第24話 『ブリテン諸島の黒真珠』による演説
『さて……。今の私が申し上げても、説得力がありませんね? 現に多くの方が失笑しているか、ご友人と話しておられます』
演壇に立っていた
「これは、
心当たりのある面々が、カレナへの視線を外し、あるいは顔を伏せた。
バレエのように、くるっとターンをすれば、カレナは一変。
ロココ調の、黒いドレスを
足元まで隠れて、くびれたウエストと対になる、大きな膨らみ。
長袖で、こちらも立体的なデザインだ。
胸元は少しだけ開いているが、間違っても胸を強調するわけではない。
いわゆる、ボールガウン。
女性向けのイブニングドレスとしての最上級。
ヴィクトリアンで、欧州の貴族が着そうな感じ。
けれど、神秘的なカレナにぴったりだ。
「「「おおおっ!?」」」
見守っていた群衆は、一瞬で着替えたことに、どよめく。
小声で話し合っていたグループも慌てて、ステージを見る。
「素晴らしい!」
「今のは、どうやったんだ?」
「こんな異能、聞いたことがない……」
「なるほど。『室矢』を名乗るだけはある……」
サクラのいない拍手が、パーティー会場を満たしていく。
履歴書を見ただけで不採用にされる底辺校。
同じような職場がせいぜいの女子は、この瞬間にプリンセスとなった。
さらに――
ホール全体が暗くなり、高い天井には宇宙の映像。
会場が、どよめく。
「このまま春の星座を解説しても良いのですが、お忙しい方々の時間を割くわけには参りません」
カレナが発言したら、フッと宇宙の映像が消えた。
ほぼ同時に、照明が戻る。
思わぬ余興で、場が盛り上がった。
ホールの全員に注目された黒の少女は、コツコツと演壇の後ろへ戻り、くるりと振り向く。
『私は室矢
もはや、カレナを
場に吞まれたとも、言うが……。
「君は! 僕と一緒にいるべきだ!!」
黒のドレスのまま、帰ろうとしたカレナは、舞台袖から現れた男子を見る。
タキシードだから、彼女のボールガウンとの対比で、ダンスに誘う一場面。
「室矢を背負っているのなら、それに見合った貢献をする義務がある! 僕だって、非能力者でありながら、必死に頑張っているんだ! 君の力は、
「お断りします。やる気がない私よりも、似合いの女性が見つかるでしょう」
カレナは演壇から、端の階段に向かう。
コツコツと、足音が響く。
「ぼ、僕にも、チャンスをくれないか!? いきなり婚約や付き合えとは、言わない! でも、お互いに、まだ高校生じゃないか? 室矢重遠の偉業は、僕も知っている。だけど、昔の話だろう!? 今を生きる僕たちは、前を向くことが必要だ。仮に……君がその姿で永遠を生きる存在でも差別しないし、いずれ初代と同じように僕の死を悲しめるぐらいには――」
パチンッ
カレナが、指を鳴らした。
すると、完全武装の兵士たちが、パーティー会場に湧き出てきた。
最新の装備を身に着けており、サブマシンガン、小銃。
ヘルメットと黒いシューティンググラスで、その表情は見えず。
軍靴が床と擦れる音や、銃を構える音が、会場に響く。
「キャ――ッ!」
「な、何だ!?」
「いったい、どこから?」
逃げ出そうとするも、兵士たちに銃口を向けられ、動きが止まる。
そのまま、銃口の向きでコントロールされ、小さな集団に。
「どうしました? 重遠に代わるほどの男になるのでは? 彼ならば、この程度はすぐに鎮圧しました」
カレナは、状況を理解できず、ステージ上から見回している鷹侍に忠告する。
「今回は、手を出しません。二度と、重遠の名前を出さないように! そちらの権力で私や関係者に圧力をかけることも……。御覧の通りに、実力行使となれば、そちらが不利ですよ? 私は殺されようが、死にません。その場合は、無警告で報復します! ……あなた方も、ですよ?」
冷たい視線で、ステージから、銃口に怯えているゲストを見下ろす。
再び指を鳴らせば、その場を制圧していた15人ほどの兵士たちが、煙のように消えた。
茫然としたままの鷹侍は片手を伸ばすも、カレナは無視して、背を向けた。
短い階段を下りて、そのまま正門の方角にある壁へ歩く。
スーツを着た1人が反射的に上着の裾を跳ね上げ、ホルスターから拳銃を抜いた。
そのまま、ドレス姿のカレナへ銃口を向ける。
「警察だ! その場で両手を上げて――」
「よせっ!!」
制止した声は、本部の刑事である
銃口に背中を向けたままのカレナは立ち止まり、右手を上げる。
次の瞬間、セミオートマチックの銃身を握っていた。
何も動かしていないのに、緩めていく右手のスキマから、構成しているパーツが1つずつ落ちる。
ネジと嚙み合わせを無視して、摩擦を忘れたかの
完全に分解された拳銃は、たった今、スーツの刑事が両手で構えていたものだ。
その男はエア拳銃のままで、状況を理解できない。
振り返ったカレナは、笑顔だ。
「これ、使い物にならないので……。始末書は、そちらで書いてくださいね?」
常軌を逸した光景に、銃を抜いていた刑事や警官は後ずさった。
進行方向が空いて、カレナはゆっくりと壁のほうへ――
「こら、あかんね……」
京都弁だ。
そちらを見れば、黒紋付の和装をした若い男。
2枚のお札を交差させた、丸のマークをつけている。
氷山花市長による懇願。
「せ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます