プロローグ2
港井芦乃(26)
独身 東京都世田谷区在住 瀬々木百貨店勤務
趣味 散歩・旅行 座右の銘 一期一会
東北から上京し、念願の東京勤務の夢が叶った
昔から都会というものに興味を持っていた。都会の事なんて何も知らないのに東京の事を話す皆のキラキラした目を見て理由もなくただ憧れていた。
死に物狂いで就活をし、やっとの思いで百貨店の仕事に就け、必死に働いた。
新人に課せられる多くの雑用、時間外の労働、上司のハラスメント、レジの収支が合わず一円玉を永遠と探し続ける日々。
その全てに耐えながら念願の東京でも仕事を必死にこなして来て4年目。
5人いた同期は3年目にして全員いなくなり、1人になった。
仕事のやりがいや東京への憧れは気のつかぬうちに全て消え去り最早なんの為に働いているのかさえ分からない。
家に帰るのは夜中。休日は溜まった疲れを削ぎ落とすために1日寝て終わる。趣味だった散歩と旅行は入社以来1度もしていない…。
死のう。
そう思った。
いつものように会社から帰る帰り道、大きなショーウィンドウの前を通り過ぎ、横断歩道の信号が赤なのを見て立ち止まる。
最近は通る信号が全て赤な気がする。全くもって腹が立つ。疲れているのだから早く青になれと苛立つ。
長い長い赤色の信号がやっと青になったのを確認する。
重い足を引きずって横断歩道を渡った。
・・・
『フラッシュバックカンパニーへようこそ』
男が言った。
訳が分からないが死んだらしい。
『話を聞きなさいよ、アナタは死んでませんって言ってますでしょう』
男が言った。
やはり訳が分からないが死んでないらしい。
助かったのか…
頭の整理がつかないけれど安堵した。
とりあえず男の説明を聞いた。
・・・
「はい、説明は以上です。」
「貴方は死ぬという事でよろしいですか?」
「え?」
まだ何も言っていないが死ぬのか私
やはりトラックがあそこまで近づいていたら助からないだろう。諦めるしかない…
「私はやっぱり助からないんですか?」
そう聞いてみる。
「ですから、先程説明したでしょう、それは貴方次第だと、」
男が言った。
「てっきり貴方は死にたいのかと思っていましたが、違いましたか?」
男が言った。
そうだった、
私は死のうと思っていた…
あの地獄のような生活から
逃げようとしていたのだ。
「そうでした、生きてても意味が無いんでした。」
「そうですか、では死…」
「嫌…」
何故だろう、漏れるように言葉が出た。
「何故ですか?」
男は聞いた。
「生きていたい…」
やはり言葉が勝手に漏れ出てくる。
「多分、意味…なんて、、、ないんだと思います、、」
「田舎で難なく育って両親と祖父母に期待されて上京して、なんの意味もなく地獄のような日々をやり過ごしてきたけど、今、考えると…
やっぱり生きてる意味なんてないって思うんです」
「ただ生きていたいって今思ってる。それだけじゃダメですかね…」
男の口の端を少し上げた。
「そうですか、分かりました。」
「実はこの場所は本音が漏れてしまう場所なんですよ」
「え?」
「貴方、先程言葉が勝手に出てきたでしょう?」
「ここでは貴方が無理して出した言葉よりも魂の叫びが優先されるんですよ、漏れるように本音が出てきてしまうんです。」
男は語った。
「では、貴方は生きるという事で
よろしいでしょうか?」
「はい」
「そうですか、貴方は元々トラックに引かれる直前に近くにいた男性に助けてもらう運命なのでここに来る必要は無かったのですが、、、
まあ、生きることを選んでいただけて良かったです。」
『それでは、御相談頂きありがとうございま
した。素晴らしい余生をお楽しみください。
ここはフラッシュバックカンパニー
またのお越しをお待ちしております。』
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トラックに轢かれそうなところを知らない男性に助けてもらったのは昨日の話。何故だか今になって物凄く生を実感している。
今の職場を辞めて地元に転職して親孝行でもしよう、そう思った。
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