第2話 リブート~再起動~(後編)

 優希ゆきを床に転がした女子は小学生に見えるほどの童顔で、見慣れないセーラー服だ。

 けれど、雰囲気は、その学年にあらず。

 

 じっくりと見ていたあかねは、説得を試みる。


「ね、ねえ! 私たち、ここから立ち去るわ。二度と近づかない! だから、優希をこれ以上、傷つけないで! 肝試しで入っただけなの。お願い!」


 その懇願に、立っている女子は琥珀こはく色の目を向けた。


 返事はない。



 話しかけてきたから、言葉は通じるはず……。


 冷や汗をかいた茜は、銃をバンバン撃ちまくっておいて説得力がないかと思う。



「お、おい! それ以上、優希を痛めつけるなら――」


 気が強そうな拓磨たくまふところからナイフを出して、壁にもたれかかっている等身大の人形に突きつけた。

 ショートヘアの女子が執着していると、さっきの言動で知ったから。


 けれど、それは悪手だった。


「い……いででででで!!」


 ナイフを持っている腕が見えない何かにじり上げられ、握っていたものを落とした。


 ガランッと、鈍い音。



 それとは別に、ギシギシと骨がきしむ音も……。



 茜は、立っている女子の手の動きと拓磨の腕に食い込んでいる様子から、恐らく糸のようなもので縛り上げていると推測。


 このままでは、腕を折られる。


 下手をすれば、バラバラに切断されるだろう……。


「止めて! お願い! お願いします!!」



 我に返った徹も慌てて、土下座する。


「すまなかった! もう近づかない!! 約束するから!」



 その願いを聞き届けたのか、床に転がっている優希と片腕を捩じり上げられている拓磨は解放された。


 2人とも呼吸を整えながら、自分の体をチェックしている。



 徹は、目の前の女子の気が変わらないうちに、とばかりに立ち上がった。


 視線で周りにうながしつつ、頭を下げて謝る。


「本当に悪かった! ……みんな、帰ろ――」

「誰が、帰っていいと言ったの?」


 可愛い声だが、その迫力は人間のものではない。


 この場を支配している女子は、気絶しそうな霊圧を放ちつつも宣告する。



「お前たちは信用できない! ここで帰したら、どうせ警官や猟銃を持った連中が大挙して押し寄せるだけ……」



 すでに戦意を失っていた高校生のグループは、その意味を理解する。


 けれど、走って逃げられる状態ではない。



「だから、殺すよ。それが一番早い……」



 言うや否や、最も近い人物。


 つまり――



とおるくん!!」



 セーラー服の女子が手刀を見せたことで、茜はとっさに動き、正面から抱き着くように庇った。


 女子は止まらず、右による貫手ぬきてが茜の背中を貫く――


 その寸前で別の手が添えられ、くるりと円を描くようにズラされた。


 新たな人物は接している腕の手首をつかみ、関節を決めるように動かすも、今度は女子のほうがそれに合わせつつ、自ら飛んだ。


 組手のようにスタッと降り立った女子はそれ以上の攻撃をせず、乱入した人物を見る。


「どういうつもり? こいつらは――」

「私は見たくないのじゃ……。今の構図はな? 詩央里しおりがまだ霊力ゼロだった重遠しげとおを庇った時と同じだ」


 その時には、切り裂かれた南乃みなみの詩央里が死にかけた。


 今となっては、懐かしい。

 過ぎ去った時間だ。


 高校生グループを殺しかけた女子は、両腕を降ろした。


「そっか……。なら、仕方ないね……」



 ――お帰り、カレナ



 厚いほこりまみれのゴシックドレスを着ている、等身大の人形。

 室矢むろやカレナは、紺青こんじょう色の瞳を向けた。


「ああ……。久しぶりだな、睦月むつき


 千陣せんじん夕花梨ゆかりの式神の1人だった槇島まきしま睦月は、苦笑する。


「もう正気に戻らないのかと思ったよ……」



 訳が分からず、高校生の男女は何も言えず。



 そちらを見たカレナは、睦月に視線を送る。


 首肯した睦月が、溜息を吐いた。


「僕は、明山あけやま神社の者だ! ここまできたら言っちゃうけど、末社まっしゃの槇島神社の御神体ごしんたい


 それを聞いた高校生は誰もが、ギョッとした。


「え? 御神体って、本当!?」

「信じられねえ……」

「明山神社で確認すれば、すぐ分かる話だよ?」

「そ、そうだな……」


 殺されかけた直後だが、茜は冷静。


 正面から抱き合っている徹は、固まったままの同意。



 睦月は興味がなさそうに、繰り返す。


「もう一度、言うけどさ? 僕は槇島神社の御神体で、そこに立っているカレナも同じような存在だ! これまで意識がなく下手に動かせないから、たまに様子を見に来ていたわけ。隠れたまま僕の様子をうかがい、挙句に発砲した理由は?」



 言われてみれば、そういう話だった。


 思い出した高校生グループは、新たに冷や汗をかく。



 リーダーの優希が、愛想笑いを浮かべた。


「い、いやー! てっきり、人に害をなす怪異かと――」

「槇島神社の御神体に会話を拒否して、いきなり発砲したと知られれば、いくらお前でもタダじゃすまないよ?」


 見かねたカレナが、取り成す。


「その辺にしてやれ、睦月……。とりあえず、立ち話も何だ! 日が暮れるし、移動しよう」


「カレナも、着替えが必要だよね? じゃ、僕が暮らしている本殿へ行こうか! ……お前たち4人も特別に招くから、一緒に来い」


 睦月は、逃がさないからな? と言わんばかりに、逃げ腰だった高校生グループを見据える。

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