第78話 赤いコメット

 ――USFAユーエスエフエーサイド


 予めの約束で撃破されたMA(マニューバ・アーマー)は、膝をついた状態だ。


 RGX24『ファランクス』は人型ゆえ、罰を受けているような姿。


『俺だけ、こんな役回りかよ』

『腐るな、04! あとで、高い酒を奢ってやるから……』


『了解であります、隊長! ……ボトルですか?』

『馬鹿! グラスに決まっているだろう!』


 そのやり取りで、他のパイロットたちの笑い声。


 対戦相手のMA「りんどう」は、撃破の判定だ。


 04と同じく、地面に座り込んだまま……。


 ビ――ッ!


 警報音が鳴り、各機のデータが更新される。


『何だ? ……友軍? 模擬戦は終わったぜ!?』


 廃墟都市にいるMA部隊は、困惑する。


 全高4mの人型はそれに見合った火器を持ちながら、その場にたたずむ。


『シャーク・リーダーよりHQエッチキューへ! どういうことだ? 演習は完了したのか!?』


『こちらHQ! 我が軍のX-1「コメット」は無断出撃だ! 機体を停止させろ! 破壊も許可する!』


『シャーク・リーダー、了解!』


 RGX24『ファランクス』のリーダー機は、小隊に指示。


 『コメット』のアイコンを敵に変えつつ、散開させる。


 それぞれ敵から身を隠し、武装をチェック。


『各機へ! データリンク開始! 訓練通りに動けよ? あの機体は、まだ制御系が未完成のはず――』


 リーダー機の正面で、ファランクスとよく似た姿。


 レースマシンのように派手な赤色だ。


『な!?』


 すかさずマシンガンを撃つも、ドドドと重低音が響く頃には、コメットが横に回り込む。


 至近距離からの連射。


『ふっ!』


 リーダー機は被弾によって後ろへ吹き飛び、廃墟ビルに叩きつけられた。

 模擬弾のようで、装甲は無事。


 撃破と見なされ、その場で停止する。


 再び、女子高生のような、可愛らしい声。


『1つ……』



『隊長ー!』


 02が、コメットを撃った。


 けれど、赤いラインを残しつつ、別の廃墟に隠れるよう――


『行ったぞ!』

『任せろ!! 壁越しに当ててやる!!』


 03の両手で持つキャノンが、コメットの予測進路へ向けられた。


 大砲のような音で、一撃必殺の弾丸が――


『外れた!? どこへ……』


 弾丸の横をすり抜けてきたコメットは片手のナイフを投げて、03の頭部を破壊した。


『2つ……おっと!』


 足を止めず、そのまま離脱するコメットは、ナイフで接近戦を挑んできた02に注目。


 滑るようなホバー移動により、廃墟都市で逃げ回る。



 追いかける02は、コメットの加速についていけない。


『ぶつかるのが、怖くないのか!? こっちはレッドゾーンまで――』

『回避しろ、02!』


 その叫びで、中のパイロットが前を見れば、垂直に上昇したコメットの代わりに廃墟ビルの壁。


『うわああああっ!?』


 正面から突っ込んだものの、とっさに肩のシールドを前にして、ビルの外壁が脆くなっていたことで、パイロットが失神したのみ。


 ただし、彼の機体は、崩れたビルに埋もれた。


 女子の声で、撃破数をカウント。


『3つ! はい、終わり!!』


 広い車道でふわりと減速したコメットは、両足で着地。



 赤色の巨大ロボットが、勝利者として君臨する。


 その時に、通信が割り込む。


『こちらは、USFA陸軍である! 貴殿は、我が軍の兵器を不当に占拠しており――』

『あー、うるさい、うるさい……。返せば、いいんでしょ? どこへ向かうの?』


 可愛らしい声であることから、応対している軍人が思わずひるんだ。


『……少女?』

『どうすればいいのと、聞いているんだけど?』


 気を取り直した軍人が、命じる。


『まず、武装解除を――』


 ガシャン

 

 ボンッ!


 両手の武装を手放し、ハードポイントにあるものは緊急の投棄。


 廃墟都市の車道は、その重量物でコンクリートが凹む。


『はい。終わったわよ?』


 疲れた雰囲気で、軍人が告げる。


『B-35ハッチへ向かってくれ……。今、そちらにデータを――』

『知ってる』


 ゆっくりと歩き出したコメット。



 ――B-35ハッチ


 実弾による銃を構えた、RGX24『ファランクス』の部隊。


 4mの巨人に囲まれつつ、コメットは立ち止まった。


 遠巻きに、歩兵もいる。


 拡声器により、この場の指揮官が叫ぶ。


『貴殿の罪は、未確定だ! こちらに協力するのなら、最大限に取り計らう! 希望すれば、弁護士もつけるぞ? バカな真似をせず、素直にMAを降りてくれ。頼む!』


 その願いを聞き届けたように、X-1『コメット』が片膝をついた。


 指揮官は背中のハッチが開くのを待ったが、進展なし。


 緊張した面持ちで、無線のマイクを握る。


「強制開放だ! 全機、スタンバイ! ……歩兵部隊は、逃走した場合に備えろ。発砲を許可する!」


 回り込むように、歩兵が展開した。


 1機のファランクスが、外からコメットを開放。


 小銃を構えた歩兵が見守る中で、バシュッと背中の装甲が開いた。


 トリガーに指をかけたまま、緊張する歩兵たち。


「第4分隊、ムーブ!」


 命じられた7人は銃口を向けながら、中のコックピットを覗き込むも――


「誰も……いません。こいつは無人です!」


 銃口を下げた歩兵の叫びに、指揮官が走った。


「そんな、馬鹿な!?」


 幽霊を見たような兵士をかき分け、指揮官は、X-1『コメット』のコックピットを覗き込んだが――


「いない……。ほ、本当にか……」


 思わず、その場にへたりこんだ。


 士官とは思えない醜態を笑う者は、1人もおらず。


 誰もが、近くの同僚と顔を見合わせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る