第3話 生き証人が語る、室矢家の現在

 槇島まきしま睦月むつきたちは室矢むろやカレナの権能で、一瞬のうちに移動した。


 気づけば、山の石段を上った先にある神社の境内。


「じゃあ、お家に帰る――」

「睦月さま!? どこへ行かれていたんですか?」


 巫女の1人が慌てて、駆け寄ってきた。


 見れば、女子高生ぐらいの姿だ。


朱美あけみ! ちょっと散歩を――」

御神体ごしんたいがホイホイと、出歩かないでください! 叱られるの、私なんですよ!?」


 外間ほかま朱美は、泣きそうだ。


 というか、泣いている。



 睦月は、手を振った。


「考えておくー! それより、この女子……カレナの着替えを適当に! こっちの4人は、僕と話し合いが必要でね? 本殿に入れるけど、黙っておいて。食事は2人分ね!」


「ひぇー!」


 抗議らしき声を上げた朱美は、それでも言いつけを守る。



 睦月に先導され、明山あけやま神社の境内にある槇島神社へと入っていく面々。


 広い畳の上で、思い思いに座った。


 テレビ、箪笥たんすなどがあり、社務所のように人が滞在することを前提にした内装だ。



 ここの主である睦月は、装飾された上座に座りつつ、口火を切る。


「先に、お前たちの始末だね? どうしたものか……」



 言い訳のしようがない高校生たちは、無言のまま。



 ちらりとカレナのほうを見た後で、笑顔になる睦月。


「あ、そうだ! 高校に行こうよ!」


 女の子座りのカレナはゴシックドレスのままで、首をかしげた。


 睦月は、説明する。


「だから! こいつらと同じ高校に通って、もう1回、高校生になろうよ!」


 少し考えたカレナは、ポンと手を叩いた。


「それも、いいのじゃ!」



 睦月とカレナを捻じ込むことで、高校生たちのケジメとした。


 幸いにも、この町の顔役がいる。




 ――高校生グループを叩き出した後


「今は、どうなっている?」


 お膳をつつくカレナの発言に、ダラーッとした睦月が同じく食べながら、答える。


「んー? 重遠しげとおたちが死んで……。その子孫はカレナが中央省庁の管理から外したことで、それぞれに頑張っている……はずだよ? まあ、僕たちにはもう関係ないけどね? 室矢家を解散したから、お役人が一括管理する旨味もない。今から思えば、本当に英断だったよ! どうせ、あいつらは、『子供だけの家』と馬鹿にしていただろうし」



 室矢家の正妻だった南乃みなみの詩央里しおりが提案した、時間稼ぎ。


 そのきもは、四大流派を統べるほどの室矢重遠とその下に集う戦略兵器の女たちを管理していると錯覚させるための重婚。


 初代の当主である重遠は将来的に取り込まれると看破して、最初の話し合いの場で室矢家を一代限りにすると宣言したのだ。

 子供、孫の代で自分たちの派閥が部下にするか、結婚して力を取り込めると踏んでいた中央省庁は、完全に当てが外れた。


 なまじ重婚の縛りをキツくしたことで、室矢家の専用ルールのようになってしまい、続く人間もおらず……。


 そもそも、これだけの家をいきなり潰すとは、理外りがいの理。

 既得権益を握って離さない思考では、想像すら不可能だった。


 四大流派や海外の勢力は重遠の子供を引き取ったから、五月蠅く言わない。

 結果的に、中央省庁だけ梯子を外された形。



「それで、今は『室矢』というのがになっている。重遠の血を引いているか、非能力者でも偉業を成した人間に『室矢』と名乗ることを許しているってさ!」


 睦月の明るい声に、カレナは溜息を吐いた。


「室矢家を潰しても、すがるものが欲しいか……」


「ま、どーでもいいよ! 大切なのは重遠であって、その子孫じゃない! だいたい、重遠がどれだけ子供を作ったと思っているのさ? いちいち見ていたら、キリがない!」


 座ったままで肩をすくめたカレナは、睦月に同意した。


「お主がいるのは……私のためか?」


「ん? あー、そうだけど。気にしなくていいよ! 重遠が死んでショックだったのは、僕も同じだし……。でも――」


 ようやく対等の話し相手ができて嬉しいのか、睦月はいつになく饒舌じょうぜつだった。


 どうやら今の睦月たちは、微妙な立場のようで……。



「神格を持つ重遠とヤリまくったことで、お主らも神に昇格した……。だから、ここで御神体をやっているのか?」


「そうだよー! ただ、それでさあ! かなーり、面倒になっちゃって……」


 テヘへと頭の後ろを掻いた睦月は、身の上話を始める。


千陣せんじん夕花梨ゆかりさまが、お隠れになられて……。僕たちも、『どうしようか?』と考えたんだよ! むろん、千陣流の上も重遠と接していて、その妻の1人、夕花梨さまの式神だったから、再利用する気マンマンでさ?」


「連中にしてみれば、箔付けにぴったりだな……。しかし、お主らをまとめて扱える陰陽師は、おるまい?」


 そもそも、式神は逆らう恐れがあり、少数を従えるのが一般的。


 千陣夕花梨にしても、睦月たちが、姫さま! と慕っていたから、成り立ったのだ。


 げんなりした睦月は、カレナの指摘に答える。


「あー、うん……。いなかったよ? それで、僕たちは12人いるから……」


「宗家と十家で、仲良く分けようと?」


 カレナが続けたら、睦月は苦笑した。

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