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