第83話 ご注文はシスターですか?-①
東京の日常を忘れられる、海の上に浮かぶリゾート地。
最新のアミューズメント施設や、そびえ立つホテル。
様々な飲食店に、海外の扱いでのブランドショップなど。
ネオ・ポールスターの夜は、賑やかだ。
夜の海をバックに、各種イベント。
カラフルな光が放たれ、花火も!
広い歩道は明るく、整備されている。
むろん、人間工学や心理に基づいて……。
そこを歩くのは、連休を楽しんでいる人々。
昔から続く観光地では、色がつきもの。
歴史的にも、旅人を泊める宿場町は、そういう仕組みだ。
けれど、現代で夜のお店を集めれば、女性客を逃す。
ネオ・ポールスターには、
免税店といった強みをアピールして、外国人との交流や語学研修と、独自のポジションを築いているのだ。
1人で個室にいる金髪
高校生というには大人だが、新社会人のスーツとも言いづらい。
蹴ったら痛そうな茶色のブーツで、ダンダンと床を叩いている。
ピリリリ ピッ
「
お菓子のバスケットや飲み物のグラスと並んでいたスマホを耳に当てたまま、彼女は話を聞く。
「
スマホの画面を触った美女は、ふうっと息を吐いた。
――港湾エリア
メガフロートの生命線である港湾。
大きく分けて、観光客を出迎える
そのうちの工業港。
海に面した倉庫群の1つに、“ダンスマウス・インダストリー” の文字。
この企業は、案内図の大半を占めている。
建物の中で鼻歌を歌う、外国人の男が1人。
高級スーツのまま、事務所の椅子に座っている。
その前には、女たちが横に並んでいる。
無為に過ぎていく時間に耐えかねたのか、1人が口を開いた。
「あ、あの……。ウシオンさん。面接は?」
高そうなヤスリで爪を削っていた男。
ポイソ・ウシオンは、ふっと息を吹きかけた後で、顔を上げた。
「ウィ……。君たちは、芸能界に入りたいんだっけ?」
返事があったことで、女はここぞとばかりに、アピールする。
「は、はいっ! ぜひ、御社の……マヴロス芸能プロから、デビューしたくて! 私は、過去に――」
「それは、いいから……。年は?」
女たちが、順番に答えていく。
全員の年齢を知った男は、ふむふむと
「君、残って! ……あとの子たちは、ボントゥール。これを持ってね?」
ガッカリした女性陣は、スーツ男から手渡された封筒を受け取り、出口へ向かう。
バタン
最後の女が出ていき、ドアが閉じられた。
それを確認した男は、残った1人を見る。
上機嫌の女は、期待に満ちた状態だ。
「わ、私、デビューできるんですか!? この人みたいに!」
マヴロス芸能プロの女優で、さっき退出した女性陣を含め、スカウトしてきた張本人だ。
番組のレギュラーがある現役。
それゆえ、全員があっさりと信じた。
男は座ったまま、腕時計を見た。
いかにも、高そう。
「お忙しいのなら、後日でも――」
「ノンノン! 私は、大丈夫だよ? もうすぐ時間だから……」
女は、自分に関することかな? と思った。
「ひょっとして、すぐに仕事ですか?」
「ああ、そうだよ! やる気があって、実にいいね……。彼らは時間を守る
『到着した……。今回は、そいつか?』
別の男らしき、くぐもった声。
女が振り返れば――
そこには、魚の頭をした人間がいた。
「ひっ!?」
後ずさった女は、その魚人間が大勢いることに気づいた。
彼らは、無表情のまま。
異形の姿による包囲。
先ほどの女性陣が出ていったドアは、もう見えない。
助けを求めるように、女がポイソを見るも――
「ウィ! ……代金は?」
交渉していた魚人間が、ため息を吐くような仕草で、近くの事務机の上にゴトッと金塊を置いた。
『1人か? ならば、これだけ……。お前も我らの同族とはいえ、調子に乗りすぎだぞ?』
「ビジネスだよ! 金塊を売りさばくのは、骨が折れる。他の手段にしないことを感謝してくれ」
『よく言う……。では、連れていく』
魚人間たちとグルだったと知り、スカウトされた女は真っ青に。
自分ではないことを祈りつつ、女優を見るも――
「ほーら、ご褒美だぞ? 高いから、ゆっくりと味わってくれたまえ」
ポイソが片手で握っているものを床に落としていけば、女優が弾かれたように駆け寄った。
犬が食事をもらうように顔を床につけながら、落ちた物体をガツガツと口に入れている。
尋常ではない雰囲気に、正気を失ったような声。
その様子を見た女は、最後の希望にすがる。
さっきの女性たちが……きっと!
自分が行方不明になれば、騒ぎになるはず。
この事務所で、一緒に面接をしたのだから……。
――同時刻
「わー! 1万円も!」
「太っ腹だねー?」
「何に、使おうかな……」
お断りされた3人はマヴロス芸能プロでもらった封筒の1万円――ネオ・ポールスターで使用するポイントの読取コード――を見て、ウキウキだった。
1人だけ残った女のことは、もはや頭に残っていない。
――港湾エリアにある、マヴロス芸能プロの事務所の外
ワンピースと同じ、濃紺色のベール。
それを被っている金髪の美女は、片目で覗く暗視スコープを見ていた。
緑色の視界の中で、魚人間たちが拘束した女を連れ出し、車に乗せている。
「
美女は、魚人間たちの拠点を突き止めたいようだ。
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