第52話 ナントシテデモ

「やっときたか」


相変わらず国境付近で仁王立ちをし続けているグレイソン。


やっと遠くに見えてきた王宮の方向からたくさんの人が向かってくるのを見つけると、ニタリと不気味な笑みを浮かべた。


(やっと戦いだ。これに勝てば、スピカ帝国を乗っ取ることが出来る。うちの領地を拡大し、いずれは我が王となるのだ!)


しかし、そんなグレイソンの心の中は知る由もないルティアたちは戦いに参加するべく、前へ前へと進んでいく。


アオイは相変わらずルティアの肩の上でルティアたちのサポートを担当している。


あるじ。先の戦いで疲れているのではないか?」

「大丈夫よ、アオイ。疲れているのは皆一緒だもの。馬車の中で一応睡眠を取ったし、きっと勝てるわ」


心配するアオイに対し、安心させようと優しげな笑みを浮かべるルティア。


その疲れを隠す微笑みにまだ納得が出来ないが、心配をしすぎてもよくないと分かっているアオイは、ルティアの言葉に小さく頷いた。


あるじは……。大丈夫だと言ったときはちゃんとやり遂げると知っている。……しばらく様子を見ておくか)


そう心の中で決めると、アオイは改めて戦いに集中する。真っ直ぐ前を見つめて、真剣な目をしている。


「じゃあ皆、気合い入れていくわよ!」

「「「「「「はい!!」」」」」」


気合いのこもった元気な声が戦場となるこの荒れ地に響き渡る。


「ルティア様。気をつけて下さいね。相手からの殺気が強いです」


ルティアの後ろから注意事項を伝えるエイダン。しかし、本心では「裏切りに気をつけろ」と挑発の意を述べたいのである。


もちろん、そんなことは知らないルティアは、純粋な瞳でエイダンの言葉に反応した。


「えぇ。ありがとうございます、エイダン団長」

「いえいえ」


シリル以上に自分の本心を笑顔で隠しているエイダン。


本当はいつもよりも笑ったときの黒目が大きくなっているのだが、いつもと同じように振る舞うためか、エイダンが変わったことに気づかない。


ルティアだけでなくイーサンたちも、戦い時の駆け引き等に詳しいはずのアンドレアたちまで気づかないほど完璧に隠しきっていた。


(さぁ……戦いの始まりです。私はいつあちらに行きましょうか……)


顔には笑顔を浮かべながら、思索にふけるエイダン。


その間にも、どんどんグレイソンのいるところへと近づいていっている。


「よし、そろそろだ。皆の者、かかれー!!」

「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」


グレイソンの声かけにより、グレイソンを守るように固まっていた部下たちが散り散りに駆けていく。


走るのは速いが攻撃力は弱い者、攻撃力は強いが俊敏に体を動かすのが出来ない者。


皆バラバラな性格だが、チームとしてはかなりよくまとまっている。


しかし、ルティアたちも負けてはいない。


「皆! 一人一人確実に狙っていけば部下の人たちは倒せるわ! だから、落ち着いて戦ってちょうだい!」

「了解です!」


ルティアの声かけに、その場にいた幹部たちを代表してイーサンが返事をする。


それをきっかけにルティアたちの動きは一人一人を狙っていく形に変わる。


まとまって行動してはいるのだが、攻撃は全員が担当しているようだ。


「てやっ!」

「はぁっ!!」


魔法による攻撃を繰り返したり、剣による攻撃をしたりと次々に敵をなぎ倒していくルティアたち。


エイダンも今だけは敵を倒すのを手伝ってくれている。


「皇女様。そろそろペースを上げようと思うが、ついてこれるか?」

「えぇ。大丈夫よ。他の皆も大丈夫?」

「「「「「「はい!!」」」」」」


しっかりと頷くイーサンたち。それを見ると、アンドレアはスピードを速めていく。


どんどん前へ敵を倒すルティアたちは、すごいスピードで走って行く。


やがて、グレイソンの元へと辿り着くことになった。


「思ったより早かったな」

「えぇ。急いで来ました」


ルティアたちを無視して、エイダンに視線を向けているグレイソン。


先程まで勢いがあったルティアたちは、グレイソンとエイダンが話をしていることに疑問を持ってしまったせいで勢いを失ってしまった。


「なぜ、エイダン団長がグレイソン様とお話をしているの? それに。思ったより早かったって、一体……?」


ルティアが質問を投げかける。それに対し、グレイソンは鼻で笑いながら答える。


「何って、エイダンは我の仲間だ。お前たちの元へ、スパイをしてもらっていたのだ」


その言葉に、驚いて体が固まってしまうルティアたち。


この先は、まだまだ前途多難なようであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

グ:グレンです。

マ:戦い続きで体力があまり持たないです……。

グ:マリア、元々体力ないもんな。走るのも遅いし。

マ:そ、それは言わない約束ですよ〜!? それに、戦いで疲れる要因をつくったのはグレンも原因の一人ですよ?

グ:ま、マリア……それは言うな。一応ルティア様の元に戻ってきただろう?

マ:それはそうですが、グレンへのお返しです。それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

グ:僕たちの仲間から敵に変わってしまったエイダン様。

マ:エイダン団長を失った私たちの負担は大きかったです。

グ:第53話『センリョクブソク』

マ:次回も、読んで下さいです〜♪

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