第46話 殺されたはずの人物
顔が隠れるぐらいの花束を持った、
その老人を見た
「これから、どうするのですか?」
女子中学生から視線を外した源二は、青空を見上げた。
すぐに戻す。
「さてね? 長年の目的も、これで果たした……。どうせ私も、先は長くないでしょう。せいぜい、余生を楽しみますよ!」
そこで、真顔になった。
「
審判のタロットカード。
正位置は、自分がしてきたことの評価、または区切りだ。
市民ホールで行われた、
観客席のカレナは壇上の彼に、それを向けていた。
ひょいと肩を
「知りません……。私が、どうやって?」
「フフ……。まあ、そういう事にしておきましょう! では、失礼」
ウインクした源二は片手を振り、自分の車に乗り込んだ。
走り去る車を見送ったカレナは、気を遣っていた周りを見ずに、スタスタと歩き出す。
――
畳の上でゴロゴロしていた槇島
「おかえりー! どうだった?」
「睦月……。少し、場所を変えませんか?」
――繁華街
女子中学生が近づく場所ではない。
けれど、売っているタイプとは真逆の室矢カレナと槇島睦月は、ジロジロと見てくる人々を無視して、雑居ビルの1つへ。
道路に出ている看板はどれも、お酒や色を示している。
すれ違えないほどの通路や階段を歩く。
狭いエレベーターに乗り、階数のボタンで暗証番号のように押す。
そこからは、加藤源二と同じ。
彼が、多冶山学園の物品を置いていた部屋だ。
今は警察に提出したようで、何も残っていない。
ガランとした、窓のない物置。
長居をしたい場所にあらず。
「ここが、どうしたの?」
睦月の質問に、カレナは微笑んだ。
「とりあえず、座りましょうか?」
カレナが片手を振れば、貴族が使いそうなチェアが2つ。
向かい合うように座った後で、カレナが口を開いた。
「今回の事件は……多冶山学園で行われた委託殺人。主犯は、その学園の理事長だった冷角の家長……当時のですけど」
「ああ、うん……。代議士の冷角小刃斑が、自宅で急死したって……。やっぱり、殺されたのかな?」
首を横に振ったカレナは、説明する。
「どちらかと言えば、自殺するように仕向けられた……。ネットに委託殺人の契約書や支払い、名簿をアップされて、昔に依頼した家が黙っていません」
「ネットで公開したのは、カレナだよね?」
「ええ……。徹底的にやっておかないと、こちらまで飛び火しました! 今の彼らは保身だけで、余計なことを考えません。『全ては冷角家と小刃斑が悪かった! 私は何も知らない!』で、逃げ切れるかどうか……。政治家は代替わりしても、次の選挙が厳しいですけど」
睦月は、率直に尋ねる。
「悪事をやっていた連中が追及されるのは、当然だね! 定年退職した刑事の加藤源二はここを拠点に、ずっと多冶山学園のヤマを追っていた……。やっぱり、自分の子供や家族を殺されたから?」
「その表現も合っていますけど……」
言葉を切ったカレナは改めて、告げる。
――加藤源二は、多冶山学園の生徒でした
睦月は、すぐに数える。
「定年退職だから、60歳ぐらいで……。当時は10歳か、そこら?」
「そうですね……。あの学園も、全ての生徒を殺していたわけではありませんよ? 相応の金を積んだうえに秘密を守れる家からの依頼だけ、受けていました」
ごくりと唾を呑み込んだ睦月は、勢い込んで突っ込む。
「え? でも、学園の委託殺人を知ったら、そいつも殺されるんじゃ!? 仮に友人がいなくなっても、事故死か行方不明の扱いだよね? 刑事になってまで、しつこく追い続けるかなあ? 高卒から始めれば、ほぼ一生だよ!?」
「はい。友人が消えても、教師の説明で納得するしかありません。しかし、疑いようがない状況となれば、話は別です」
嫌な予感がした睦月は、恐る恐る、質問。
「あのー。ひょっとして?」
満面の笑みを浮かべたカレナは、あっさりと肯定する。
「ええ! 彼も『不要な子供』として、処分の対象になりました」
座ったまま、腕を組んだ睦月は、思わず
「よく生き延びられたね……。あれ? 10歳の子供が見つかったら、殺人学園か実家に戻されるんじゃ?」
首を
「では、順を追って、『加藤源二の人生』を話しましょう! それが、多冶山学園で行われていた連続殺人の1つですし……」
聞き役の睦月は、こくりと
改まったカレナが、口を開く。
「そもそも……加藤源二は多冶山学園で殺されました」
「はいぃいっ!?」
睦月は珍しく、すっとんきょうな声を上げた。
「え? 加藤は、つい最近に定年退職をしたんだよね? おかしいよ! それとも、身代わりがいたの?」
両手を向けて、まあまあ、と抑えたカレナは、説明を続ける。
「加藤源二……混乱するから、この名前で統一しますね? は、多冶山学園で、敷地内の寄宿舎と教室を行き来する生活でした」
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