【完結】主人公がいない死亡フラグだらけの日常~最強のカレナちゃんは傷心中で特に誰も救いません~

初雪空

第一章 ド田舎は馴染むまで大変!

第1話 リブート~再起動~(前編)

 まだ、外が明るい時間帯。


「ね、ねえ! やっぱり、止めよう? 町の自警団に任せたほうが――」

「大丈夫、大丈夫! 私には、これがあるし!」


 2人の女子高生。


 そのうちの1人がセーラー服の上で身に着けたショルダーホルスターから、長い拳銃を抜いた。


 まだトリガーに指をかけていないが、女子が持つ代物ではない。


「怪異を滅ぼすために開発された呪文銃スペル・ガン! 当たれば、かなり上位でもイチコロ!」

「当たれば、でしょー!?」


「予備弾も5発ぐらいあるし。余裕、余裕♪」

「1発ごとに装填するから、その隙を突かれたら終わりだって!」


 反対する女子に構わず、銃を持った女子は床が抜けそうな廃屋の奥へ足を進めていく。


 相手にされない女子は、後ろにいる男子2人を見た。


優希ゆきはああ言ったら、話を聞かねえ……」

あかねが言ってダメなら、僕たちでもダメだよ」


 4人は、統一されたデザインの制服姿。


 どうやら、同じ高校のようだ。



 ギシギシ


 ジャリジャリ


 

 廃屋の中はほこりっぽく、崩壊した天井や壁、剥き出しの柱、金属の物体で進みにくい。


 茜が、リーダーの優希に尋ねる。


「本当に、化け物がいるの?」


「んー。ウチの連中は、そう言っていた! 逃げてきた奴の証言では、『少女のような姿でいきなり動いた』とさ」


 先頭を進み、両手で銃を握っている優希の発言で、後ろの男子2人も話し出す。


「俺も聞いたぜ? あと、すげー美少女も出入りしているとか……」

「少なくとも、2人いるの? ちょっとマズくないかな、それ」


 威勢がいい男子に対して、もう1人のメガネくんは慎重な意見だ。


 茜も、メガネくんに同意する。


とおるくんの言う通りだよ! こんな場所は誰が出入りしていても、おかしくないし! ね、優希?」


 けれど、リーダーの彼女は取り合わない。



 半分ぐらいが崩壊している廃屋は、避暑地の別荘のようだ。


 屋内の行き止まりで拳銃をショルダーホルスターに仕舞った優希は、ふうっと溜息を吐く。


「何もないね……。こりゃ、外れかな?」

「だーかーらー! 止めておこうと言ったのに!」


 茜の苦情に、優希は素知らぬ顔。


 だが急に、とある方向を向いた。


「何――」

「黙って! あんたらも……」


 手の平で茜の口を塞いだ優希は、男子2人にも小声で警告する。


 コクコクとうなずいた男子グループは、外の気配をうかがう。



 ジャッジャッ


 

 足音だ。


 間隔から、おそらく1人。


 ビニール袋が擦れる、ガサガサという音も。



 再び銃を抜いた優希は、外が見えるところへ移動して、そっと覗く。



 ところどころ跳ねている、茶色のショートヘア。

 チラッと見えた横顔で、幼い感じの女子だと分かった。


 セーラー服を着ているが、男子の可能性も……。


 体つきと歩き方は、女子のそれだ。


 琥珀こはく色の瞳が自分のほうを向き始めたことで、優希は視線を外す。



「さーて……。どうしたものかねー」


 息を吐いた後に小声でつぶやいた優希は、両手で持つ銃を重く感じた。


 あれが人間でも、最悪、彼女を撃つしかない。



「とにかく、一度帰って――」

「ここに、何の用?」


 いきなり、別の女子の声が響いた。


 驚いた4人が振り向けば、そこには琥珀色の瞳をした少女。


 

 こいつは人間ではないと判断した優希は、銃口を向けて、トリガーを引いた。


 ダアンッと、重い発砲音。



 思わず身をすくめた高校生3人に、優希は銃を折って、新しい弾丸に入れ替えつつ叫ぶ。


「走って! 早く!!」




 息を荒げた4人はどこかの廃屋の奥で、ようやく立ち止まった。


「ここ、どこ?」

「分かんねえよ!」

「優希。さっきの女子は?」


 ショルダーホルスターから銃を抜きつつ、優希はメガネをかけた徹に答える。


「確認していないよ! 撃ったけど、当たったのかどうかも……」



「あ! ねえ、これが『少女の姿をした化け物』じゃない?」


 茜の発言で、全員がそちらを見た。



 そこにあったのは、壁にもたれて座った等身大の人形。


 ゴシック調のドレスを着たまま、長い黒髪、紫がかった青の瞳をどこかへ向けている。



 銃口を向けた優希は、茜が人形に近寄って屈んだことで、慌てて下ろす。



「本物みたいだな! 持ち帰れば、高く売れるんじゃないか?」

「不法投棄か……」


 近くで見た男子2人の感想に、優希が茶化す。


拓磨たくま? そんな等身大の人形を持ち帰って、何に使うのかなぁ~?」


「バッ! そ、そういう意味じゃねえよ!! だいたい人形に穴なんか、ねえだろ!?」


 ニヤニヤした優希が、さらにあおる。


「私は、『穴に出し入れする』とは一言もいってないけど?」

「おまっ! いい加減にしろよ!?」


「悲しいなー! まさか拓磨が、人形じゃないと興奮しない性癖とは……」

「あのなあ!」



 茜はしげしげと、座り込んだままの人形を眺めている。


「ふーん? よくできているね! だけど、これだけ精巧なら……」


 ダランと垂れている腕を持ち上げた茜は、驚いたように離した。


 ゴンッと痛そうな音が、廃屋に響く。



「どうした!?」

「大丈夫か?」


 男子2人の叫び。


 尻もちをついた茜は後ずさりつつ、震える指を壁にもたれている人形へ向けた。


「これ、いき、いき……生きてる!?」


 優希は険しい顔で、両手で持つ銃を人形へ向け――



 ドゴオオォンッ!!



 廃屋の壁が打ち破られ、先ほどのショートヘアの女子が姿を現した。


 セーラー服で幼い雰囲気だが、今は獰猛どうもうな顔つき。


「――に、近づくな!!」


 その叫びで、優希はショートヘアの女子に発砲した。


 けれど、タイミングを合わせたかのように、彼女が姿勢を低くしながら前へ走り出したことで外れる。



 速い!?


 優希は身体強化をしながら、持っている銃を投げつけた。


 その回避で、こちらのターンに持ち込む――



「えっ!」


 何もないところで足を取られ、床へ倒れ込み、優希は動けなくなる。


 見えない糸でもあるように……。



「優希!?」

「ちくしょう!」


「動くな! その銃を拾うか物を投げつけてきたら、こちらも敵として扱うよ?」


 その場を制した女子中学生は、すっくと立ち、宣言した。

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