モンスター

その女性はとにかく可愛かった。

髪は長髪で身長は145cmほど。普段は静かでおとなしい性格なのだが、たまに見せる愛嬌がとても可愛らしかった。体は身長が165cmの私でも小さいと思えるほど小柄で、それも私が彼女に好意を持つ理由の一つであった。


彼女と知り合ったのはバイト先で、初めて見た時は小さな女性で大人しく真面目なイメージしかなかった。


しかし、だんだん話していくうちに意外と雑な部分があったり、少し毒を吐いたりなど、彼女の素の部分が見えたような気がして、普段の真面目なイメージとのギャップに惹かれてしまった。

いつからか彼女のことが好きになっていた。

話している時に笑う顔や、会話の中でたまに敬語を忘れて話してくれることなど、全て私が彼女に惹かれる理由になった。

私の中では彼女に欠点はなく、私は彼女に好かれる人になろうと思った。初めて誰かのために自分を変えようとした。そのために努力する日々はとても充実していた。こんな日がずっと続けばいいと考えていた。



だから彼氏がいると知った時はショックを受けた。彼氏の存在を確かめる前に勝手に好きになり勝手に失恋して勝手に落ち込んでしまった。

自分の愚かさに呆れつつも告白する前に知れてよかったと思った。

まだ何も言ってないなら、明日から何事もなかったかのように生活を送ればいいのだ。彼女に対する気持ちを忘れ、ただバイト先の先輩としていつも通りに振る舞えばいいのだと、自分に言い聞かせた。



できなかった。ちゃんと失恋できなかった。気持ちを伝えずに自分中で終わらせようとしたこの気持ちは、彼女と話すたびに複雑な感情として私の中で渦巻いた。何かあるたびに彼女のことを考えてしまい、忘れようと自分の中で気持ちを押さえ込んでも虚しくなる一方であった。


私は彼女への気持ちに嘘をつくことをやめた。略奪しようなどとは決して考えなかったし、彼氏と別れて欲しいとも考えなかった。私は彼女に幸せになって欲しいし、今の彼女との関係は壊したくはなかった。

彼女に気持ちを伝えず、彼女に対するアプローチもせず、ただ、いい先輩として、あくまでバイト先の同僚として彼女と接した。

私のせいで悩みの種を作って欲しくなかったのだ。彼女が好きなことは変わらない。でも決して気持ちは伝えない。この、決して叶わぬ恋をし続けることを選んだ。


ある日彼女がバイトの休みを利用して東京に旅行に行くことを教えてくれた。私も同じタイミングで九州へ旅行に行く予定だったので、2人でお土産を買おうと約束した。

ただのバイト仲間への行動だと分かっていても私は嬉しかった。やっぱり彼女のことが好きなのだと感じた。

私はこの感情に浸るたびに叶わぬ恋をしていることも同時に感じる。

私は今日も涙を流した。彼女のことが好きだと感じるたびに涙を流している。


決して叶わぬ恋を一方的にしている私は、さながら人間のふりをして人間社会に溶け込み、人間の女性に恋をしたモンスターのようであった。

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