第71話 “消滅の夜” の再来
遊びに来た
「ふーん……。駐在所の
わりと、ドライな感想だった。
「事前にアドバイスがあったにせよ、運のいい人です。
睦月は、テーブルを挟み、椅子に座っているカレナを見る。
その視線に気づいたカレナは両手を下げて、皿に置いた。
「昔に行われた『桜技流の活動停止』は、怪異の実情を知らせつつも警察から離脱するために、有効な手でした。現場の警官がどんどん犠牲になったことを除けば」
「当時の現場にしてみれば、『過去の事情がどうであれ、今は警察官なのだから、自分の仕事をしろ!』が本音だろうね?」
その突っ込みに、カレナは同意する。
「ええ……。当時の桜技流も、『幕末の政変に負けたことで隷属させられ、お前らに命とお金を搾り取られていたんだ。そっちの事情なぞ、知ったことじゃない!』です」
「平行線だね……。目先だけ見れば、桜技流が悪者か」
首肯したカレナは、息を吐いた。
「警察を疑問に思う人は辞めますから。残るのは、桜技流を嫌う人ばかり……。今になって考えれば、当時の筆頭巫女だった
「
カレナが、付け加える。
「四大流派に加えて、重遠への借りも増える一方でした……。ともあれ、犠牲になった警官の関係者は桜技流を恨んでいます。同じ立場で手を取り合い、独自のネットワークを築いているでしょう」
「
緊張した睦月の声に、カレナは苦笑した。
「興味がないから、見ていません……。私の未来予知は因果の追跡で、万能にあらず! 桜技流の暗殺、アンチ桜技流による粛清、交通事故のどれでも、同じ話ですよ? ……警察の干渉は、当分ないでしょう」
「そっか……。アンチであろうとなかろうと、警察が僕にやることは御神刀の取り上げ!
睦月にしてみれば、大事な御神刀を奪いに来た、憎き敵だ。
片桐の死亡は、どうでもいい。
「そういえば、スティアは?」
「重遠が生まれ変わっていないから、そろそろ帰ると……」
――市街地
最後の観光を楽しんでいたスティアは、警官と刑事に囲まれた。
ドラマのような光景に、野次馬がスマホを向ける。
1人の刑事が、歩み出た。
「スティアさん?
クレープを食べているスティアは、何気なく言う。
「多冶山……多冶山……ああ! そのことね? ウォリナーは知らないけど……」
「詳しい話は、署で伺いますから……。乗ってください」
自供したことで、刑事は柔らかい口調になった。
片手で、開かれたパトカーの後部座席を示す。
「私、もう帰るから……USと言えば、忘れていたわ! ありがとう!」
残ったクレープを一気に食べたスティアは、握った
拳が隠れるぐらいだが、周囲の光が
地上ではあり得えない音が響き、その一方で、凄まじいジェット噴射や様々な光が踊っている。
これは、ブラックホールだ。
本能的な恐怖を感じた警官が、腰のリボルバーを抜いた。
「う、動くな!」
「待て! 周囲に当たる!!」
制止の声は、間に合わず。
パンッと乾いた破裂音が響けば、他の警官も次々に発砲する。
様々な角度から、弾丸がスティアに殺到するも――
どれも軌道が歪み、彼女の拳にある黒い球体へ吸い込まれた。
周囲が騒然とする中で、スティアは拳のブラックホールを収縮させ続け、消滅させた。
「ふ――っ! 私も、やればできるじゃない!!」
一仕事終えた雰囲気のスティアは、満面の笑みだ。
黒い球体があった手を開いては、閉じる。
「全員、銃を下ろせ! これ以上の抵抗は、罪を重くするだけ――」
周囲の警官に命じた人物が警告するも、スティアの挑発。
「いいわよ? 話を聞いてあげるわ! ついてこられるなら、ねっ!」
言うが早いか、スティアが光の柱に包まれ、上空へ飛び去った。
ロケットの打ち上げのように、ほぼ垂直で……。
その場にいる全員が空を見上げて、スティアの帰還を見送る。
「あの先って、金星じゃね?」
この
『日本から発射された光はロケットではないと、公式発表がありました! 金星の地表へ飛び込んだことは、観測されたものの――』
警察が捜査に行く予定は、今のところ、ない。
金星を周回している人工衛星に、委託したままだ……。
『本日、USFA司令部が丸ごと消えました! ブラックホールと同じ現象のようです! 北米にある基地が一夜で消滅した、“消滅の夜” の再来で――』
スティアは自分の寝込みを襲った連中に、お礼参りをしたようだ。
指摘してくれた刑事のおかげで、報復を忘れずに、熟睡できる。
おやすみなさい……。
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