第2話 私と唯

私が求めてもあなたには求めないで欲しい。そんな矛盾を抱えたようなエゴを私は抱えている。

「ねぇ、じゃんけんで負けた方がジュース買ってくるのは?」

「ヤダ」

「なんでぇ」

「私は飲み物持ってるし」

「裏切り者〜」

昼休みいつものような私が絡んでもそうやってあしらって文庫本から目を離さない唯。

私と唯がこうやって2人で昼休みを過ごすように2ヶ月、それなりに経った。実際平日の5日間はほぼ学校にいる私たちにとって2ヶ月は長いと思う。だいたいはもう関係値を気づいてる頃。私も教室での関係はもう固まったと思う。でも昼休みはこうして唯と過ごしたくてここにいる。

唯は私に決して求めないから。唯がこうしてくれてるうちは私は大丈夫。私で居られる。

私はいつでもみんなから頼りにされていた。慕われてるとも思う。けどそういうものが嬉しいと思っていた時期はとっくに過ぎててなんだか疲れてしまうことが増えた。

友達に宿題を教える。先生の頼み事を聞く。最終的には学級委員にまで推薦された。なんだか今は体のいい、なんでも言うこと聞く子だと思われてる気がしてきた。高校入学の日もそんな感じなんだろうなと思うと疲れた。けど今さらこんな性格直せるわけなくて結局また学級委員。そんな時に出会ったのが唯だった。

初めて唯を見た時に思った。この子は私と同じ……同類だって思った。私よりは不器用で意地っ張りだけど。人に疲れていて1人でいようとする。私と違うのは、人に囲まれてないこと。だから話しかけた。

一人でご飯を食べてたあの子に、同情とかじゃなく、初めて仲良くなりたいなと思って自分から近づいたんだ。初めて話しかけた時の唯ちゃんにはめっちゃ邪険に扱われたものだったのを覚えてる。

「なんの用?」

「私?私は同じクラスの双葉!よろしくね」

「質問の答えになってないし」

私はそんな唯にはお構い無しで隣に座った。思ったより近かったのか、唯は少し隣にズレる。

「いやぁせっかく同じクラスになれたんだから仲良くしたいなぁって。」

「は?お節介?」

「なんで?」

唯の言葉には刺がある。人を拒絶していた。

「あんた、クラスでも仲いい子多いし、学級委員とかやってる。点数稼ぎのつもりなの?」

わかりやすい拒絶に笑ってしまった。

「いやいや、不登校の子に粘り強く行くとかならまだ分かるけど。唯ちゃん授業も真面目に受けてるじゃん。点数稼ぎにもならないって。」

唯は少しびっくりした顔をする。私もそんな顔におかしくなったけど続ける。

「ただ私にも疲れることがありましてねぇ。理想のクラスメイトなんてこうやって休まないとやってられないよ。」

「あんたにも色々あるんだ」

「そ、私みたいな優等生にも色々あるんだよ」

唯はそう言われて少し考えてくれたようだ。そうして溜息をつきながら言う。

「もうわかった……私は私で過ごすから、勝手にしたら」

「おお!!よろしくね唯ちゃん」

「抱きつくな」

私が抱きつくと唯は私を振りほどく。

「あ、遅くなったけど唯って呼ぶね」

「勝手に下の名前で呼ぶな」

「私も双葉でいいよ」

こうして私と唯は昼休みに屋上前の階段で過ごす中になった。そうして今に至る。

唯にとっての私はどんな風に思われてるのか分からないけど。少なくとも私にとって今、唯と過ごせてる時間はそれなりに居心地が良くて気に入っている。

唯は私に求めない。こうして邪険に扱われても私が一緒にいるのはそれが理由。だから唯には私が何を言っても唯のままでいて欲しい。

「ねぇ、じゃあジャンケンだけしない?」

「意味無いでしょ……」

私がどれだけ求めても唯には求めないで欲しい。

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クーデレ少女は優等生クラスメイトに絡まれる。 岬鬼 @sinonomerabbit950

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