第53話 センリョクブソク

 重要な戦力としてスピカ帝国側についていたエイダンが、なんと自国へやってきたスパイだった。


その事実をなかなか受け入れることが出来ないルティアたちは、グレイソンをにらみつけるのも忘れてエイダンに詰め寄る。


「そ、そんなの嘘ですよね? 前に俺が襲われたとき、助けてくれたではないですか!?」

「そうです! 私たち、あのときエイダン団長が助けてくれたからここにいられるです! レイラ王国のスパイだなんて、きっと聞き間違いです!」


特に視察のときにエイダンに助けてもらった経験があるグレンとマリアは余計に信じることが出来ない。


「いいえ。聞き間違いではありませんよ。私は本当にスパイとしてスピカ帝国の騎士団長をやっていました」


このエイダンの事実と認める言葉に、ルティアたちはやっと確信する。自分の敵は、グレイソンだけではない。エイダンもいるということを。


「……そうですか。それでは、あなたのことも敵として認識していいのですね」

「えぇ。大丈夫ですよ、ルティア様」


いつもの優しげな笑みを浮かべ、ルティアの確認の言葉に大きく頷くエイダン。


その笑顔の裏に隠された本心をさすがにアンドレアたちも感じ取ったようで、警戒態勢に入っている。


「分かりました。それでは、こちらとしても全力でかからせていただきます。……負けるわけには、いかないので」


そう言いながら、魔法具を使用する準備を始めるルティア。それに合わせて他のメンバーも剣や魔法具を準備する。


「覚悟して下さい! エイダン団長!」


足に力をこめ、力強く前へと駆けていくルティアたち。しかし、エイダンのことで衝撃を与えられてしまっている騎士団のメンバーはあまり使い物にならないようだ。


おかげで、ルティアたちと元・ユニオンメンバーで戦うしかなくなってしまったのである。


「オスカー、行くぞ!」

「はい! イーサン様!」


エイダンへの攻撃はイーサンとオスカーの二人組と後ろでそれをフォローするアメリア。


イーサンとオスカーはエイダンに剣を教えてもらったこともあり、戦うのであれば自分たちがと目線で意見を伝えていた二人だ。


アメリアは、エイダンが騎士団長という立場、自分がルティアの筆頭侍女という立場からよく話をしていたため、戦いに参加をしている。


「「はぁ!」」


二人は、全く同じタイミングでエイダンに斬りかかる。両方の攻撃が当たらずとも、どちらかの攻撃が当たれば良いと考えての攻撃だ。


——しかし。


カキン! カキン!


二度、金属が跳ね返される音が響き渡る。エイダンは、腰に装着していた剣の鞘を剣を持っていない左手で持っていた。


それの意味するところは、イーサンの攻撃もオスカーの攻撃も両方ともはじき返されたということである。


「さ、鞘!?」

「オスカーも、まだまだですね。それではルティア様を守ることは出来ませんよ」


そう笑顔で言いながら、軽くオスカーへ一太刀加えるエイダン。


オスカーの服が少々破れてしまった。


「!?」

「そのままでは、私に殺されてしまいますよ。もちろん、イーサン様も」


一瞬にして攻撃されたことに驚くオスカー。イーサンに関してはオスカーと戦っているはずのエイダンから自分の名前が出てきたことに驚いている。


「イーサン様!」


サポートのアメリアからの叫び声が響く。その声に気づいたイーサンがふと後ろを振り向くと、とっさに移動をしていたエイダンからの攻撃が始まっていた。


「……っ!」


ギリギリでガードを間に合わせるイーサン。


なんとかガードは間に合ったが、反撃できるわけもなく、ずっと攻撃を受け続ける状態になってしまった。


(なんとか勝てる方法はないのか!?)


これが、イーサンとオスカーの二人の心境であった——。



***



 一方、こちらはルティア、アンドレア、シリル、クラークの四人。


勝負するのはグレイソンだ。と言っても、グレイソンに関しては周りをたくさんの人が守りを固めているため、直接攻撃をすることが出来ない状況だ。


「皇女様、どうしたい?」

「とりあえず、グレイソン様と話がしたいわ。だから、他の人たちを倒したい」

「了解した」


アンドレアは、ルティアの言葉に返事を返すと、真っ先にグレイソンの部下の元へと攻撃を開始する。


他のメンバーも、それに習って攻撃を開始。


しかし、人数は圧倒的にあちらの方が多く、すぐにはグレイソンの元に辿り着けそうもないのだった——。



つづく♪




〈次回予告〉

ル:ルティアです!

ア:アメリアです。

ル:だんだんクライマックスに近づいてきました! このお話も、後数話ですよ!

ア:ルティア様、私たち、今回の戦いも合わせて三回しか戦っていませんが、それで本当に終わるのですか……?

ル:そ、それは私に言われても分からないわよ。フリートークの部分以外は全て台本を読んでいるだけだもの。ほら、この三行目に書いてあるでしょ?

ア:……そうですね。ここに書いてあると言うことは、やはりちゃんと終わりますよね!

ル:えぇ、そうよ! それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ア:相手の作戦や強さに苦戦する私たち。これから先、どのように戦いが進んでいくのか!?

ル:第54話『サクセント、ツヨサ』

ル&ア:次回も、読んで下さい!

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