第15話 槇島睦月が手に入れた証

 室矢むろや重遠しげとおは、重婚をしていた。

 文字通り、多くの嫁がいる生活。


 日本の四大流派に加えて、国内の警察、自治体、政治家との折衝も……。


 意識的に、『異能者の代表』として行動。

 本来ならば会うことすら難しい勢力とも、面識があるのだ。


 国内のパワーバランスを維持するため、非能力者サイドは必死に頑張ったが、時すでに遅し。

 海外の有名な異能者グループの女も絡んでおり、下手に触れば、どんどん爆発する存在となっていた。



 人目がある場所だけでも、重遠の力は絶大。

 戦術どころか戦略級と言っても、過言ではないほどに。


 幻覚や疑似体験ではない……という前提だが。



 重婚を扱う中央省庁、つまり総務省の管轄に置かれ、将来的には室矢家を解体するか、子供を受け入れるはずだった。


 ところが、その目論見は正妻の南乃みなみの詩央里しおりの奇策――自分たち限りで室矢家をなくす――によって、潰えたのだ。


 提案した時に、詩央里はまだ女子高生。

 『千陣せんじん流の宗家の嫁』に選ばれたのは、伊達ではなかった。



 もはやしがらみで雁字搦めだった、室矢重遠。


 では、関わった女の中で、誰がお似合いか?



 この点は、諸説ある。


 本人は、南乃詩央里を第一にしていたが。

 霊力ゼロだった頃からのパートナーで、本人曰く、原作知識による影響も大きかった。


 ハーレムを作り始めた後には、やり直しが利かない落ち物ゲーよろしく、処理しきれなかった小物がスキマに詰まったような状況。


 どういう連鎖反応で、ピョーンと上へ飛び出して、終わるやら……。


 胸の大きい順から、スイカ、メロン、パインと名づけよう!



 ともあれ、詩央里でなければ、対処できず。


 ハーレム管理を丸投げしている重遠には、彼女を一番にしなければ! という義務感も加わっていた。



 実は、彼をほぼ最初から見守っていて、最後まで対等に接する女が1人いた。


 槇島まきしま睦月むつきだ。



 全ての制限を取り払えば、彼女こそ、重遠とお似合いだった。


 元々、日本を裏から支配する勢力のボスには向かない、一般人からの転生。

 だからこそ、同じように気安く接しつつも甘えさせてくれる睦月に依存していた。


 重遠は最期まで、それを自覚せず。

 いっぽう、睦月は全て知ったうえで、ずっと彼の傍にいた。


 他の槇島の姉妹は、先に死んでしまう重遠に入れ込みすぎないよう、注意した。

 けれど、たまにある当番で相手をする時には、睦月を優先する。



 後追いをしかけて、他の姉妹が止める騒ぎとなったものの、睦月は1つの考えを持つ。


 高天原たかあまはらへ通い、実直に頼み込んだ末に、御神刀を手に入れた。


 それは――




 槇島睦月は、かつての室矢重遠と同じ和装で、救出した外間ほかま朱美あけみの襟首を離した。


 地面にへたり込む朱美を見下ろしながら、ため息をく。


「カレナ! 後は、よろしく!」


「ええ……。周囲を気にせず、やってください」


 いきなり、別の女子の声が響いた。


 室矢カレナだ。



 目を見張った木席皮きせきがわが吸っていた1本を落としつつ、叫ぶ。


「てめえら! いつまでも、うるせえぞ!! そいつのためにも気張れや! こいつらは1人も逃がすな!」


 急に倒れた仲間に声をかけていた連中は、その命令で、ゆらりと立ち上がる。

 ベルトに挟んでいたリボルバーや刃物を手にした。


 気合を入れるためか、雄叫びを上げている。



 その様子を見たカレナは、朱美の傍に立ちながら、面白そうに言う。


「手伝いますか?」


 睦月は腰で結んだ角帯かくおび、その左腰に差している脇差わきざしをスラッと抜く。


 短いながら、日本刀の冷たい色を見せつつ、答える。


「いらない! 僕の百雷ひゃくらいだけで十分……」


 右手で持つ脇差を振り、ヒュッと鳴らした後で、切っ先を天に向けた。


 スポーツの大会で選手宣誓をするような構図だが――



天雷縦横てんらいじゅうおう!」



 遠くの鉄橋に、明かりが見えるだけ。


 まさに暗闇の中で、ゴロゴロと雷の音が響き出した。


 空に光が走り、その数はどんどん増えていく。



 異常だ。


 このエリアにだけ、ひしめくような雷の群れ。



「お、おい?」

「ビビんなって! ただの雷だ!!」


「おらあああっ! 食らえっ!」


 殺気立っているところに、近くで雷がドガアアッ! と落ちて、焦った1人が銃口を向ける。


 パアンッと乾いた銃声が響くも、素人がろくに狙いもつけずに撃ったことで、両腕を下から振り上げた勢いのまま、上方向へ飛んでいく。


 それを皮切りに、他に銃を持っている奴らが発砲する。


 先ほどの宣言もあって、睦月がこの事態を引き起こしていると、察知したのだ。


 けれど、上空の雷が落ちてこないか? と不安でならないため、睦月に当たらず、むなしく風切音を出すのみ。



 いっぽう、狙われている睦月は、紫色に光っている刀身で、自身もバチバチと放電している。

 まぐれ当たりの弾丸が飛んできても、脇差の振りで消し飛ばした。


 そのスピードは、まさに雷。


 彼女の周囲は、吹き荒れる突風と、雷の音や光で、冷静になれない状態だ。



 それを成している少女が、両手で脇差を構えつつ、明暗のある表情で告げる。


「今の僕は、雷と同じだよ……。あの時の重遠のように……」



 子供を作れず、滅びるまで永遠に生きる彼女は、こう思ったのだ。


 重遠があの決戦で使った御神刀、それを自分と彼のあかしにしたいと……。



 その結果が、今の姿だ。

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