第33話 退魔特務部隊が全滅するまでの軌跡-③
カン カン カン
上に伸びている、鉄のハシゴ。
高所作業に使いそうな煙突を思わせる場所を登っていく、退魔特務部隊の隊員。
真っ暗なうえに狭く、かなりの恐怖だ。
彼は重そうなアサルトスーツで、肩がけのスリングに短機関銃を背負う。
伸ばした手で次の鉄棒を握り、足を片方ずつ動かしていく。
たまに停止して、ヘルメットの照明により、上の様子をチェックする。
ライトは片手で握れるぐらいの小型だが、治安維持用で、その範囲だけは昼のような明るさだ。
一番危険な先頭はやがて、ゴールに辿り着いた。
戦闘用のグローブをつけたままの手で触ってみれば、天井のようなハッチ。
ヘルメットの灯りを消す。
押し上げてみれば、ギギギと
ブービートラップを警戒して少しだけ持ち上げ、伸ばした指揮棒のような物体で周囲を探りつつ、そこについたミラーを確認。
連動したワイヤー、爆発物は発見できず。
危険な人影も……。
長いハシゴがある空間と同じで暗闇だが、外からの日光が差し込んでいるらしく、相対的に明るい。
小さなミラーには教室らしき内装と、学習机や椅子。
窓に備え付けの厚いカーテンを閉めているようだ。
覗き棒を戻した隊員は、音を立てないよう、ゆっくりとハッチを閉めた。
伸縮式の金属棒を小さくして、元の場所へ仕舞う。
(ここから、中に入れるようだ。敵影なし! ……俺が先行する! 援護してくれ! ステルス・エントリー)
(了解! ステルス)
下で続く隊員からの返事を聞きながら、落下しないよう両足で踏ん張り、片腕をハシゴの鉄棒に絡ませつつ、太ももの側面につけたホルスターから拳銃を抜いた。
右手でグリップを握りつつ、左手で上のスライドを半分だけ後退させる。
初弾、ヨシ!
スライドを戻し、ホルスターに仕舞う。
手で肩がけのスリングを動かし、背負っているサブマシンガンを体の正面に。
ヘルメットの灯りで照らしつつ側面のレバーを動かすことで、安全から3点バーストに……。
着用しているアサルトスーツが擦れて、シュッと小さな音を立てる。
二番目に続いている隊員から、いいぞ! という合図。
フ――ッ!
ヘルメットと銃口の下にあるフラッシュライトをつけ、両手でサブマシンガンを構えた隊員がいよいよ、上のハッチに片手を当てた。
ギギギッ バタンッ!
カンカンカン キュキュッ ドカドカ
先頭の隊員はすぐに撃てるよう構えたまま、視線と銃口をぐるりと回転。
2つの灯りが、暗い教室を一周した。
『クリア!』
その間に2人目、3人目も教室の中で立ち上がり、フォーメーションを形成する。
『異常なし!』
『クリア!』
第四小隊の先遣チームは、短機関銃を構えたまま、摺り足で動く。
暗い教室のため、クラブのように、彼らの丸い灯りが踊り続けた。
天井にも……。
しかし、いくら教室が広くても、たかが知れている。
暗闇に目が慣れているため、机と椅子が
短機関銃のストックを肩付けしていた隊員は、ようやく銃口を降ろす。
ライトの灯りも、下を向いた。
『何も……いないようだな?』
『あれだけ登って、ただ暗い教室かよ……』
『やれやれ。とんだ貧乏くじだ!』
そう言うが、内廊下に面した窓と引き戸が全て、外から封鎖されている。
慌てて作業したのか、ゾンビ映画のバリケードのようだ。
とある隊員が両手で持つ短機関銃のライトを向けて一通り見るも、首を
『何だ、こりゃ?』
『それより報告だ! 第四小隊より司令本部――』
無線のスイッチを押していた隊員は、途中で口を閉じた。
窓のカーテンを開けようとした隊員に叫ぶ。
『待て! そこに何かいる!!』
3人は一斉に、サブマシンガンの銃口を向ける。
銃身の下にあるフラッシュライトが、一点を照らし出す。
それは、よくある学校の椅子に座っていた。
小さな子供ぐらいで、朽ち果てたミイラ。
手足は引きつれて、硬直したまま。
頭髪と目鼻は見えず、全身が網目状になっている。
『ミイラ……か?』
『のようだな?』
トリガーから指を離した面々は、それでも灯りとして、銃口を向けたまま。
『可哀そうに……。この学校の犠牲者だな? 俺が確認する!』
『了解』
『じゃあ、それが済んでから、まとめて報告しよう』
射撃姿勢から、銃口が下げられた。
ヘルメットの灯りだけで言い出した隊員が近づき、その場で屈む。
『せめて、名前が分かるものが――』
人類よりも前に、地球を支配していた。
時間を操り、死と滅びをもたらす者。
この旧支配者の名前は――
「クタァール・ウティウス……。こんな場所に……」
驚いた
「誰?」
「旧支配者の一柱で、その権能は――」
『
『み、見ていなかった』
慌てふためく、2人の隊員。
教室の椅子の上に置かれた、子供のミイラ。
クタァール・ウティウスの傍には、1人分の
「クタァール・ウティウスに触れば、膨大な時間が一気に経過します……。例外なく、ね?」
カレナの説明によれば、柴田は一足先に、警察どころか人生を辞めたらしい。
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