NAMREPUS
明日出木琴堂
NAMREPUS
雲一つない青い空に溶け込む青い体躯。ゆっくりとはためく真っ赤な布。
その真っ赤な布に刻まれた「S」の文字。
「空を見ろ!」
「鳥だ!」
「飛行機だ!」
「いや。スーパーマンだ。」
「いやぁ〜久しぶりに見たよ。」
「かれこれどれぐらいぶり?」
「そうだなぁ…、5~60年ぶりぐらいじゃないか…。」
「珍しいもの見れたよ。」
「今日は良い事ありそうだ。」
「緊急速報です。本日、午後。60年ぶりに姿を現したスーパーマンですが、アメリカ全土の主要都市をことごとく破壊していく暴挙に打って出ました。スーパーマンによるアメリカ全土へのテロ行為が行われました。現在時点での被害は、把握出来ている限りで102都市。被害総額は、100億ドルは下らない模様です。かつてのヒーロー、スーパーマンはいったいどうしてしまったのでしょうか…。」
パブリックモニターに映るニュース番組の30代半ばの白人女性アナウンサーは、今世紀最大のスクープをしたり顔で報道している。千載一遇のチャンスに喜びを隠しきれない様子だ。
「しかし、久しぶりに登場したスーパーマンにいったい何があったのでしょう…。彼の狙いは何なのでしょうか…。」と、こちらも、同席できた歓喜に小躍りしそうな50代白人の男性コメンテーターが巻くし立てる。
「もし気が狂って(ピー)しまったのなら、人類は彼に太刀打ちする事は不可能ですよぉ~。我々には彼に抗える術は持ち合わせてないですよぉ~。」またまた同席できた愉悦で有頂天のもう1人のバーコード頭に黒縁メガネの50代アジア系男性のコメンテーターが場違いなTシャツ姿でノリノリで不安を煽る《あおる》。
「只今、番組中に不適切な発言があった事を謝罪いたします。」と、超優等生タイプキャラの白人女性アナウンサーは、心ない口先三寸の謝罪を述べながら、真面目くさった表情できれいにブローされた金髪の頭を下げた。
スクープそっちのけの各人の思惑蠢くニュース番組の最中にも、スーパーマンによって新たに破壊された都市名がテロップで流される。
数分毎に都市の名前が変わっていく。信じられない速度でスーパーマンはアメリカ全土の都市を壊滅させていく。
壊滅した都市の数が160を超えたというテロップが流れたところで、スーパーマンによるこの日の暴虐は終わりを告げた…。
次の日も、スーパーマンはアメリカの様々な都市を破壊していった。
彼は、ビルディング、高速道路、高圧電線、空港の管制塔、…等々、都市の有りと汎ゆるものを破壊していく。破壊の限りを尽くす。
しかし、この暴挙を止めたくとも、この太陽系で向かうところ敵なしの最強の男を止める術など無い。
アメリカの人々は、彼が破壊行為を止めてくれるよう祈ることしか出来なかった…。
2日連続でアメリカ全土に現れ破壊の限りをし尽くしたスーパーマンは3日目には現れなかった。
アメリカの人々は寸時、胸を撫でおろせた。寸刻の平穏を甘受した。
しかし、アメリカの人々は、自分たちのヒーローであるスーパーマンの常軌を逸した異常な行動を受け止められずにいた。理解できずにいた。
中には、スーパーマンがこれだけの破壊行為を行っているにも関わらず「これには何か深い理由があるはずだ…。」と、彼を擁護する者もいた。
ただ、共通してアメリカの人々の胸中にあるものは「次、いつ来るのか…?」ということであった。
アメリカの人々が心中穏やかでは無かったのは事実である。
そして、数日後、アメリカの人々の心配をよそに、スーパーマンは再び現れた。
なぜか…、ロシアに…。
ロシアに現れたスーパーマンはやはりロシアの主要な都市を破壊していった。
スーパーパワーで。目から出る光線で。口から吐く極寒の息で。
アメリカ同様に都市の様々なものを破壊し尽くしていく。
国家から情報の統制を受けているロシアの人々は「アメリカとの戦争が始まった。」と、誤解する者も多かった。
スーパーマンを実際に見る機会のないロシアの人々の目には、彼は地獄の底からやって来た悪魔にしか映らなかった。
そして、ロシアの人々は彼を「青い悪魔」と、呼ぶようになる。
ロシア政府は、この緊急事態をアメリカに確認を取ろうとするが、スーパーマンによってことごとく破壊されたアメリカへ連絡する手立てがなかった。インターネットもメールも電話もファクシミリも、どれもつながらない。
アメリカの主要な機関への問い合わせも完全に不通状態。ペンタゴンもFBIもCIAも、どこにもつながらない。
両国の大統領の間にあるホットラインすらつながることはなかった。
ロシア政府は致し方無く、この状況を「宇宙人からのテロ攻撃。」と、判断し、武力を用いた鎮圧を行なう決定を下す。
しかし、その決定がなされるや否や、スーパーマンはロシアから忽然と姿を消してしまった。まるで煙のように…。
ロシアから忽然と姿を消したスーパーマンは、このあと数日間、出現することはなかった。
不謹慎な話ではあるが「アメリカ、ロシア、次はどこだ?」という話題が、世界中の人々の間で持ち切りだった。
被害を受けたアメリカとロシアの両国民までも同じ話題に夢中だった。
仲の悪い国と国の間では、名指しで相手国が崩壊することを望む不届き者まで現れる始末だった。
「アメリカとロシアがやられたのは、奴らが地球を破壊しているからだ。」とか「世界を牛耳る国々が標的にされているんだ。」とか「自然破壊を行っている大国が狙われているんだ。」とか、根も葉もない噂話でネットは溢れ返ることになる。
反感を持つ国を
そんな風潮に便乗するかように様々な思想団体や政治結社や宗教法人が雨後の
これを好機と、いろんな国々で抑えつけられていた大衆が動き出す。
活動が激しくなるにつれ、暴徒とかす団体や集団まで現れる始末であった。
これらの社会的現象は、金儲けの道具としても使われた。
スーパーマンの次の出現国、次に崩壊させられる国を賭けの対象にする不埒なブックメーカーまで現れた。非常時に非常識な行動だが、一山当てたい非常識な人々はルンルンで賭けに参加していた。
この間も、相も変わらず世界各国の政府機関は、スーパーマンの不当行為の動機が掴めずにいた。
「我々人類は、何か彼を怒らせるような事をしたのか?」
「我々人類は、彼の気持ちを逆なでするような事を言ったのか?」
いくら考えようとも、想像の域を越えない。
今後、地球上の人類は、この事態をどう対処し、スーパーマンをどう扱えばいいのか、誰一人知る者もなく、ただ単純に空想と想像を繰り返す無駄な時間を費やすだけであった。
そんな人類の悩みも知る由もないスーパーマンは再度現れた。次の出現先は日本だった。
日本のような小さな島国を破壊することなどスーパーマンには
ほんの数時間程度で日本の主要7都市は壊滅的打撃を受けた。
日本政府を代表して総理大臣が「遺憾だ。遺憾だ。」と、いつもの常套句を届くのかどうか分からない世界中に向けて声明として発表した。
日本への破壊行動が思いの外、満足出来なかったのか、中途半端だったのか、消化不良だったのか、スーパーマンはその足で中華人民共和国を破壊しに行った。
中華人民共和国は破壊し甲斐があったのか、建築物や構造物が脆かったのか、次々と日本海側の主要都市があっと言う間に壊滅していった。
日本に現れたことを喜んでいた中華人民共和国、及び中華人民共和国国民は、自国に矛先が向くと思ってもいなかった。日本の惨状を高みの見物で高を括っていた中華人民共和国と中華人民共和国国民は、スーパーマンによる自国の破壊を指を咥えて見守るしかなかった。
中華人民共和国は、何も関係ない朝鮮半島の国々を引き連れ「我々がスーパーマンの攻撃を受けたのは日本のせいだ。」「何もかも日本のせいだ。」と、日本を批難する共同声明を届くのかどうか分からない世界中に向けて表明した。
スーパーマンによる被害が拡大することで、破壊を受けた国、まだ受けていない国と状況は違えど、世界中の全ての国々がスーパーマンの不当行為に危機感をつのらせていた。
世界の国々は早急に会談を持つことを希望していた。
世界各国の代表が集い、今後のスーパーマンに対する対応・対策を協議する必要を痛感していた。
しかし、具体的に会談を持つとなると問題は「どこに集まるか?」という事になった。
万が一にでも、各国の代表が集まったところをスーパーマンに攻撃されようものなら、最悪の状況を迎えかねない。
それに、各国の動きが「スーパーマンの神経を逆なでするような事にでもなったら…。」と、二の足を踏む国も出てきた。
協議の必要性、重要性を感じながらも、ここに来て世界の国々は足並みすら揃える事が出来なくなっていた。
いつもなら強気の国際連合の常任理事国の5カ国も、うち、3カ国がスーパーマンによって破壊されている状況から、機能することも、決断することもできない状態であった。
そんな中、スーパーマンは南極に現れる。
南極の氷を目から出る光線で溶かしまくる。氷はみるみる溶けて水になる。
また、あるものは蒸発して水蒸気となる。
大量に溶け出した水は、海水面を上昇させていく。
大量に蒸発した水蒸気は、たくさんの雨雲を発生させた。雨雲は太陽の光を遮り地球表面の温度を下げる。低下した地表面の温度は低温対流を起こし、雲の温度を下げる。
その結果、雲の中の水分が冷えて大きくなり、雨雲は大量の雨を降らす。
大量の雨はまた海水面を上昇させる。
大量の雨は乾いた砂漠を潤わせる。
大量の雨は川を溢れさせ地面を水浸しにする。
スーパーマンが暴れる事で地球環境が激変してしまった。
各国の人々中に、スーパーマンのこの行為を「神がお怒りなのだ。」と、解釈する者が現れ出す。
スーパーマンは「実在する神である。」「現存する神である。」「人類の管理者である。」として
神と
しかし、この事を知った周辺諸国が止めに入り、どうにか引き留まる、といった出来事まで引き起こしていた。
南極の氷を溶かし捲くった数日後、スーパーマンは大気圏外に場所を移し、今度は地球に目掛けて宇宙デブリを投げつけ出した。地球に向かって投げつけられた宇宙ゴミは大気圏突入時に燃え尽きる。
山ほどある宇宙ゴミを地球に向かって投げつけた結果、それにより上空の大気がどんどん温められた。
温められた大気は強い上昇気流の発生させる。各国各地の上空に無数の竜巻を起こすことになった。
場所によっては数多の「龍」が天に登っている
この気象現象は一週間近く続いた。
この現象によってスーパーマンを更に神格化する人々や国家が激増した。
しかし、冷静さをなんとか保てている国々は、スーパーマンの暴挙をどうにか止められないかの思案六法を続けていた。
ただ、国々が集まる事もままならぬ状況の中では「力を合わせて」「団結して」とはいかない。なので国家単独で何らかの行動を起こすよりほかなかった…。
そんな中、比較的コミュニケーションのとりやすかったヨーロッパ連合がひとつの決断を行った。
「スーパーマンを攻撃する。」と…。
イギリスとフランスが中心となり、次回スーパーマンが出現した段階で軍事攻撃を仕掛ける事を決定した。
この決定の2日後、スーパーマンはヨーロッパ連合の意思を読み取ったかのようにフランス上空に突如として現れた。
それを感知したイギリスとフランスの両国空軍はスクランブル発進。
決定通りスーパーマンを迎撃しようと試みる。
しかし、イギリスとフランスの戦闘機は飛び回るスーパーマンの速度についていく事ができず、照準をロックオンすることも出来ない。この状況を見た両国は、なりふり構わず、全ての攻撃可能な武器の使用を軍に許可する。
指示を受けた両国軍は、スーパーマンを取り囲むように照準を合わせた大量のミサイルを地上や海中から発射。しかし、ことごとくかわされる始末。スーパーマンにかすらせることすら出来なかった。傷一つ付けることが出来なかった。
やり尽くし追い詰められたイギリスの首相とフランスの大統領は正気を保てず、焦燥感からか、深く考えることなく核ミサイルのボタンに手をかけていた。
そして、両人共に迷い無くボタンを押た。
瞬時、1000発以上の核ミサイルがスーパーマンめがけ発射される。
しかし、スーパーマンは迫りくる核ミサイルを、真っ赤なマントをなびかせながら取っては投げ、千切っては投げの大立ち回りで全て大気圏外に向かって放り投げた。
それはまるで、フリースタイルダンス、もしくは体感ゲームでもやっているようだった。
数分もしない内に全ての核ミサイルは大気圏外に消え去った。
スーパーマンは顔色ひとつ変える事無く、ヘアスタイルが乱れる事も無く、澄まし顔で空中に浮いていた。
反して、この様子を見た人類は絶対的な絶望を覚えることになってしまった。
今回のヨーロッパ連合の行動と結果は、全世界に諦めを深く深く刻み込む結果となった。
「彼には歯向かえない。彼を止めることの出来るものは地球上には存在しない。彼を止めることは地球上の誰にも出来ない。」
強大で絶大で人智・人力を超越した霊妙不思議なる力の前では、武力など無意味である事を各国は否が応でも認知することとなった。
そしてこの事実は、地球上の数カ国だけが今日まで強大な武力を保有していたのは、「武力介入で武器を持たない同胞を威圧にするため。」「武力行使で武器を持たない同胞を従順にするため。」で、あった事を武力を持たない国々が再認識する機会を与えることになった。
今まで武力によって抑え込まれていた国々は、強大な武力を有する国々を糾弾し始めた。
彼らは声を大にして言う。
「スーパーマン様。あの人々を
国家間で、人間間で、どんどん亀裂が生じ出す。政策の違いから隣国が信用できなくなる。価値観の違いから隣人を認められなくなる。それは時間と共にどんどん深い溝となった。
国々、人々の疑念は世界規模で渦巻くばかりで、スーパーマンの話は二の次になり出した。しかし、スーパーマンは今も変わらず、現れては破壊行動を繰り返す。
どうにか理性を保てていたごく僅かな人々は、「このまま最後の審判の日をジッと手をこまねいて待つだけでは埒が明かない。」と、一矢を報いる決意をする。
彼らはスーパーマンとの会話の手だてを思案した。
そこで白羽の矢が立ったのが、デイリープラネットで長年、ロイス・レインと共にスーパーマンの取材を行ってきた元デイリープラネットのジャーナリスト兼カメラマンの「ジミー・オルセン」だった。
【私の追憶と預言】
私、地球名、クラーク ケント。クリプトン星名、カル エル。地球での二つ名、スーパーマンは、ここにこれから地球及び、人類に起こりうる災厄について書き残こしておきます。
私は宇宙人です。
私の生まれ故郷はクリプトン星です。かの星は大昔に滅亡しました。
私の両親は、生後間もない私を脱出ポットに乗せ、滅亡するクリプトン星から逃がしました。
私は唯一のクリプトン星人となりました。
それから私は長久な時間、宇宙を旅します。
その長い長い時間は、脱出ポットに備わっていた教育プログラムにより、私に様々な知識を与える時間にもなりました。
長い長い時間、宇宙を彷徨って、やっと私を受け入れてくれるであろう地球という惑星に辿り着くことができたのです。
その時の私の見た目年齢は地球人の年齢で2〜3歳と言ったところでしょうか。
私は長い旅路で学んだ知識から、着陸した場所の地球人の興味を引き、私を育成させる画策を施し、その育成期間中、地球という惑星の様々な情報を取得することに専念しました。
私が着陸したのはスモールヴィルという地球という惑星においてはごくごく微々たる地域だった。
彼らは先ず私に育ての親の母方の姓である「クラーク」と言う名を付けました。
そして、彼らは直ぐに私の異能に気がつきます。その上で、彼らは私を地球人のように育てます。
彼らは、私が周囲から「異質物・混入物」とされないように非常に抑制した生活を送らせました。
この時代の地球人のコミュニティーは恐ろしい程に狭く、異質物・混入物を排除する傾向が強くありました。
なので、育ての両親は私に、目立つ事をせず、多数に紛れ込む様な生き方を「良し」としました。
私も育ての親の言付けに従い、宇宙人と覚られぬよう日常を送ってきました。
そこに思わぬ災難が起ころうと、そこに助けられる命があろうと、見て見ぬふりをして地球人としての生活を送り続けていました。
ハイスクール卒業とともに、育ての親の家を出て、この星この大陸では大都会と位置づけられているメトロポリスという街のデイリープラネットという新聞社へ就職します。
ここでも地球人である事に努めます。風体も時代遅れにし、ドジでのろまに徹します。
しかし、大都会に住む地球人は、スモールヴィルのようなちっぽけな地域に住む地球人とは違い、同じ地球人に対しとても無関心でした。
それは私にとって幸いでした。
少しばかり本来の力を出したところで誰一人として、私に関心を持つことはないのです。
私は両親からの抑圧から解放され、少しばかりいい気になっていたようです。
ある日、スクープの取材のために、デイリープラネット新聞社の屋上のヘリポートからヘリコプターを飛ばすことになりました。
スクープをモノにするには他社より1分、1秒でも早く現場へ着くことが重要になります。
その焦りからヘリコプターの操縦を誤り、落下する事故が起きてしまいます。
スモールヴィルにいた頃の私なら事故を見てみぬふりをしたでしょう。
しかし、大都会のメトロポリスでタガが外れ、いい気になっていた私は落下するヘリコプターを助けてしまったのです。
そのニュースは大都会メトロポリスに於いて大スクープになりました。
私はこの事故を救助する際に、地球人の格好ではなく、クリプトン星人の普段着に着替えて救助にあたりました。
何故かというと、地球の服には全く強度が無く、私が少し普段の力で動いただけで直ぐにボロボロになってしまうからです。それなのにとても高価なのです。私の地球での労働による給料はとても少なく、頻繁に高価な地球の服を購入することはできません。
クリプトン星の普段着の方は地球の服に比べ格段に強度があるのです。
クリプトン星の普段着はとても薄く、とても軽く、とてもしなやかで、とても伸縮するのです。その普段着の胸の部分には大きく家紋が施されています。
私から見るととても落ち着いた色使いの普段着なのですが、地球人の目には、
青・赤・黃という地球の色に見えるようです。
私の家紋もアルファベットの「S」と勝手に解釈し、私のことを「スーパーマン」と呼び始めました。
あのヘリコプター事故の救助の際に乗り合わせていた地球人のメスの記者に気に入られてしまったようで、その後も執拗に身辺を調査されることになりました。
宇宙人の私にとって地球人を魅力的思う嗜好などは持ち合わせてはいません。ましてそれが地球人のメスであれば、欲情するようなこともありません。
それなのに多くの地球人たちが私がそのメスの記者を気に入っているような勝手な想像を巡らすのです。
酷いものになると、私がそのメスの記者と性交し子孫まで残すような想像までされました。
宇宙人の私と地球人のメスがそのような事ができないことを分からずに好き勝手に想像を膨らませられました。
私は渋々、その地球人のメスと結婚することにしました。そうすることによって地球人は私をより受け入れたからです。しかし、結婚生活は仮面夫婦でしかありません。それでも地球人のメスは私の奥さんだと言うステイタスに酔っていたので、その地位と名声だけあれば、結婚ごっこであろうと関係なかったのです。
このように、あなた達、地球人と言う生き物は本当に身勝手な生き物です。
私に完璧を求めた。私はごくごく普通のクリプトン星人でしかないのに…。
私に地球人の描く理想のヒーローを当てはめた。
私も極力、地球人のリクエストに応える努力をした。
自分たちの理想に近い私という存在を知ってからは、自分たちで好き勝手した事に対し、困ったら私に助けを求める。
この好き勝手を地球人は「自由」と呼んでいる。
しかし、「自由」に好き放題やって困ったら他人任せで知らんぷり。地球人とは誠に勝手な生き物です。
私はそんなことに何度も何度も振り回されました。何度も何度も失敗の尻を拭かされました。しかし、完璧を求める地球人たちに、私は文句のひとつも言えなかった。私は地球人を甘やかせてしまったのかも知れない…。
私が初めて出現してから地球時間では60年程が経ったようですが、私にとっては、苦い60年間でした。
元々、クリプトン星人の肉体的成長は、地球人の肉体的成長と比べれば、何百倍も何千倍も遅いのです。
本来ならば、私は地球に来て一歳も年をとっていないのです。
この60年間で地球人は急激に増加し、急激に老化し、急激に価値観も変容し、私のことも忘れ去られました。私にとってそれは好都合なこのです。
余生を地球人に干渉されることなく静かに遅れるのですからです。地球人のわがままに振り回されずにすむからです。もう地球の環境を、生態系を、生物を、守ることからやっと解放されるのですから。
私は宇宙人です。
私は地球に到着するまでに途方もない時間、宇宙を旅してきたのです。
クリプトン星人は地球人より寿命が遥かに長い。肉体的成長も遥かに遅い。
久遠の長きに渡る旅の間でも、私はクリプトン星人の精神年齢で10歳ほどしか年を取ってはいなかった。肉体的年齢で言えば、2〜3歳程度。
ただ、太陽系の太陽の光は私に不思議な力を与えました。私が太陽の光を浴びた瞬間から信じられないほどのパワーが与えられました。私自身も知らなかった未知の力を得ることになりました。
そしてあのヘリコプター事故から、この力を地球のために使うことにしました。それが私を育ててくれた人々、私を受け入れてくれた地球、私にスーパーパワーを与えてくれた太陽系への恩返しになると思い。
メトロポリスで起きる様々な事件や事故や災難にこの力を惜しみなく使いました。
しかし、時間が経つにつれ、私の事が世界中に知れ渡るようになると、私に対する世界中からの需要がどんどん増加していきました。私は地球人のわがままに応えられるよう努めました。
ただ、良いことばかりではありませんでした。太陽の光によってスーパーパワーを得た代償として私の肉体系の細胞はほぼ地球人と同じスピードで年を取り、精神系の細胞は地球人より遥かに速いスピードで成長するようになっていました。
太陽の光は私にスーパーパワーを与えましたが、太陽の光は私の細胞の老化を促進させる要因ともなりました。
太陽の光によって私はクリプトン星では考え難いハイスピードな老化現象を起こしていたのです。
私の老化は地球の危機を示します。今の地球には…、止める術がないからです。
話を戻しましょう。
地球、人類に起こる災厄についてお話しします。
先ず、それにはクリプトン星の滅亡についてお話ししなくてはなりません。
クリプトン星は平和な星でした。
科学も技術も文明も地球より数段格上進歩した星でした。
クリプトン星人はクリプトン星を汚すこと無く、壊すこと無く、長きに渡って生態系を守ってきました。それがクリプトン星人に受け継がれている精神なのです。
間違えてもクリプトン星が滅亡するなどと考えることはありませんでした。
クリプトン星人の長い長い寿命をまっとうできる最良の環境の星だったのです。
しかし、クリプトン星人が長い寿命であるが故の最悪の事態を迎えることになります。
長い寿命のクリプトン星人を悩ませる問題として、不定期に発症する新しい病気というものがありました。病気の原因は、地球同様、肉体的なもの、細菌によるもの、ウイルスによるものと、多岐にわたります。
クリプトン星滅亡前に発症した新しい病気は肉体的原因のものでした。それ故に、発症が判明し辛く、分かった時には手遅れだったのです。
クリプトン星史上、これまでになかったこの病が、押さなくて良いはずのボタンを押させてしまったのです。
そのボタンこそ、万が一、クリプトン星が他の惑星人に侵略された時の最終手段、クリプトン星の自爆ボタンだったのです。
それにより、クリプトン星は寸時で滅んでしまいました。
そしてクリプトン星崩壊の原因となったその病とは…。
アメリカ上空に再度現れたスーパーマン。
この機会を逃さぬようオスプレイで近づくジミー・オルセン。
オスプレイに急ごしらえで備え付けられた大型拡声機でスーパーマンに呼びかける。
「スーパーマン。スーパーマン。聞こえるかい?聞こえとるかい?」
「君の友人のジミー・オルセンじゃ。ジミー・オルセンじゃよ。」
「覚えとるだろう。デイリープラネットでロイスの同僚だったジミー・オルセンじゃ。」
「君の奥さんのロイスの葬儀に出れなんだのは謝る…。」
「ロイスの亡くなる数ヶ月前に、君たちの家で一緒にトランプしたじゃろ。覚えとるか?」
「あの日の君の負けはもういいから。チャラにするから。話を聞いてくれんか?」
「スーパーマン。話を聞いて。」
「スーパーマン。」
「ん?!
…ロイスかい?
…飯はまだか?」
その病とは地球で言う「認知症」…。ボケだったのです。
年老いた者が莫大な力(武力)を持っているのは、いかがなものでしょうか…。
終わり
NAMREPUS 明日出木琴堂 @lucifershanmmer
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