一千年前の出会い
先に言っておくけれど、これは千年前のなんて事ない恋の話で、きっと期待してるようなミステリーはないと思うよ・・・えっと探偵さん名前は?
ランベル?どっかで聞いたことある気がするけど・・・まぁいいや、じゃあ聞いてね探偵シャルロット・ランベル。
私が生まれ育ったのは、海に落ちた星屑がもう一つの夜空を描き、二つの星空が水平線で交わる美しい街。
『ルナ』って名前は、安直だけど月に擬えてつけられたらしい。私が生まれた日も一段と綺麗な満月で、私は窓から見えるそれを見て産声を止めたから名付けたって両親が言ってた。
子供の頃は・・・この辺りは関係ないからいいか。
歳を経て美人に育ち、エリートと呼ばれる魔法騎士の道に進んだ。
え?今はそんな役職ないの?
騎士団自体が一回解体された?時代の流れは怖いね。
まぁ、血筋もあって才能には恵まれたけど、大戦の最中では国防の為に行使する事を余儀なくされた。とは言っても、私は最期まで誰かと戦う事は無かったけれど。
そんな頃に彼と出会った。
「ルナ~来たよ」
サボり癖のある同僚が、窓の外を指差しながら呼んでくる。古式魔法の本も区切るには丁度いい所まで読めたから、本を閉じ立ち上がる。
「何が来たの?」
「来期の出港組」
楽しそうに振り返る彼女は、学生時代に編入生の噂を聞いてきた時と同じ表情でそう言う。
そう言えば、今日は今期の出港と入れ替わりで、新しく来期の出港まで半年間この街で過ごす魔法士が到着する日だったか。
「一応、待機期間なんだから遊びすぎるのもどうかと思うけどね~」
「そうお堅い事言わないでさ、良い条件の旦那ゲットしに行こうよ」
少し冷めた反応を見せる私に対して、嬉しそうに語る友人。同年代の女性からして見れば、私の方がズレてるのは理解しているけど・・・
『ダルバトイル』との開戦から数年、『リルベルド』の発展した魔法技術のお陰で一方的な侵攻になりつつあるが、帰還できるかどうか定かではない地に赴く前に港町で婚約者を探す者が多い、それを理解して軍側も出港までに半年軍港での任務を与える。
その結果、当時のウィールズには敵国への侵攻の為に街に若い軍の魔法士と、魔法使いの家に嫁ぎたい女性が集まり、その多くが景色には目も暮れず伴侶を探し続けていた。
この街が好きな私としては、なんとも言えない気持ちになってしまう。
「前だって良い相手はいなかったんでしょ?」
「今期こそは見つけるんだよ!婚期だけにね」
なんとも不純な同僚は、しかし堂々とした態度でそう言った。
「ルナは、可愛いし家柄も良いから困んないだろうけど。可愛いだけの私はこうやって探さないとなの!」
「別に私はお見合いとかもしてないよ。それに、ダルバトイルから帰って来たとしても貴族位じゃない魔法士は危険な仕事が多いんだよ?私は好きな人とは100年添い遂げたいかな」
なんとも恥ずかしい台詞だが、しかし堂々とした面持ちでそう言った。
「乙女だね~、分かった一人で見てくるよ」
そう言って、跳ねる様な足取りで出口に向かう顔が可愛い同僚の後ろ姿を見送る。いつもならまた半年後に似たような会話をするだけだが、それから数日後に社交会に私も来る様に頼まれた。あの時何が分かったんだろうか。
それまでの私なら間違いなく断っていたのに、偶にはそんな誘いに乗るのも悪くないとか、そんなふとした思い付きで私はその社交会に参加することにした。今思えばそんな運命だったのかも知れない。
社交会自体は大した事が無かった、きっとあれだけならどうという事もない人生経験くらいの意味しか持たないエピソードだった。来ていた男性陣の一人として私の記憶に名前を残す事はない筈だった。
そんな調子だったからなのか、不意を突かれてしまったんだ。
その日も海が綺麗な夜を飲み込んで、何処が水平線かも分からないほとだった。でも、周りの誰もそんなことは気に留めずに、今日初めて会ったばかりの人の顔色を見てばかり。
そんな中に、正確にはその輪から少し離れた場所で、彼だけは誰の目にも留まらない景色を見て涙を流していた。私の大好きな景色を見て。
「なんで泣いてるんですか?」
思わずかけてしまった声に反応した彼は、確かめるように手を目元へと運んで、それからハッとした様子でこっちを向く。
「ルナさんでしたよね?」
話題をすり替える様に彼はそう言った。気まずい・・・何故話しかけてしまったんだろう。何より気まずいのが、この人なんて名前だっけ。
これは私が色恋に無頓着なのもあるけど、彼のパッとしない印象も相まって本当に忘れてしまっていた。
「『ノクス・ヴィンセント』です」
私の様子から何かを察したのか、笑いながらそう言う彼は、そうだノクス・ヴィンセントだった。呪いとか言う、リスクの高いマイナー魔法を得意とする家系の人間なんだっけ。
本当に何で話しかけてしまったんだろう。周りの誰も気にしていないのに同じ景色を見ていたから?
「この景色綺麗ですね」
間を置いてそう言った彼に、なんて返答したか判然としないけど。その日も一層綺麗な景色が眼前に広がっていた。誰かとこの景色を共有する事は私にとって新鮮で、彼を意識するのに十分過ぎる動機になった。
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