第13話 クロース・クォーターズ・コンバット【睦月side】

 夜の郊外で始まった、1人の女子と5人ほどの若者による決闘。

 つまり、僕だね!


 フルフェイスの男たちは、緊張している様子だ。


 まあ、現代社会で、殺し合いの経験はないよね……。



 僕の返事がないことで、男たちは半包囲から全方位に。



 獲物は、そこらで取ってきた鉄パイプ、凹んでいる鉄バット。

 

 ナイフは折り畳みかあ……。



 連携は、素人レベル。


 刃物にいたっては、すぐに壊れる安物だし。

 鈍器を用意した奴のほうが、まだ考えているよ。


 僕に殺す気がなくても、倒れた時に自分を刺す事故か、すっぽ抜けたナイフが誰かに当たって死ぬわ、これ……。



 注意するべきは……カレナを呼んだら解放すると言っていた奴だけ。


 体格が良いし、雰囲気と周りの扱いで、針鼠ハリネズミアイアンズの頭だと分かる。


 東南アジア系っぽいし、エスクリマ、シラット辺りかな?

 どちらも武器術による接近戦……特にナイフが得意だから、面倒なんだよね。

 密着されたら、あれよあれよという間で、ズタズタに切り裂かれる。


 おまけに、霊圧から、異能者だと分かった。


 今は包囲から下がった位置で、ジッと見ているし。

 やりにくい。



 スクールバッグを片手で持ちながら、両足でトントンと、小さくジャンプ。



 小柄な女子高生で、学校帰りのセーラー服。


 武器を持っているはずがないし、襲われる心構えもないはずと……。



 案の定、ナイフを向けながら、1人の男が近づいてきた。


『いいから、こっちに来い――』


 スクールバッグを投げつける。


 空いている手で、乱暴に払いのける男。


 その隙に間合いを詰め、こっそりと持っていた革ベルトをしならせ、下から鞭のようにナイフを持つ手を叩く。


『いでっ!?』


 バシッと鋭い音が響き、油断していた男は訳も分からず、ナイフを取り落とす。


 ナイフが地面にぶつかって音が響く前に、握っている革ベルトでヘルメットへ二撃目。

 頭を揺さぶるようになぞったから、目の前の男はその振動でへたりこむ。


 驚く周囲に構わず、霊力による身体強化で、地面をえぐった。


 へたりこんだ男が目隠しで、すれ違うように、前へ突っ込む。



 一瞬で、別の男のクロスレンジに。


『なっ!?』


 慌てて、ナイフを持つ右手を振りかぶるも――


 甘い甘い。


 背中で男の正面にぶつかりながら、左ひじを入れる。


『うごっ!』


 胴体の正中線に強い衝撃を受けたことで、奴の動きが止まった。

 その場で振り返りつつ、革ベルトを頭に叩きつける。


 内側から右腕を叩けば、持っていたナイフが外側へ飛んでいく。



『てめええぇええっ!』


 鉄パイプで殴りかかってきた奴には、止まっている男の膝の後ろを押し、膝立ちの盾にすることで回避。


 別の1人が鉄バットで殴りかかってきたから足さばきで避けつつ、振り下ろした右腕に対して、両手で端を持つ革ベルトで制する。


『は!?』


 自分の右腕が全く動かないことで、驚く男。


 見た目は女子中学生ぐらいだけど、僕は神格だからね?

 それも、武芸十八般を尊んだ槇島まきしま藩で、大名の持ち物だった日本人形の九十九神つくもがみ……。


 隙だらけの男に対して、革ベルトを緩めつつも、その場で相手を吹っ飛ばす蹴り。


 派手に宙を舞った奴は、背中から地面に叩きつけられた。

 鉄バットも、地面に転がる。



 鉄パイプ男が、持っている武器を投げてきた。


 それを避けている間に、両手のこぶしを握りしめ、ファイティング・ポーズ。


『オラアァアアッ!』


 左、右、左左、右と見せかけて、蹴り。


 半身になりつつ前へ踏み込み、蹴った足を下から支え、ひっくり返す。

 金的を蹴り上げ、すぐに移動。


 悶絶するも、手加減したから、潰れてはいないはず……。



 残りは、1人。



「強いな、お前……。この人数を相手に……」


 そちらを見れば、ヘルメットを脱ぎ捨てた、リーダーの姿。


 日本人にしては彫りが深い顔を向けたまま、腰の後ろに回した右手で小型ナイフを抜いた。

 三日月のようで、鎌のブレードだけ取り外したような形状だ。


 握る部分の後ろに指が入るリングがついており、リーダーは右手の人差し指を通したまま、逆手で握り込む。


 拳の端から、先端が前へ向かっているブレードが突き出ている。



 ほーら!


 やっぱり、カランビットだ!!


 これ、猫の爪みたいに、相手の腕や体に密着しながら引くことでザシュッと切り裂けるんだよ……。



 リーダーの男は、ブレードが出ている右拳を前で揺らしつつ、ゆっくりと動き出した。


「女を相手に、使う気はなかった……。今からでも、降参してくれないか?」


「そっちが降参しなよ! お前の力量だと、殺すつもりでやるから」


 持っていた革ベルトを投げ捨てる。


 ナイフが得意な奴は、接近させたらダメだ!



 いぶかしげなリーダーに対して、下ろした両手で――


「ふぐっ!?」


 ボスボスッと、リーダーの体に着弾する音。


 姿勢を低くした僕が、後ろに足を引きながら、Y字のスリングショットでパチンコ玉を撃ったから。


 霊力による強化でも、こいつは死なないだろう。



 五発を当てた後で、リーダーはようやく膝をついた。

 

 力なく、ダラリと両手を下げたまま。



 僕は周りを見ながら、確認する。


「で、まだやるの?」



 どいつも、戦う意志を見せず。

 しかし、ブウウゥウウッと2台の車が走ってきて、僕たちの傍に止まる。


 ヘッドライトをつけたまま、両方のドアが開く。



 自分でドアに触らず、優雅に出てきた男が、こちらを見回した後で言う。


「おーおー! ざまあ、ねーな?」


 それに対して、膝から崩れ落ちたままのリーダーが、怯えたように返事。


「き、木席皮きせきがわさん……」

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