第56話 ソラ
「よ、よし……これで全員」
騎士たちが敵一人一人を拘束している中、ホッとしたのが全面に出ている声を発するアーサー。
剣先を下に下ろし、完全に戦いが終わった気分でいる。
「アーサー様、拘束した者はどこへ連れて行けば良いですか?」
団長を無くした今、一番そういった事情に詳しそうなアーサーに指示をあおるしか無い騎士たち。
自分もどこに連れて行くのかよく把握をしていないアーサー。とりあえず、当たり障りのない指示をする。
「とりあえず、あちらにまとめて連れて行って下さい。もう少ししたら応援が来るはずなので、その際に身柄を引き渡していただけるとありがたいです」
「了解しました。では、そのようにいたしますね」
騎士はアーサーに向けて笑顔で一礼すると、アーサーが先程指さした方向に拘束した敵を連れて去って行く。
そこで改めてホッとするアーサー。しかし、そう簡単に戦争が終わるわけがない。
「アーサー!」
アーサーは自分のことを呼ぶ声を察知するとそちらへすぐに顔を向ける。
見てみると、そこにはなんとこちらへ向かって走ってくるルティアとシリルの姿が。
「どうしたんですか? ルティア様。こちらの担当では無いはずじゃ……」
ルティアがやってくると、驚きの感情を持ったままルティアに確認をするアーサー。
対して走ってきたばかりで疲れているルティアは、息切れしながらもアーサーの言葉に頷く。
「えぇ。そうなんだけど、グレイソン様に逃げられちゃって。今アンドレアさんとクラークさんが追いかけてくれているんだけど、どのみち捕まりそうも無くて……」
「そんなに逃げ足が速いんですか?」
「ううん。そういうわけじゃ無いんだけど、雷魔法を上手く使って目くらましをしてくるの。一つ一つが小さいから対処できないことは無いんだけど、どうしても魔力の消費が手間なのよ」
魔法を使う者ならではの問題を語るルティア。
一応作戦でルティアとアンドレアの魔法が切り札となっているため、あまりホイホイと魔力を使うことが出来ないのだ。
「それは困りましたね……」
アーサーは腕を組む。と、そのとき、もう一つのグループも勝利を収め、集まってくる者たちがいた。
「ルティア様! 勝ちましたよ! あの団長に! 僕たちの勝利です!」
興奮しながら自分たちの結果を伝えるオスカー。その横に立つイーサンもまた、うれしそうに笑みを浮かべている。
「そうなの!? おめでとう!」
「ありがとうございます」
興奮してお礼を言いそうにもないオスカーの代わりに、イーサンがお礼の言葉を述べる。
そして、少し遅れて二人の後ろを追いかけてきたアメリア。肩で息をしながら、ルティアに話しかける。
「ルティア様、お二人ともヒドいんですよ。戦いの最中ずっとサポートをしていたのに、イーサン様とオスカー様ったら、私を忘れて二人だけで戻ってしまったんですから」
アメリアのおでこには怒りのマークが浮かんでいる。そのおかげでイーサンとオスカーは少し気まずい状況に。
「す、すみません。興奮していたものですから……」
「すまなかった、アメリア」
二人は同時に頭を下げる。なかなか許す態度を取らないアメリアにルティアは少し心配の意を向けながらも、ふと気がついたことをアーサーに問う。
「アーサー、マリアとグレンは?」
「あぁ、二人ならあそこにいますよ。グレン様が怪我をしてしまったので、マリア様が手当てに当たっているんです」
アーサーが指さした方向にこの場にいる全員が視線を向ける。
見ると、そこには地面に寝ているグレンと手当てをしているマリアの姿がある。しかし、グレンの体は動いているようなので、ひとまず安心だと悟るルティア。
これでルティアたちの問題は一つとなった。
「それじゃあ、本格的にグレイソン様をどうするか……ね」
「逃げられたのですか?」
「はい。アンドレア様とクラークさんが向かっていますが、戻ってくるのは時間の問題だと思います」
ルティアのつぶやきに対するイーサンの質問にシリルが補足をする。
なんとか良い案を導き出したいが、土地勘のあるグレイソンが有利な状況なので、陸の上で勝つのは難しいようだ。なかなか案は出てこない。
しばらく沈黙の時がつづくが、その静寂をなんとアオイが破ったのである。
「陸がダメなら、空から攻めれば良いのでは?」
「「「「「「空……?」」」」」」
予想外の答えに、口をあんぐりと開けてしまうルティアたち。
一方のアオイは、自信満々に自分の策を伝える。
「我であれば、二人分であれば背中に乗せて送り届けられるぞ?」
「で、でも、アオイは小さいじゃない。これじゃあ私たちが小さくなるかアオイが大きくなるかしないと二人も乗れないわよ?」
「問題ない。我が大きくなる」
会話が成り立っていないように見える。アオイから見たらもちろん成立しているのだが、ルティアたちから見れば成立はしていない。
アオイは、きちんと成立していることを説明するため、ルティアの肩から降りて地面に足をつける。
「我の姿、しかと見よ!」
そう言うと、アオイは自分の体全体を黄色の光で満たし始める。
ピカッという一瞬の発光に目をつむってしまったルティアたち。次に目を開いた瞬間、アオイは人二人など余裕でのせられるほどの大きな体に変化していた。
「我は神獣だからな。これくらいのこと、造作も無い」
格好つけるようにさらっと言ってみせるアオイ。
「し、神獣!? それって、あの伝説の!?」
「左様」
「「「「「「え、えぇーっ!?」」」」」」
大声を響き渡らせるルティアたち。神獣とは、スピカ帝国に伝わる伝説に出てくる、魔力を持った非常に珍しい動物だ。
そんな動物が目の前にいるとなると、驚かないわけがない。
つまり要約すると、ルティアたちはアオイの予想以上の反応を示したのであった——。
つづく♪
〈次回予告〉
ル:ルティアです!
ア:アオイだ。
ル:アオイって、神獣だったのね〜。私、魔法が使える小さな鳥だと思っていたわ。
ア:まぁ、無理もない。この姿ではただの小鳥にしか見えぬ上、魔力の気配も消しているからな。
ル:アオイがしゃべれるのを不思議に思っていたのだけれど、神獣だということならば、全て納得がいくわね。
ア:そうか? なら、良いのだが。
ル:えぇ。私の使い魔さんはとっても優秀だと言うことが分かったわ!
ア:主……。今、我はとても感動しているぞ!
ル:ふふっ。ありがとう。それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?
ア:我の背中に乗り、グレイソンの潜む場所へと向かった主とアンドレア。
ル:そしてとうとう、決着の時がやってくるのです!
ア:第57話『アイスルクニ』
ル:この作品も、後二話で完結です!
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