第54話 サクセント、ツヨサ

 こちらはマリアとグレン、そしてアーサーのグループ。


敵の重要人物と戦っている他のメンバーと違って襲いかかってくる部下たちをなんとか戦えるようになってきた騎士団のメンバーと一緒に倒していた。


しかし、人数が違いすぎるせいかいつまで経っても勝てる気がしてこない。


「くそ! 人数が多すぎる!」

「グレン! そうこう言ってるヒマはないですよ!」


マリアは時間稼ぎをしようと水の球を投げつけながらグレンの言動を叱る。


その裏で、アーサーは一人の騎士と協力し、黙々と敵をなぎ倒していた。


「アーサー様! そちらをお願いします!」

「了解した!」


相手に聞こえるように声を上げると、アーサーは騎士が指さした方向と少しだけずらした方向に走っていく。


もちろん、相手に狙われていると悟られないようにするためだ。


「うぉぉぉっ!」


飛び上がると敵へ斬りにかかるアーサー。


しかし、アーサーには人を殺す気はさらさら無く、相手が身を守ろうとなぜかうずくまったこともあり、手の甲に傷がつくだけとなった。


それでも痛いものは痛いので、なんだか弱々しいアーサーが相手をした敵は手の甲を自分の反対の手で押さえ、あっさりと騎士たちに取り押さえられる。


「よ、弱い……」


ぼそっとつぶやくアーサー。


弱い者にかまけているヒマはあるわけがないので、すぐに戦いに意識を戻したが、いつもであったら相手の弱さに腰が抜けていたかもしれない。


一方でグレンはたまたま強い敵と当たってしまったようで苦戦を強いられていた。


「くそっ!」


攻撃が通らないことにいらついたグレン。数歩後ずさりをすると、自分があまり思い出したくないことを思い出してしまった。


(これじゃあ……ルティア殿下の元を出て行ってから全く役に立てなかったユニオンでも俺と一緒じゃないか!? 俺は、強くなってルティア殿下やあのイーサンに認められる男になるつもりだったのに……)


自分の中での葛藤が始まった。しかし、そんなことを知ることも出来ない相手は容赦なく斬りかかってくる。


(くそ……! 下手したら、殺される!)


剣で防御してはいるものの、過去の引っかかることがあるせいで思うように剣が振れないグレン。


イーサンに負けた気がしてルティアの元を出て行ったのに、これでは格好がつかない。


なんとか剣を振り続けるが、相手には全く当たらない。それが更にグレンをいらつかせる。


そんな負の連鎖が起こっていては、戦場で普段通り戦えるはずもなく……。


「グレン! 後ろ!」


マリアの叫び声が聞こえてくる。グレンは過去の自分と目の前の敵に気を取られすぎていたのだろう。


マリアの叫び声に反応することも出来なくなってしまっていたグレンは、後ろからやってきた敵の跳び蹴りを食らってしまったのだった——。



***



「アンドレア。寝返りが早すぎるのではないか? もうルティア様と仲間になっているだなんて」

「我のことは何とでも言えばいい。何せ、我は皇女様よりあなた様の方がずっと非道な人間だって気づいたからな。そりゃ寝返るさ」


グレイソンを囲むように散らばっていた大勢の敵は、ルティアたちの優秀な働きで倒し終えた。


しかし、戦いはまだ終わっていない。自分たちの担当であり、敵の幹部であるグレイソンがまだ捕まえられていないからだ。


しかも、グレイソンはかつてのアンドレアに指示を出していた張本人。


なかなかユニオンの情報を集められず苦労していたルティアは、グレイソンのことを必要以上に警戒している。


(あれだけの情報を隠せていたのはグレイソン様の活躍もあるはず……。警戒していた方が良いわよね)


そんなルティアの警戒の目に気づかないグレイソンは、まだアンドレアへの威嚇を続けている。


「まぁ、いい。どうせお前たちは用済みだ。そこの皇女様と最後のスピカ帝国での生活を楽しむんだな」

「えぇ、勝手にしますよ。それに、皇女様たちの国は、絶対に滅ぼさせたりしない」


真剣な目つきのアンドレア。


アンドレアの目つきの様子に合わせシリルとクラークも剣を改めて構え直す。


「それじゃあ、楽しめよ。最後の戦いを」

「えぇ、あなた様こそ」


にやりと微笑んだアンドレアは、仲間の方を振り返ることも無くグレイソンの元へと突っ込んでいく。


こうして、双方の幹部同士、そしてかつての仲間同士の戦いが始まったのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

イ:イーサンだ。

ア:アーサーです。

イ:アーサー、そちらの戦況はどうだ?

ア:あちらの方がまだ数は多いですが、だいぶ戦況は良くなりましたよ。勝てそうです。イーサン様はどうですか?

イ:あまり良い戦況とは言えないかも知れないな。……エイダン団長が強すぎる。

ア:そうですか……。あまり役に立たないかもしれませんが、応援してますので。頑張って下さい。

イ:あぁ。姫様のためにも頑張ってくる。

ア:それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

イ:俺たちとアーサーたちのところではもう少しで決着がつきそうな雰囲気が……?

ア:一方で決着がつきそうでつかない中、ルティアたちと戦うグレイソン様はとある行動に出ます。

イ:第55話『タタカイトコウドウ』

ア&イ:お楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る