第57話 アイスルクニ

 アオイが神獣だということが判明した後、グレイソンを追いかけていたが見失ってしまったアンドレアたちが帰ってきた。


それと同時にマリアやグレンとも合流し、グレイソンを追いかけるメンバーを決めることにしたようだ。


「アオイ様の主であるルティア様が行くのは決定として、後は誰が行くか……ですね」


オスカーがこの場にいる全員に向けて話しかける。


誰が最後の戦いに参加するのか、それはルティアにとってももう一人に選ばれる可能性のある者全員にとっても重要なことだ。


この人選によって、戦いの結果が変わると言っても良いだろう。


「接近戦なら、イーサン様かオスカー様、遠距離での戦いであればマリア様と言ったところでしょうか……」

「接近戦であれば、我々ユニオンも得意ですよ。それに、アンドレア様は両方出来ます」


アメリアがチラッとつぶやいた言葉に加えて、情報を付け足そうとシリルが口を開く。


「そう考えると、アンドレアさんが良いのだろうか……」

「我は誰が行くことになっても構わないぞ?」


イーサンが腕を組み始める。アンドレアは、他の者たちを心配させないためにアンドレアなりの気遣いをしている。


そんな光景をまじまじと見つめていたルティアは、一度深呼吸をすると、全員の目を一人ずつ見ていく。


「じゃあ、アンドレアさんがついてくるということで大丈夫かしら?」

「大丈夫だと思います」

「問題ありませんよ」


王宮組の代表としてイーサンが、ユニオン組の代表としてシリルがルティアの言葉に返事をする。


これでグレイソンの元へ向かうメンバーは決まった。


そうと決まればルティアたちはアオイとともに空へ飛び立つ準備を始める。


「アオイ、よろしくね」

「あぁ、任してくれ」


自信満々なアオイ。ルティアは、アオイのそんなかわいらしい仕草に小さく微笑むと、アオイの背中の上に乗る。


その後、アンドレアもルティアの後ろに乗った。


「姫様、絶対に、無事で帰ってきて下さいね。無理は禁物です。怪我をされてしまっては、俺が困りますからね」

「えぇ、大丈夫よ。ちゃんと帰ってくるわ。約束よ」

「……約束、ですよ」


真顔で最後の言葉を伝えるイーサン。戦争で最後までサポートをすることが出来ないのが少し寂しくなってしまっているのだろう。


しかし、ルティアの方は気づかない。好きな人の反応のはずなのに。


「えぇ! それじゃあ皆。行ってくるわね!」

「行ってらっしゃいませ、ルティア殿下」

「待ってるですよ〜!」


グレンとマリアの発した台詞を後に、アオイは空へと飛び立っていく。残された者たちは、不安と期待を抱えながらルティアたちを見守るのであった。



***



 イーサンたちが見守る中、空へとやってきたルティア、アンドレア、アオイの三人はアオイの頑張りのおかげで速いスピードで飛び回ることができ、グレイソンを探していた。


「どこかに人影は見えない?」

「いや、それらしい姿はどこにも。だが、まだあまり時間が経っていない。この辺りにいるはずだ」


ルティアとアンドレアの言葉が上空で交わされる。一応馬が通った足跡のようなものなら見えるのだが、人の気配は感じられない。


「アオイ! あの馬の足跡をたどって行くことって出来る?」

「あぁ、出来るぞ」

「なら、お願いして良いかしら?」

「承知した」


足跡の向かう方向に合わせて飛ぶ方向も変えるアオイ。足跡がカーブしていたらアオイも一緒にカーブする。


「……! アンドレアさん! あれ、グレイソン様かしら!?」

「……あぁ、そうだ! あの人だ!」

「アオイ! あそこに向かって全速力よ!」

「承知!」


しばらく足跡をたどって地上を見ていたルティアがグレイソンを見つけると、今までのスピードの二倍のスピードで飛んでいくアオイ。


案外すぐに追いつくことができ、馬に乗ったグレイソンの目の前に降り立った。


「グレイソン様! 覚悟しなさい!」

「……くそ!」


馬の走りを止めるグレイソン。


「グレイソン様、もうこんなことは止めて下さい。なぜスピカ帝国を乗っ取ろうと考えておいでなのですか!?」

「お前には関係ない!」

「えぇ、関係ないわ! だけど、こちらも愛する国を失うわけにはいかない! 理由を言わないのなら手荒な方法であなたを捕まえるわよ!」


アンドレアとグレイソンの会話を遮るようにルティアが口を挟む。


その言葉に、グレイソンは更にイライラをためてしまう。


「うるさい! とにかく、俺は国を乗っ取るんだ!」

「なら、手荒な方法しか無いわね!」


逃げようとするグレイソンと、それを止めようとするルティア。


もうすでに理由を聞く気など無いルティアは、アンドレアに声をかける。


「アンドレアさん! 私、かなり強力な魔法を使うことになるから、防御をお願いして良いかしら?」

「分かった。くれぐれも、気をつけろよ」

「えぇ!」


魔法具にありったけの魔力を込めると、グレイソンに杖先を向けるルティア。


一度深呼吸をすると、詠唱を始める。


「雷鳴とともに舞い、大地を揺るがす力を解き放て! ソラリアル・ハリケーンブラスト雷・水・風魔法!」


雷、水、風の三つの魔法が融合した強い攻撃魔法を放つルティア。今までの魔法など比にならないくらいの威力だ。


「う、うわぁー!」


グレイソンの叫び声が響き渡る。一応殺傷能力のない攻撃なので、強い衝撃を受けただけだ。


だけど、ルティアたちは勝利した。長く続いた戦争は終わったのだ。


しかし、ルティア側への負荷は絶大だったようだ。


「皇女様!?」

「主!?」


魔法を使った負荷からか、立っていられないどころか気を失ってしまったルティアは、後ろにいたアンドレアの方へ倒れ込んでしまったのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

オ:オスカーです。

マ:オスカー様はアオイ様の年齢、聞いたです?

オ:いえ……忙しくて聞いている間もなかったので、聞けていないです。

マ:そうですか。実は私、この前アオイ様の年齢、聞いてきたです!

オ:ほ、本当ですか!? それで、何歳だと言っていたんですか!?

マ:それが、忘れちゃったみたいなんです。

オ:……え?

マ:一応スピカ帝国が建国された頃より前にはいたらしいですが……。

オ:す、すごい。ってことは、僕たちの平均年齢はアオイ様によってだいぶ上げられているということでしょうか・

マ:そうですね。なんか、良いのか悪いのか……。

オ:はい。それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

マ:次回、とうとう最終回! 試練を終えたルティア様の結果とは……? そして、私たちのその後の生活はどうなったのか!?

オ:第58話『フントウキ』

マ&オ:最後まで、よろしくお願いいたします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る