第62話 恒星の中に棲む「生ける炎」
ブロロ ザザザッ
山奥に、1台の車が止まった。
ガチャッと開いた後部座席から、スーツ姿の男が出てくる。
「お疲れ様です!」
「っす!」
彼は周辺にいる男たちが敬礼する中で歩き続け、その場の中心にいる男へ話しかける。
「……いい加減にしてくれませんかね?」
もう1人のスーツを着た人物が、ゆっくりと、そちらを見た。
新しく登場した男は、改めて告げる。
「
よく見れば、啖呵を切った彼は、
いっぽう、片桐は何も答えない。
ジッと見ていた男は、ため息を吐いた。
「捜査の必要があるのかどうかは、我々が判断しますので! 彼らは撤収させます。何かありましたら、ウチへご相談ください。……全員、撤収しろ!」
「ハッ!」
「機材をまとめろ!」
待ちかねていたように、現場の鑑識や刑事、制服の警官がテキパキと動き、それぞれの車両に乗り込み、去っていく。
現場に残った2人は、西部劇のように向き合ったまま。
県警本部のキャリアが、口を開いた。
「では、私も失礼します……」
会釈をした男は、車の後部座席に乗り込んだ。
その車はUターンした後で、走ってきた道を戻る。
気まずいのは、片桐のお世話係にされた
あの野郎……。
カードバトルみたいに手札の俺を捨てることで、他の連中を救ったわけか……。
内心で、自分を見捨てた県警本部のキャリアに怒りを覚えた。
一吾郎は自分のうなじを触りながら、尋ねる。
「あの……。ど、どうしますか?」
幽鬼のように立ち尽くす片桐は、ゆらりと、彼を見た。
一吾郎は、場の空気を変えるべく、わざとおどける。
「いっそのこと、県警本部に突っ込んで、直談判をしますか? 俺も付き合いますよ!」
冗談を聞いて、片桐の神経質そうな顔が少しだけ笑みに。
「それは止めておこう……。君!
記憶をたどった一吾郎は、自分の腕時計を見た。
「今の時間なら……。
「では、そちらへ向かってくれ……」
走っているパトカーの中で、運転席の一吾郎が話しかける。
「1つ、尋ねても良いですか? ……片桐警視正は、なぜ御神刀を?」
どう考えても、本庁にいるキャリアの言動ではない。
それゆえ、気になったのだ。
質問された片桐は、助手席で前を見ながら答える。
「二度と、私のような者を出さないためだ……」
やがて、槇島シスターズの出番が近づいたことでの人混み、車の列に、行く手を
「すみません。ここからは、車だと近づけないようで……」
「構わない。……ところで、君の名前は?」
「萩原巡査長です!」
初めて笑顔になった片桐は一吾郎を見たまま、お礼を言う。
「ありがとう、萩原くん! おかげで、助かったよ……。あとは自分で何とかするから、君は元の駐在所なりに復帰してくれ」
ガチャッと、側面のドアを開いた。
その様子を見た一吾郎は、言い知れぬ不安に襲われる。
「あの! ここ、車がないと、移動は無理ですよ?」
「分かっている……。あの駐在所までの道は分かっているから、歩いてでも自分の車に辿り着くさ! これ以上は、君を巻き込みたくない」
バムッ
助手席のドアが閉められ、スーツ姿の片桐は人混みを縫って、明山神社へ向かう。
運転席に残された一吾郎は、茫然とする。
迂回して、美須坂駐在所へ戻り――
「ああぁあっ! 嫌みなキャラだったら、最後まで、それを貫けよ!?」
パトカーの中で絶叫した一吾郎は、ハンドルを叩いた。
外で驚く人々を無視したまま、自身も運転席のドアを開ける。
「また呼び出されるぐらいなら、追っかけたほうがマシだな! どうせ、これ以上の左遷や冷遇はねえんだ!」
吹っ切れた一吾郎はパトカーを施錠した後で、姿が見えなくなった片桐を追いかける。
しかし――
ピタリと立ち止まって、振り返る。
「何だ……アレ?」
山々だけの一角で、激しい炎が立ち上っている。
「火事? ……いや、無線はない」
不思議と周りに延焼せず、イルミネーションのように光り続けていた。
初めての現象のうえ、見ていると不安を掻き立てられる。
「急ぐか……」
独白した一吾郎は警官の制服のままで、明山神社へ向かった。
――明山神社
境内のステージでは、いよいよ、槇島シスターズの出番。
横一列に並んだ、セーラー服のJCたち。
流される曲に合わせて、足がリズムを刻み、同じタイミングで両手が動き出した。
コミカルだが、センターと左右対称のポジションで、そのセンターも入れ替わっていく。
全身を使ったダンスは、5人ぐらいで揃えることが前提。
歩きながらのポジション替えと、肩のシェイク、両足を揃えてのジャンプ。
笑顔を絶やさず、手の振りも忘れずに。
会場は、大盛り上がりだが――
槇島シスターズは、一吾郎が見ていた方角を向いたまま、立ち止まった。
演出ではなく、驚いているのだ。
「睦月ちゃーん!?」
「どうしたの?」
「
ギャラリーは、せっかくの興奮に水を差されて、戸惑うばかり。
まだ昼であるのに、周囲が赤黒くなった。
夕暮れとも違う、ベッタリと纏わりつくような不快感。
「何……あれ?」
観客の1人が、遠くの空を指さした。
そこに浮かんでいる、炎に包まれた巨大な物体は……。
かくして、祭りの2日目に、役者が揃った。
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