第31話 別れ

アンを家に招き入れる。

最近買った紅茶をカップに注いだ。


「わぁ…これ高いんじゃないの?」


「うん。ちょっと高かったね。でもどうしても欲しくなっちゃって…今日くらいは飲んでもいいよね。」


この世界にも紅茶があるって知って、どうしても欲しくなってしまったのだ。

幸いにもお金はあったから迷わず購入。

ケーキがあれば最高なんだけど。

お菓子でもいいかな。


俺はアンと向かい合って座った。

今すっごく幸せな気持ちで一杯だ。

こんな感じ始めてかも。

アンもきっと同じ気持ちなのかな。

ただ二人で見つめてるだけで幸せになる。






ドンドン


「おおーい。ミライ!今日は来ないのか?」


ドアが叩かれた。

あ、忘れてた。

仕事、あと返事も…。


「家事の仕事…忘れてたよ…。」


「行かなくてもいいじゃない。」

アンは頬をふくらませた。

あれ、かわいい。


「そうは言っても…どちらにしても言っておかないと…。」


「早めに帰ってくるよ。」


俺は外衣を羽織りドアへ向かう。

きっちり断っておかないと相手にも悪いし。


「いつも悪いね。」


カモミールさんと俺は並んで歩いていた。

そういえばこの間の旅以来か。

ウィス村からレイト町へと向かう街道。

カモミールさんは俺の腕を掴もうした。


「ごめんなさい。」


「結婚は出来ません。」


俺は丁重に手を離してお断りする。


「…そうか…。君ならいいなぁと思ったんだけどなぁ。」



空を見上げる。

真っ青な空に白い鳥が飛んでいた。



「まあ、仕方ないか?でもさぁ誤解させるような事言う君も悪いんだからね。」


「…誤解?」


「私の事、綺麗とかなんとか…。かわいいとも言っていた…。」



…確かにそんな事言った記憶ある。

熱でぼーっとしていて…。


「あ、いや御免。そんなつもりは毛頭なくて…つい言ってしまったというか…。」


実際かなりの美人なのは確かなのだが、相手を誤解させるのはまずかった。


「カモミールさんには俺じゃなくても、もっといい人が出来ますよ。」



「……そうだといいね。」


今後の依頼もお断りしておく。

それこそいらぬ誤解を招きそうだから。



****



振られてしまった。


「そっか…仕方ないね…。」


私は苦笑いした。


今日は家に帰って、布団にこもってやる。

しばらく誰にも会いたくないな。


「元気で。」


平静を装い、別れの言葉をかけた。

ミライの顔を見ずに駆け出す。

涙があふれてくる。


振り向いてくれるような気がしたんだけどな…。

恋愛経験皆無な私がうまく立ち回れるはずもなく。


「しばらくこういうのはいいや…。」


うつむいたまま、ひたすら歩く。

周りの視線など全く気にせずに私は泣きながら歩いていた…。



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