第14話 脅しと無力化の差

 乱入してきた、2台の車。

 降りた木席皮きせきがわは高そうなスーツ姿で、両手をズボンのポケットに入れている。


 見るからにそっち系の面構えで、ビキビキとしたまま、静かに言う。


長門ながと……。てめーには、ガッカリだ。女子1人を連れてくる簡単なお使いすら、このザマとはな?」


 カランビットナイフで槇島まきしま睦月むつきと戦っていたリーダーである長門たくは、地面に座り込んだままで平身低頭。


「す、すみませ――」

「もう黙ってろ! バカの1つ覚えみたいに、謝るんじゃねえ! てめーの不始末は、あとで話すぞ? さーて、そこのガキ! ……そう。てめーだよ!!」


 不機嫌そうに言った木席皮は、次に睦月を見た。


 そのままで、話し出す。


「俺が会いたいのは、室矢むろやカレナだ。スマホで呼び出せ! ……お前、あいつの親友なんだろ? 調べはついているんだよ」


 立っている睦月は、全く動かない。


 それを見た木席皮は、意外にも怒らず、傍で控えている手下へ命じる。


「おい! あいつを出せ!」


 2台目のバンで、側面のドアが開かれた。


 ガアーッと、レールを滑る音の後に――



朱美あけみ!?」



 睦月が叫んだ通り、バンから押し出されてきたのは外間ほかま朱美だった。


 隣の若い男に、拘束された状態。

 両手を縛られており、猿轡さるぐつわを嚙まされている。


 涙目で何かを言っているようだが、言葉になっていない。



 木席皮は、朱美について語る。


「ま、そーいうこった……。安心しな! 俺たちと同じ方向に歩いていたから、車で送って差し上げたんだよ。人けがない夜道は物騒だからなあ? ……こいつがどうなるのかは、てめーの態度による」


 言葉を切った木席皮は、スーツの上着から1本を出した。


 すかさず、隣の男がライターで火をつける。


 フ―――ッ


 夜空に、一筋の煙が立ち上った。


「これを吸い終わるまでに決めな? おっと! 本人確認もいるか……。少し喋らせてやれ」


 目くばせを受けた男が、朱美の首に手を回しつつ、もう片方でナイフを突きつけた。


「いいな? 叫んだら、承知しないぞ!?」


 別の1人が、彼女の猿轡を外す。


 口が動くようになった朱美は、睦月を見た。



 ◇



 この場を支配した木席皮は、余裕がある態度とは裏腹に、緊張していた。



 長門拓は、凄腕の異能者だ。

 こいつが実力行使に出ながら、あっさりと負けた以上、まともに戦っても勝ち目はねえ……。


 ここで逃さず、型に嵌めなければ、サツが出てくるだろう。

 嗅ぎ付けられる前に、どこかへ連れ込んで、他人に話せない状態にしねーと……。


 とりあえず、数人にやらせるか?

 中毒にするのは、まだ早い。


 いつ、どうやって処分するのかは、あとで決めるとして……。


 くそっ!

 ここまで、話を大きくしやがって!!



 室矢カレナは、あの『室矢』を名乗っている。

 名誉市民のように、くだらん称号ではない。

 俺の女にすれば、何でも手に入るだろう。


 こんな田舎で下の幹部を気取っても、しょうがねえ!

 せっかく、都心で成り上がるチャンスだってのに……。



 まったく。

 こいつらは、使えん!


 5人がかりで女子高生を襲ったうえ、今だって俺が注意を引いているのに、あのガキの死角から襲うこともせず……。



 1本目を吸い終わり、地面に落とす。


 吸ガラを革靴の底で踏み消さず、苛立たしげに、次を取り出した。

 咥えたまま、槇島睦月を見る。


 吸っている間は、自分が困っているとバレずに格好をつけられる。


 

 小学生と言ってもいい、童顔と身長。

 そのくせ、異常なまでに場慣れしてやがる……。


 ここへ来るまでに同じ高校の制服を見つけたから、人質にしてみたが――


「ツイてるな、俺は……」


「は?」


 傍に立つ部下が、間抜けな声を上げた。


 それを無視して、睦月の出方をうかがう。



 隣の男に捕まっている外間朱美は涙声で、睦月に呼びかける。


「ご、ごめん! でも、心配だった――」

「朱美! どっち!?」


 睦月の問いかけで、朱美はビクッと動く。


 その後に、大声で叫ぶ。



「ピ……ピ――マン!!」



 隣の男が朱美に、猿轡をかませた。


「叫ぶなと言っただろうが! ああ?」


 朱美の首に添えたナイフを押し付けるが、まだ早いと感じた木席皮は、すぐに止める。


「黙れ! ……んで、室矢カレナを呼ぶのか、呼ばないのか?」


 木席皮は最後通告を言うも、表情を消した睦月は、周囲の小石や砂を吹き飛ばすように霊圧を放射した。


 強いプレッシャー。

 周りの空気が、肌を刺すように感じる。


 彼女はそのシルエットを変えながら、つぶやく。



「響け、百雷ひゃくらい……」



 舌打ちした木席皮は、殺さない程度に人質を切り刻むしかないと覚悟した。


「分かった! それが、てめーの答えだな!? ……そいつを痛めつけろ! 死なない程度でな?」


「うっす!」


 答えた男が朱美の首筋から顔にナイフを動かして、ほおを軽く切ろうと――



 男の目の前に、睦月。


 気づけば、いたのだ。



 セーラー服ではなく、あい色の小袖と黒袴くろばかま


 剣道着と似たカラーリングだが、量産品とは思えない様子。



「なっ!?」


 驚いた男は、とっさに朱美の首筋へブレードを突きつけ、睦月を脅そうと試みた。


 けれども、ナイフを持つ右腕は本人の意思に反して、全く動かない。



 睦月は自身の権能による糸で、あやとりのように男の右腕を拘束した。


 理解できず、隙だらけの男に対して、正面から抱き着くような位置で左手を首の後ろに添えつつ、右手であごの下からクイッと持ち上げる。



 コキャキャッ



 男の首が睦月の両手の動きに伴い、横へ捻じれた。


 骨が鳴る音の直後、そいつの全身で力が抜ける。

 両ひざが地面について、ドサッと横へ……。


「は?」

「え、何だ?」


 周りの男たちは一部始終を見るには角度が悪く、油断していたことから、パニックになるだけ。


 和装になった睦月は、朱美の襟首を持ちながら、一瞬で移動した。

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