第7話 今昔物語
上流でこの一帯の水源を持つ、
それに対して――
「
キュキュッと、音が鳴る。
「北稲原は、物流と人の流れを押さえていたのですね?」
「そう! お互いに『やり過ぎれば、どちらも全滅する』という状況のまま、睨み合いさ!」
山間部は、厳しい暮らしだ。
肥沃な平野がある沿岸部とは違い、わずかな田んぼ、畑で食い繋ぐ。
夏は暑く、冬は雪で埋もれる。
優希はスナック菓子を食べながら、説明する。
「なければ奪う。昔は、隣の北稲原とかなり衝突したようで……。まあ、その日の食う物がなくて、冬にはバタバタと死ぬ時代さ! 百姓に至るまで、筋者みたいな社会だったわけ! 相手に見つかって戦えば、死傷者も出る」
「村のために生きて、死ぬ……。土地の支配者に恨みを向けないためのガス抜きも、兼ねていたのでしょう」
カレナの指摘に、優希は全く怒らず。
「ま、そうだろうね! 今だって国会で追及されることは、どーでもいい不祥事だけ! 目の前に何かをぶら下げておけば、庶民は溜飲を下げる。だからといって、本当に庶民のことを考えても……採算の悪化や、ちょっとした不祥事ですぐに失脚させられる。大衆は勝手なもんさ!」
言い捨てた優希は、ペットボトルから注いだ炭酸飲料をグイッと飲み干した。
それを見たカレナが、指摘する。
「優希も?」
「私も佳鏡家の娘だからね! 所詮は、ここの市議レベルだけど。地元の政治家の一族として、陰で何を言われているやら……。今の友人はそうじゃない……と思いたいけど」
寂しそうに微笑んだ優希は、頭の後ろで両手を組む。
気丈に振る舞っているが、彼女なりに悩みがあるようだ。
どこで誰が聞いていても、おかしくない。
それだけに、世間と切り離されたカレナとの対話は色々と新鮮。
「私が通う高校は?」
カレナの指摘で、優希は両手を頭から下ろした。
「ああ、そうだったね! えーと……。ここ!
地図に、キュッと丸が描かれた。
そこを見れば、北稲原町のエリアだ。
「偏差値は、お世辞にも高くない。学校崩壊をしているレベルでもなく、校内に不良もいない……かな? 少なくとも、私は知らない」
「そうですか……」
書き込まれた地図を見下ろすカレナは、腕を組んだ。
「さっき説明してくれた、地元の因縁は?」
「んー。私たちの世代では、よっぽど大丈夫だと思う! あくまで、『昔はこうだった』というだけで……。ただし、自分の権威付けで『あの町は~』と叫んでいる連中はまだいるよ。どちらの側にもね?」
つまり、篠ノ里高校の中で、お前は美須坂の奴だな!? と襲われるか、イジメられる可能性は低い。
「明日も、ちょうど休日だし。良かったら、一緒に行ってあげるよ?」
――翌日
まだ着慣れないセーラー服の室矢カレナと同じ姿の佳鏡優希が、並んで歩く。
町名は、北稲原。
こちらも
「ウチが吸収されて、北稲原と並んだ感じだね! 白一色の時刻表になっているバスに乗り駅から市内に入って、最後は歩き。駅からの距離は30分ぐらい。冬は日が暮れるのが早いから……ああ、カレナは心配いらないか」
優希の説明に、本人が微笑んだ。
「ええ……。目立たないようにしますよ」
カレナは言いながら、周りを見る。
ひび割れたアスファルトの車道と、同じく古い歩道。
左右に並ぶ戸建ては、新旧が入り混じっている。
団地、マンションのように、多くのファミリー層が住める物件も。
その視線に気づいた優希も、ニュータウンを見回す。
「ウチにも、作って欲しいんだけどね……。わざわざ山奥に住みたがる人はいないから、父さんが主張しても実現せず」
溜息を吐いた優希に、カレナが問いかける。
「人を誘致するプロジェクトは?」
「やっているよ! でも、売りがなくてね? 『古民家をタダで』と言っても、地元の付き合いとか面倒だから。たまに来ても、すぐ逃げ出す! まあ、地元の若者が戻ってこない場所だし」
スクールバッグを肩掛けのまま、優希は両手を上げた。
思い出したように、言う。
「そういえば、
「
笑った優希は、すぐに応じる。
「朱美も大変だね! 明日も同じだろうから、そっちは心配いらないか……」
やがて、白い校舎と塀に囲まれた横にスライドする鉄扉が見えてきた。
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