第4話 槇島神社の御神体は動く! 踊る! 戦う!

「結論から言うと、僕たちは千陣せんじん流の妖怪、日本人形の九十九神つくもがみであるのと同時に千陣家の直属で、桜技おうぎ流と『やしろの本庁』が認めた神格でもある」


 槇島まきしま睦月むつきの発言に、室矢むろやカレナは思わず首を横に振った。


「聞いただけで、面倒そうじゃ……」



 本題はここから、という表情で、睦月が説明を続ける。


「カレナが言ったように、僕たちは人数が多すぎる。だから、『千陣家が貸し出す』という形で、十家か、それらが認めた人間の式神にしようと試みたわけ!」


 潰したとはいえ、伝説になった室矢家の初代当主、重遠しげとおと深い縁がある、美しい少女たち。

 千陣流の内部での権勢や他の四大流派への影響力で、1人は欲しいところ。


 永遠の女子中学生だ。

 重遠に群がっていたことで、全員が経験済み。

 下世話な目的にも使えるだろう。


 功を挙げた配下への褒美として、彼女たちを抱くことを許す可能性も……。



「だから、槇島神社の御神体ごしんたいとして、全国に散らばったのか?」


 つまらない、と言いたそうな顔で、睦月が肯定する。


「そうそう……。千陣流の十家であるひいらぎ家は僕たちを庇ってくれたけど、負担をかけすぎるのも良くないから……。どうせ独自のリアルタイム通信があって、如月きさらぎたちと連絡を取り合えるし」


「もう、『夕花梨シリーズ』とは呼べないな……」


 寂しそうなカレナの発言に、睦月もセンチメンタルに同意。


「あー! 重遠が、そう言っていたね……。懐かしい」



「ところで、カレナの今後だけどさ? ここに住んでもらうのは、難しいんだよ」


「ああ……。ここは、槇島神社の本殿だからな? お主の住居であって、私のためではない。周りが納得しないだろう」


 座ったまま、伸びをした睦月は、気まずそうに応じる。


「うん……。誰か、連絡を取りたい人は? いないなら、僕のほうで――」

「それは嬉しいが……。睦月よ、私は決めたのじゃ!」


 すっくと立ち上がった、カレナ。


 彼女はお嬢さま口調になって、堂々と宣言する。



「ここで、スローライフを行います! 重遠がまた転生してくるまで!!」



 ◇



 今の私は、『室矢』を名乗る必要があるのでしょうか?

 でも、重遠が帰ってくるまでは……。



 その日は本殿に泊めてもらい、槇島睦月と朝餉あさげをいただいた後で別れた。


 お付きの外間ほかま朱美あけみがずっとビクビクしていたので、ねぎらう。


「お世話になりました」


「い、いえ! こちらこそ……。あ、あの?」


 どうやら、私の雰囲気や口調が違うことで、違和感を覚えたようだ。


 今後も会うだろうから、教えておく。


「キャラを作っていました。こちらが地です」


「は、はあ……」



 綺麗になったゴシックドレスを着たまま、爽やかな空気の中で下界に通じる石段へ向かう。


 急な角度で、転がり落ちそうだ。


「これが、私のスローライフへの第一歩……」



 うっかり足を踏み外して、空中へ投げ出され、回転する。

 途中の石段で跳ねつつ、アクションゲームのように落下していく。


 ドオンッと凄まじい音に、地面の揺れ。


 たいした事ではないため、目的地へ向かう。

 


 石段を下りたら、田舎道。


 舗装されているものの、周囲には田んぼ、あぜ道だけ。



 充電した、今は旧式のスマホを触り、電話をかける。


「アイですか? ……ええ。スローライフなので」


 切った後に、場違いなドレス姿で歩き出す。



 近くで農作業をしていた人が唖然とした顔で、その様子を見ていた。



 ◇



 槇島神社の本殿でゴロゴロしていたら、女子高生の朱美ちゃんが登場。


「睦月さま!? ご友人の方が、色々とうわさになっているようですけど!」



 神社の石段の上から飛び降りて、地面に着地した。


 廃墟に美少女が住み着いて、一番近いホームセンターやインテリアショップで購入した家具などを頭の上に積んだまま、車道を時速100kmぐらいで爆走した。


 畑を作っていたかと思えば、数日で様々な野菜が実っていた。


 罠にかかった獲物を仕留め、飼ったニワトリを笑顔でバラしている。


 いつの間にか、小さな湖ができていて、釣り。


 挨拶はなく、ご近所が行っても姿を見せず。

 ゴミ出しもせず、その区画の組長――自治会のまとめ役――は会えずに困っている。


 どうやら廃墟の一帯をまとめて買ったらしく、自治会の共用設備やサービスを利用しない限り、文句の言いようがないようだ。

 下手をすれば、不法侵入で訴えられる。



「相変わらず、目茶苦茶だね! 重遠がいないことで、本性を出したってことかあ……」


 うなずきながら、しみじみと考える。


 まあ、元気になってくれたのなら、何よりだ……。



「あの! 睦月さまも、何か言っていただければ……」


 言いよどんだ朱美ちゃんに、返事をする。


「うん。次に会った時に、言っておく」


「本当ですか!? いや、外には出ないで下さいよ! 御神体ごしんたいの自覚をお持ちになってください!!」


 嬉しそうな顔をした直後に、ビシッと突っ込み。


「こちらであれば、本殿で会うことも大目に見ますけど――」

「えーとね、朱美ちゃん? 来週になったら僕たち、高校に通うから!」


 フリーズした彼女は、ギギギと、こちらを見た。


「えっと……。だ、誰が? 何を?」


「僕とカレナが、朱美ちゃんも通っている高校で一緒に授業を受けるんだよ?」



 意味を理解した朱美は、膝から崩れ落ち、あひんっ! と鳴いた後で、バタリと倒れた。


 だいぶ、疲れているね。

 布団を敷いて、このまま寝かせよう……。

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