第10話 本当に危険な相手は、知られていない

 1週間。

 通学ルートにも慣れて、一通りの授業を受けた後。


 新品の教科書に折り目がつき、板書いたがきを写したノートもページ数が増えてきた。


 高校の学習内容は、中学とは段違い。

 継続的に勉強する習慣やテスト対策をしなければ、どんどん差がつく。



 キ――ン コ――ン カ――ン コ――ン 


 篠ノ里高校のチャイムが鳴り響き、教壇に立っている先生が終わりを宣言。


「そろそろ、中間テストを意識しろよ! 5月なんて、あっと言う間だぞ?」


 いそいそと荷物を仕舞い、教室から出て行く。



 その間にも、生徒はガヤガヤと騒ぎ出す。


「終わったー!」

「部活だ、部活!」


 それぞれに、自分の居場所を見つけたようだ。


 硬式野球のような体育会系では、中学から続けていた奴らが入学式の直後に出向き、そのまま下積み。



 教室に残った室矢むろやカレナと佳鏡かきょう優希ゆきは、春の陽気の中でグラウンドを見下ろす。


「オーライ、オーライ!」


「1年、声出せよぉおおっ!」

「「「う――っす!!」」」


 硬式野球とサッカーがそれぞれに、領土争い。


 金属バットの音が、耳に響く。



 上からは吹奏楽の練習で、管楽器の音。



 窓際で空いている机に腰掛けた優希は、呆れたように言う。


「よく、やるもんだねー!」


「人、それぞれですよ……」


 カレナはたしなめつつも、その表情は同意している。


 部活動のグラウンドに背を向けつつ、話題を変える。


「では、参りましょう」




 ――北稲原きたいなばら町の駅前


 しのざと高校の生徒たちは、この駅から自宅への電車やバスに乗っている。

 他校と混ざり、賑わう場所だ。


 昔ながらの商店街もあるが、中高生は利用せず。



 新しく建てられた複合施設にあるコーヒーショップ。

 全国展開のチェーン店で、それだけに田舎とは違うオシャレな内装だ。


 通路から見えるガラス張りの中で、美須坂みすざか町のメンバーが集合。

 ボックス席の1つを確保して、ゆっくり話し合う。



 リーダーの佳鏡優希が、口火を切る。


「私とカレナがいる1組はお互いに不干渉で、距離を置いたまま。2人とも部活に入る気はなし! そっちは?」


 気が強そうな男子、永尾ながお拓磨たくまが答える。


「俺の2組は、問題なし! 同じクラスに美須坂の奴がいなくて、残念だ。部活は……興味あるけど、出身で差別されてレギュラーになれないだろうし。止めておくぜ」


 優しいお姉さんといった雰囲気の浦名うらなあかねとメガネをかけた蔵本くらもととおるも、それぞれに言う。


「私たちの3組も普通……。徹くんは?」

「問題ないよ! 僕らは、大人しい生徒を集めたクラスのようだ」


 この2人は文系の部活で、どこかへ入るとか。


 それを聞いた優希は、自分のトレイに置かれたドリンクカップでコーヒーを啜った。


「部活に入りたい人は、入ればいいよ! それにしても、上手くバラしたねえ……」


 呆れたようにつぶやいた優希に、茜が応じる。


「すぐに親が出てくるから、ウチを警戒しているってことだね……。まあ、面倒がなければ、それでいいじゃない!」


「ああ……」


 徹が応じた時に、最後の2人が合流する。


「ごめん! 睦月むつきさまが、ずっと質問攻めで……」


 謝罪したのは、槇島まきしま神社の巫女になっている外間ほかま朱美あけみだ。


 その妹のような槇島睦月も、一緒にいる。



 2人が着席したら、ボックス席はギュウギュウ詰めに。


 これまでの話を聞いた朱美は、結論だけ。


「私たちの4組も、要注意の生徒はいないと思う。睦月さまがマスコットになっているだけで……。部活は無理だよ! 実家の手伝いと睦月さまのお世話で、手一杯!」


「僕がどこかへ入ると、朱美が大変だからねえ……」


 苦笑した睦月は、色々と誘われているけど……と付け足した。



 思い出したように、優希が友人たちを見る。


「そういえば……。カレナと睦月が話題になっているから、くれぐれも注意して!」


 当人たちが、興味を示した。


「何か、あるのですか?」

「地元のワルでも――」


 

 ヴオン ヴオン ブゥウウウウウッ!


 パパパ! パパパパ!!


 屋内まで響くエンジン音と、甲高いホーンの音。


 それは近づき、遠ざかっていく。



 優希は疲れたように、説明する。


「あいつらだよ……。『針鼠ハリネズミアイアンズ』と言って、ここらをバイクで走っている連中! 北稲原のニュータウンでうちを敵視しているから、たぶんカレナと睦月は狙われる」


「まだ絶滅していなかったのですね?」

「へー!」


 当人たちは、どこ吹く風。


 業を煮やした優希が2人の耳を引っ張り、そこでささやく。


(あいつらのバックは、地元のヤーさん! アイアンズのOBが入っていて、金集めや、せこい犯罪をやらせている。関わったら、何をされるか……)



 睦月は、スマホを出した。


 画面を触った後に、耳に当てる。


 ブツッ


『はい、槇島睦月さま……。ご用件をどうぞ』


「ハリガネ虫アンアンズ――」

「針鼠アイアンズ」


 優希に突っ込まれ、言い直す。


「針鼠アイアンズ……。御田木みたき市の北稲原町にいる連中ね! 対応できる?」


『……はい。どのように?』


「ひとまず、見ておいて! 僕のカードから引いていいよ」


かしこまりました』


 ピッと電話を切った睦月は、ボックス席の視線を集めたまま、説明する。


「どうせ絡んでくるのなら、僕のほうで――」

「む・つ・き 様?」


 怒った朱美にほおを引っ張られる睦月。



 カレナは、優希に言う。


「その件は、私と睦月で対処します。これでも、トラブルは慣れているので! むしろ、あなた方が注意してください」



 本当に危険な存在は、誰も知らない。


 それを知った時に本人が死んでいて、もう話せないから……。

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