第23話 地元を牛耳る者たち

「本日は、地元の名士が集うパーティーでして……。出入りのレンタル業者がいますから、お召し物をドレスに――」

「必要ありません。招待状を示したうえ、制服も正装だと思いましたが?」


 控え部屋でソファーに座っている室矢むろやカレナの言葉に、氷山花ひょうざんか家のメイドが、失礼しましたと引き下がる。


 ガチャッと、外から施錠されたことで、カレナは立ち上がった。




「やあ、お待たせ! 今日は、来てくれて嬉しいよ。僕がエスコートするから、やっぱり、ドレスに着替え……おい? どこへ行った!?」


 笑顔で入ってきた氷山花鷹侍たかじは険しい顔になり、お付きを問いただした。




 ――パーティー会場


 ホールになっており、立食の形式だ。

 すでに礼服を着た人が詰めていて、グラスを片手に、それぞれ談笑中。


 しのざと高校のセーラー服でうろつくカレナに眉をひそめる紳士、淑女も。


篠里しのざとが、こんな場所に……」

「嫌ですわ。早く、どこかへ行ってくれないかしら?」

「やめなさい! 彼女は、ボランティアの手伝いさ」


 聞こえるように、わざと言っている。


 ここは、地元の支配者たちの宴。

 偏差値が低く、評判が悪い高校の生徒がいれば、さもありなん。



 カレナは全く気にせず、会場を横断した。


 すると、1人のスーツ男が、声をかけてくる。


「君が、室矢さん? 鷹侍くんに呼ばれたのかな?」


 そちらを見れば、ニコニコしている、優しそうな男。


 カレナは、あっさりと返す。


「ええ、そうですよ。県警本部、刑事部で取調べが得意な三原みはら巡査部長……。前に担当した刑事がポンコツ過ぎたから、腕利きを出してきたので?」


 目を見開いた男は、すぐに答える。


「驚いたな! 初対面で、まだ来たばかりの君に見破られるとは……。それも、君の能力かい?」


「答える必要はあります?」


 首を横に振った三原は、苦笑した。


「別にないよ……。君の取調べを担当した北稲原きたいなばら署の河守かわもりさんも、悪気があったわけじゃないから」


 言外で、あまりイジメないでやって、という刑事に、カレナは返事をする。


「犯罪者は皆、そう言いますね? 『そんなつもりじゃなかった』と……」


 困った顔の三原は、挑発に応じない。


 代わりに、名刺入れで抜いた1枚を差し出す。


「良かったら、だけど……」


 カレナはあっさりと受け取って、自分のケースに仕舞う。


 唖然とした三原は、後頭部を掻きつつ、少しだけ素の顔を見せる。


「これは、調子が狂うわけだ。まあ、困ったら気軽に連絡してよ! 本部勤務だから、多少は顔が利く。……今日のパーティーでは、どんなを見せてくれるのかな?」


 どうやら、カレナの思考を読みづらいようだ。


 それに対して、本人が答える。


「現市長の不正の摘発……と言ったら、面白いですか? フフ、冗談ですよ! 黒い部分がない政治家はいません。それにしても、警察とそっち系が仲良くいるのですね?」


 カレナの視線の先には、正装を着込んだ、鋭い目つきの男たち。


 慌てた三原は、降参する。


「もう勘弁して! じゃ、僕は警備に戻るから……」



「む、室矢さま! 鷹侍さまがお呼びです! どうぞ、こちらへ!!」


 よほど慌てているのか、周囲の目を気にせず、執事の1人が小走りでやってきた。


 息を吐いたカレナは、視線を集めながら、案内に従う。




『本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます! 最初にこのパーティーの主催者である氷山花市長から、お言葉を――』


『えー。市長の氷山花です……。この度は紳士淑女の皆様とお会いできて、大変嬉しく存じます。御田木みたき市の益々の発展を願い――』



 くだらない……。


 カレナの心情は、それだけ。


「大丈夫! 僕がついているから、安心して――」


 役者が出るタイミングをうかがうための舞台袖。

 市長の息子である鷹侍が、タキシードで隣にいる。


 さり気なく、手で触れてきたから、その前にかわした。

 顔を歪めた鷹侍は、一切見ない。


 底辺高校のセーラー服を着ているカレナは、明るいステージにいる氷山花市長のほうを向く。



『今日は皆様に、ご報告させていただきたいことが……。ご存じの通り、不肖ふしょうの息子である鷹侍は『室矢』の1人です! 非能力者の代表として! 次代を担う若人として! 御田木市の明るい未来のため! 親の私を超えるべく、日々、邁進している次第です。そして、今日! その息子にふさわしいパートナーをご紹介したく……』


 

 政治家らしい演説をしていた氷山花市長は、思わぬ乱入者に、演壇の上のマイクから手を離した。


 その女子高生は毅然としたまま、命じる。



退きなさい……。私が喋ります」



 室矢カレナは、このパーティー会場で最も低い序列のセーラー服のまま、再び表舞台に立った。


 いっぽう、氷山花市長も、さる者。


『おお! ちょうど、紹介したい人物が来たようですね。……もう1人の室矢さんに、自己紹介をしてもらいます!』


 舞台袖にいる息子を見たが、そちらはタイミングを逸し、陰になっている部分で立ちすくむだけ。


 あいつはまだまだ、度胸が足りんな……。


 そう思った氷山花市長は、笑顔で、カレナに席を譲った。


 指示を与えるため、息子がいる舞台袖へ退避する。



 演壇に立ったカレナは、パーティー会場から降り注ぐ、好悪や興味本位の視線を浴びつつ、卓上のマイクを握った。


『私は……室矢カレナです。初代当主である室矢重遠しげとおの妻の1人であり、その式神だったもの……。さらに――』



 ユニオンの公爵令嬢にしてナイト、『ブリテン諸島の黒真珠』でもあります。



 カレナの発言を聞いた者たちは、信じられない、という表情ばかりだ。

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