第11話 地元のワル

 ――しのざと高校の裏サイトの1つ


 :誰か、1組の室矢さんと仲良くなった?

 :無理!

 :気軽に話しかけられない

 :4組の睦月むつきちゃんは、すぐに話せるけどね

 :そっちはそっちで、ガード堅いじゃん!

 :ああいうタイプは最後の一線を守るから、逆に口説きにくい

 :睦月ちゃんも、帰りがけの遊びに乗ってこないし

 :せめて部活に入ってくれればなあ……

 :美須坂みすざか町でなければ、まだチャンスがあるのに

 :だな! あいつら、異常に結束力があるし……

 :何かあると、すぐ親が出張ってきやがるからな



 田舎の夜は、真の暗闇だ。


 車道の上にある、ライトアップされた北稲原きたいなばら町の案内板が、ここの場所を示す。


 広い駐車場がある、コンビニの路面店。

 その前だけは、中からの光で照らされ、明るい。


 そこに停まっているバイクの傍で、若い男が手に持つスマホを見ている。


 スススと指で下に動かすも、目ぼしい情報はなし。



 ヴォン ヴォン ババババ


 けたたましいエンジン音を響かせつつ、バイクのヘッドライトがどんどん入ってくる。


 スマホを仕舞った男は、そちらを見る。


「うーっす!」


 片手を上げての挨拶に、駐車場の一角を占領したバイク数台から、それぞれの運転手が足を地に着ける。


 次々にエンジンが切られて、元の静寂さを取り戻す。


「よおっ!」

「何してた?」


 気安い様子から、親しい間柄のようだ。


 最初にいた男は、スマホを取り出す。


「あそこの裏サイトを見ていたんだよ……。ほれ!」


 数人が覗き込めば、先ほどのバイカーたちも釣られる。


「ああ……。うわさの……」

「つか、何で篠里しのざとに入ったわけ? 意味、分かんねー!」


 ピリリリリ


 呼び出し音に1人が慌てて、画面を触る。


「はいっ! ……すみません。……え? ……い、いえ! ……と、とりあえず、俺らの伝手で、呼び出しをかけてみますけど……は、はい!」


 耳から離したスマホの画面を触った後で、ふうーっと息を吐く。


 その様子に、他の若者たちが心配する。


「お、おい? 誰からだ?」


木席皮きせきがわさん……。内容は――」



 よく見れば、彼らのバイクにはステッカーが貼られている。


 その1つは、“針鼠ハリネズミアイアンズ” と書かれていた。



 ◇



 篠ノ里高校の昼休み。

 親しくなった生徒で集まり、机を寄せた島が、そこかしこに。


 その時、1年1組に見覚えのない男子。


 ツカツカと歩き、佳鏡かきょう優希ゆきと向かい合わせの室矢むろやカレナを見る。


「お前が、室矢だろ?」


 居丈高な様子に、眉をひそめた優希が応じる。


「何、あんた?」

「お前には聞いていない。……俺は、3年の長門ながと。OBからの呼び出しで、わざわざ、ここまで来てやったんだ。早く答えろ」


 優希を一瞥いちべつした長門は、すぐにカレナを見た。


 座っているカレナは、そちらを見返す。


「何ですか?」


「俺の兄貴から、てめーを『呼んでこい』と言われたんだよ。ここじゃ何だから、とりあえずケー番を教えろ! あとで連絡する」


 スマホを持つ長門に対して、カレナは自分の机に向き直った。


 広げている弁当箱で、置いていたはしに触る。



「てめっ……。1年のくせに無視すんじゃねえぞ!!」


 激怒した長門は、ズンズンと歩み寄った。


 カレナが座っている椅子の足を蹴ろうと、片足を動かし――


 自分の弁当箱を優希の席へ移し、スッと立ち上がった彼女が、左手で長門の襟首えりくびをつかみ、そのまま自分の机の上に叩きつけながら、逆手で握った箸の先端を突きつけた。


 柔道のような、ドタァンッ! という響きで、クラスの注意が集まる。


 目の前でピタリと突きつけられた凶器に、長門は身を固めたまま、言葉を失う。


「なっ……」


 カレナは、彼の耳元でささやく。


 それを聞いた長門は、顔色を変えた。



 箸と左手を離され、カレナの机の上からゆっくりと立ち上がる長門。


 まだショック状態らしく、覇気のない声。


「そこまで知っていて……。お前、後悔するぞ!?」


 座り直したカレナは、あっさりと答える。


「今回だけ、あなたの無礼を許します。……次は、ありませんよ?」


 チッと舌打ちした長門だが、もう攻撃的な姿勢を見せず、ドシンドシンと歩き去った。




 ――翌日


 篠ノ里高校の授業中に、遠くまで響く、バイクの音。


 それは、どんどん近づいてきたばかりか、グラウンドの中へ乗り込んできた。


 パラリラ パラリラ


 ブゥウウウウ! ヴォオオオンッ! ヴォオオンッ!


 汚いパレードは生徒の注目を浴びつつも、ひたすらに続く。



「け、警察に、連絡を!」

「とにかく、生徒の避難――」


 蜂の巣をつついたように、慌て出す教職員。


 いっぽう、生徒たちは面白がる。


「何あれ! ウケる!」

「確か、針鼠アイアンズの連中だね……」




 1年1組では、昨日の今日とあって、誰もが室矢カレナを見る。


 本人は涼しい顔のまま、グラウンドのほうを眺めるだけ。



 パンッ!



 乾いた音で、そちらを見れば、カレナが拍手をしただけ。


 けれども、騒がしい音が消えた。


 生徒たちが、グラウンドを見てみれば――



「あれ? バイクは?」

「出て行った? ……え?」


 

 カレナの隣に立っている佳鏡優希は、こっそりと質問する。


(今、何かした?)

(ひとまず、帰ってもらいました)



 ニコニコしながらの返事に、優希は顔を引きらせた。


 敵に回さなくて、本当に良かったわ……。

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