第57話 強襲! US特殊部隊!!-①

 時刻は、4人のオタクたちが自転車に乗り、槇島まきしま神社の本殿を目指している頃。


 日が暮れた森は、奈落の底と同じだ。

 その一角に、人工的な灯り。


 洋風の戸建て。

 避暑地にありそうな建物では、室矢むろやカレナが妹分いもうとぶんのスティアと一緒にいた。


 美須坂みすざかの商店街で買ってきた肉、野菜、魚介類により、バーベキューをしている。

 裏庭に置いたアウトドア用のコンロでジュージューと焼き、各々で食べていく。


 市街地でやれば、ご近所トラブル待ったなしだが、ここに煙や匂いを気にする隣人はいない。

 ド田舎の数少ないメリットだ。


 ウッドデッキにある、洋風のテーブルと椅子に座った、美少女2人。


 山盛りのご飯に焼いた肉や魚を置き、焼き肉のタレをかけるスティア。


 カレナは平皿で切り分けた後に、一口サイズで食べる。

 下味をつけているため、美味い。


 自然体で過ごしており、見るからにお嬢さま。

 キャラを作らないほうが上品だ。


 満面の笑みを浮かべるスティアは、ふと気づく。


「そういえば……。USFAユーエスエフエーのマークがついた封筒があったけど?」


 バーベキューコンロで料理をとったカレナは、自分の席に座りながら答える。


「あなたがUSの人間……いえ、だから返却するようにという脅迫でした。日本の大使館にいる駐在武官のウォリナー氏から……。ついでに、私のスカウトです! 自国の戦力アップに加えて、あなたの制御とユニオンへの嫌がらせもあるでしょう。『ブリテン諸島の黒真珠』として扱い、公爵令嬢に見合った待遇……」


 はしを止めたスティアは、眉をひそめた。


「……受けるの?」


「まさか! それに、私が日本の『室矢』を特別扱いせず、真偽が不明であることから、『ひとまず回収したい』の域を出ていません。今回の本命は、多冶山たじやま学園で大暴れしたスティア」


 次のオカズとご飯を口に入れた本人が、もぐもぐした後で、首をひねる。


「あそこにいたのは、日本警察だけでしょ?」


 微笑んだカレナが、人差し指を上へ向けた。


 釣られて、スティアも夜空を見上げる。


です……」


 カレナが答えを述べたら、スティアは脱力した。


「あー! そっか……。私、グラウンドに出たから……」


 その時、USの軍事衛星に捕捉されたのだ。


 全身を包み込む、黄金のアーマー。

 カレナ謹製のギアを身に着けてのコズミック・エクスプロージョンは、校舎1つを蒸発させた。


 一連の動きを見ていたUSは、彼女こそスティアであると、結論を出す。



 今度は、カレナが質問する。


「どうしますか?」


「論外ね! USは私を確保することで、他国に睨みを利かせていただけ! 勝手に所有権を主張されても迷惑よ」


 スティアは馬鹿にしたような笑いで、締めくくった。


 食事を続けているカレナも、それに合わせる。


「そうですね。まったく、勝手なもの……。ところで、スティアはどうする予定ですか? ここに滞在しても構いませんよ? アイも、別の場所にいますし」


 USの駐在武官がはっきりと脅している状況で、暢気のんきな会話だ。


 聞かれたスティアは箸を置いて、考え込む。


「うーん……。でも、カレナやアイの世話になるのは……」


 以前の深堀ふかほりアイとの学校生活で、精神的に成長したようだ。


 スティアは、話を続ける。


重遠しげとおは、まだいないし……」


 本音は、そちら。


 そもそも、室矢重遠が生まれ変わったと勘違いしての、地球への帰還だ。



「ハーイ! ちょっと、いいかしら?」

「周りの景色を楽しみつつ、駅まで行くつもりだったが……。道に迷ってしまってな」


 ネイティブ並みに流暢りゅうちょうな発音で、外国人の男女だ。

 暗闇から出てきて、裏庭の端に立つ。


 ウッドデッキの美少女2人を見たまま、頼み込む。


 若い女のほうが、頭を下げた。


「勝手に入ってしまったことは、謝るわ! ただ、どこへ進めば、最寄り駅に辿り着けるのか……」


 続いて、若い男も。


「ここまで何もない場所とは思わなかった! その駅も、今の時間帯だと最終電車に乗れないだろう……。今晩だけ、泊めてくれないか? 屋根の下なら、床でも構わない! ……手持ちは少ないが、礼もする」


「同じ外国人として、お願い! 他の灯りは見つからなくて……」


 若い女の言葉が終わって、美少女2人の返事を待つ。


 ウッドデッキで食事中のスティアは、カレナのほうを向く。


 カレナは優雅に座ったまま、男女2人を見た。


「移動する手段や宿泊できる場所は、他にありますよ? ……自分の部隊が待機している車両へ戻りなさい」


 ――IGUイグーのケイシー曹長とハニガン軍曹?


 USFA陸軍の特殊作戦ベースで、Infinite Gladius Unit、“無限の剣の部隊” と呼ばれる兵士たち。

 それも、異能者の部隊だ……。


 “異能者の軍事利用は自国の防衛だけ” という条約があるため、これが事実なら、USの立場が悪くなるだろう。


 焦った2人は隠している銃を握りつつ、言い訳。


「今は非番よ? 私たちが観光をしたら、ダメなの?」

「俺たちは親日家だぜ?」


 言い当てられたことで、ケイシーとハニガンは嘘をつけなかった。


 フッと笑ったカレナは、最後通牒を出す。


「こんな山奥にも警官はいます……。電話をすれば、駐在所から迎えに来るでしょう」


「それは遠慮しておくわ!」

「美人に嫌われたようで、残念だよ……」


 捨て台詞を残したIGUの2人は、足早に立ち去る。


 そして、美須坂みすざか駐在所にいる萩原はぎわら一吾郎いちごろうの死亡フラグも消えた。

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