第55話 タタカイト、コウドウ

「グレン! グレン! しっかりするです!」


グレンの意識が遠のく中、戦場にはマリアの声が響き渡る。


敵から跳び蹴りを食らってしまったグレンは、相手からの強い打撃に倒れ、その上倒れたときの衝撃で気を失ってしまっていた。


そんなグレンを助けるため、アーサーとマリアの連携でアーサーが騎士たちと一緒に戦いを続け、マリアが魔法を活用してグレンとともに待避することに。


その後、マリアはグレンの気を取り戻そうとグレンの名を叫びまくっているのだ。


「グレン! しっかりしなきゃダメです! それじゃあ、せっかく宰相候補になっているのに、もったいないです!」


早く目を覚まして欲しいのに、全く目を覚ます気配のないグレン。マリアの目には、早くも涙が浮かび始めていた。


「グレンは……宰相になるんじゃなかったです!? ルティア様の元を離れたのも、未熟な自分を強くするためじゃなかったですか!?」


目を覚まさないのが悔しくて、相手は怪我人だというのにポカポカとグレンの事を叩く。


しかし、それが効いたのかは分からないが、少しずつグレンの意識は戻りつつあった。


(……マリアの声が聞こえる気がする。俺は……どうなったんだ?)


外の様子が気になるグレン。しかし、体が思うように動かない。


(どうしたんだ? 体が全く……動かせない)


自分の変化に驚いているグレン。しばらくは動かそうと頑張っていたが、なかなか動かせないため、諦めて目を開けることにした。


目を開けてみると、顔の目の前で泣いているマリアと目が合った。


「グレン!? 目を、覚ましたですか?」


半信半疑で問いかけるマリア。グレンは涙を流して心配するマリアの表情を見て、なんだか笑いたくなってしまった。


「な、何だよマリア。俺が違う人間だとでも言うのか!? おかしい奴」


本当は心配してくれてうれしかったのだが、照れくさいため笑いで誤魔化すグレン。


しかし、マリアの方はそんなことを全く気にしない。


「ホントにグレンですね!?」

「……そうだよ。お前に学園の首位をずっと取られ続けてたグレンだよ」


グレンは、信じてもらうために学園時代のことを持ち出してマリアを説得しようとする。


その作戦が成功したのか、マリアは再び涙を流し、グレンに抱きついてきた。


「グレン〜!」

「な、何だよ! 離れろ!」

「嫌です! 死んじゃうかと思ったこっちの気持ちも考えて下さいです!」


マリアの抱きしめる腕の力は強く、またマリアの言葉もグレンの心を打ち抜いている。


(そうか……心配させすぎたな)


反省したグレンは、しばらくそのままの状態でそっとしておいてあげたのだった。



***



 その頃、イーサンとオスカーの二人は全く攻撃が通じないことに疲れを感じてきていた。


「はぁ、はぁ……俺たち二人が束になっても勝てないなんて……」

「イーサン様、気を強く持ちましょう。このままじゃあ負けてしまいます」


一方で疲れなど見せていないエイダンは、笑顔を絶やさずイーサンたちの相手を続けている。


「どうしました? もう限界とは言わせませんよ?」


エイダンの強さには歯が立ちそうに無い。どうしようも無いため、最後の切り札を出すことを考慮し始めるイーサンたち。


「しょうがない。あれをやるか」

「……そうですね。その前にも何かやっておいた方が良いと思います」

「分かった。動きはそちらに合わせる」

「了解です」


秘密の会話を続けた後、再び攻撃を開始する二人。場所を入れ替わり立ち替わり、攻撃を続ける。


しかし、エイダンは攻撃を華麗にかわしていく。


「どうしたんですか? それしか出来ないのですか!?」


挑発中のエイダン。しかし、イーサンとオスカーにはその程度では効かない。


「イーサン様!」

「あぁ!」


一気に飛び出す二人。今までで一番速いスピードだ。


(速いですが……一直線に来ては意味が無いですよ)


心の中でそう叫ぶエイダン。しかし、イーサンたちはそんなことわかりきっている。


「「はぁぁっ!」」


軌道を変えてエイダンの予想していた方向と全く違う方向から攻撃を加える。


相手に怪我は負わせていない。だが、エイダンは防御を出来ていないようだ。


「エイダン団長、俺たちの勝ちだ」


エイダンに鋭い目を向け、高らかに宣言したイーサンであった。



***



 こちらはルティアたちの戦いの場。


やはり三対一では差が歴然としているようで、ルティアたちが明らかに勝っている状況だ。


(くそ……なかなか勝てない! ……かくなる上は!)


グレイソンは、自分の魔法具に魔力を込める。その様子に、最初に気づいたのは警戒を怠っていないルティアだ。


「アンドレアさん! 気をつけて!」


ルティアの叫び声の直後、辺り一面に強い光が放たれる。


「何があったんだ!?」

「……あ、あそこ!」


目を開けられるようになると、脱出を図りこの場を走り去っていくグレイソンの姿が見えたのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

ア:アオイだ。

マ:アオイ様とちゃんと話すのは今回が初めてです?

ア:あぁ、そうだな。確かに、主以外の者とはあまり話したことがなかった。

マ:一つ、聞いてみたいことがあるですけど、良いですか?

ア:あぁ、良いぞ。

マ:本来はルティア様に聞いてからアオイ様に聞くつもりだったのですが、アオイ様って、何歳なんです?

ア:? 我の歳か? はて……何歳だったか……。

マ:覚えてないんですか!?

ア:あぁ。何せだいぶ生きておるからな。少なくともこの国が建国される前は生きておるぞ?

マ:それじゃあ、一〇〇〇歳は超えているんですね…‥。

ア:そういうことになるな。

マ:そ、そうですか…‥。

ア:それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は?

マ:グレイソン様の驚きの行動に対応しようと戦場を走る私たち。そんな中、アオイ様が提案したとある方法とは……?

ア:第55話『ソラ』

マ:読んでくださいです〜!

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