回想-ティラール=クロフレア

@udonP

第1話

 「俺様の武器はまだ出来ねぇのか!」

 店内に若い男の怒号が響く。明らかに表情をイラつかせたその男の頭には黒々とした2本の角が生えている。ドレイクだ。

 「申し訳ございません。イグニダイト加工には1ヶ月ほどの時間がかかりまして……」

 壮年のダークドワーフの鍛治師は、床に頭を擦り付けながら、必死に男に懇願している。

 「あぁ!?俺様の言うことが聞けねぇのか!この人族風情が!」

 男が蹴飛ばした椅子がぶつかり、棚に陳列されていた武具の数々が雪崩のように崩れ落ちた。

 「ちっ!だからノロマな人族なんかに頼むのは嫌だったんだ!」

 男は吐き捨てるように言うと、店外へと出ていく。鍛治師はその小さな背中を丸めながら、崩れ落ちた武具たちを一点一点丁寧に検品しては、棚へと陳列し直していた。

 「お父さん……お客さん、怒ってたね。」

 鍛治師が顔を上げると、真っ赤な頭巾を被った可愛らしい少女が、母親と寄り添うようにして立っていた。

 「ティラール、店の方には来るなと言っただろう。」

 「ごめんなさい。でも、お店の方で大きな音がしたから。」

 「だったら尚更だ。もしお客さんが暴れだしたりしたらどうする。」

 「その時は私が倒してあげるよ!ズドーン!って!」

 鍛治師は一瞬顔を顰め、静かに首を振った。

 「……ティラール、お願いだから危ないことはしないでくれ。お前は私たちの宝なのだから。」

 「……うん、わかった……ごめんなさい。」

 少女は母親に抱き抱えられ、店の奥へと姿を消した。



 「ねぇお母さん、どうして私はお外に出ちゃいけないの?」

 少女は母親の膝の上に座り、不思議そうに首を傾げている。

 「それはね、ティラールはまだ小さいし、外はとっても危ないからよ。」

 「でも、同じくらいの歳の子はお外で遊んでるよ。」

 少女は膝の上で少し背伸びをして、窓の外へと目をやる。そこでは10歳やそこらの蛮族の子どもたちが、楽しそうにチャンバラをして遊んでいた。

 「彼らは穢れが多くって、力も強いから。ティラールが一緒に遊んだら、すぐに怪我しちゃうわよ。」

 そう言う母親の目線は、所在なさげに空中を彷徨っている。

 「ねぇお母さん、『じんぞく』ってなぁに?」

 少女は真っ直ぐな瞳で母親を見ている。母親は、少女を伏目がちに見つめると、優しく髪を手で梳いた。

 「人族っていうのはね、ダルクレム様の加護を受けられなかった種族のことよ。」

 「どうして受けられなかったの?」

 「どうしてでしょうね。もしかしたら、私たちの祖先が何か悪いことをしてしまったのかもしれないわ。」

 母親の声は悲しみというよりも、むしろ諦めの色を帯びていた。

 「とにかく、穢れのない私たちは、彼ら蛮族には敵わないの。従うしかないのよ。」

 「そんなことないよ!わたし、『けがれ』がなくても『ばんぞく』より強くなる!」

 勢いよく立ち上がった少女の赤ずきんを、窓から差し込んだ月の光が優しく照らしていた。

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