第51話 クロマク

「報告してきたぞ」

「ありがとう! アンドレアさん!」


アンドレアが隣の部屋から戻ってくると、ルティアは感謝の意を述べる。


「それで、私たちは戦いに備えるために一度王宮に戻りたいと思っているのだけれど、それでも良いかしら?」


ルティアは、アンドレアだけでなくシリルやクラークにも視線を向ける。


この話は、アンドレアが戻ってくる前に事前にルティアたち王宮側の人間で話し合っていたもので、イーサンたちからはすでに承諾済みだ。


「あぁ。戻った方が良い。皇女様は特に」

「私……?」

「そうだ。皇女様は王族だろう。しかも次期皇帝候補ときた。なかなか帰ってこなければ、城の者が心配する」


アンドレアは一度シリルとクラークに目を向け意思を確認すると、通信機を片しながら、口を開く。


シリルとクラークももちろん賛成の意を示している。


「じゃあ、一旦王宮に戻るわね。一応、説明のためにアンドレアさんたちにもついてきて欲しいのだけど……」

「あの、すみません。それって混乱を招くと思うのですが……」


アンドレアの後ろから顔を出して質問を投げるシリル。


必ず誰かが質問すると予想していたシリルの質問に関してはイーサンが答えるようだ。


「いや、それは大丈夫だ。戦いが終わったことは王宮にも伝わっているはずだし、俺やオスカーがいる。申し訳ないが、俺たちが後ろで見張っている体で入ることになる。しかし、この方法ならば入れるはずだ」


公爵令息という立場とルティアの護衛騎士という立場を利用した作戦らしい。


いざとなれば、ルティアの王族としての権力も使える。


「分かりました。その方法で行きましょう。そうと決まれば早く戻るべきです。すぐに出発準備をしますね」

「えぇ! ありがとう!」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」


アンドレア、シリル、クラークの三人は自分の机へと向かっていく。


そんな三人にルティアたちは、精一杯の礼を述べたのであった。



***



 こちらはレイラ王国の国境付近。ちょうど国境を守る村に調査にやってきていたグレイソンは、スピカ帝国との国境に仁王立ちで立っていた。


「グレイソン様。本当に、ここを戦場にするのですか? 国王陛下にも許可を取っていないのに」

「本当の本当にここを戦場にするのだ。良い感じの荒れ地だろう? それ以上言うと今回の役目はなしになるぞ」

「はっ。すみません!」


グレイソンの威嚇するような声に、ブルブル震えながらも頭を下げて去って行くグレイソンの部下。


一方、グレイソンの方は、スピカ帝国の帝都がある方向をジッと見つめ、その場を動く気配はない。


エイダンに関してはルティアたちと一緒にやってきて途中で裏切るフリをする予定なので、あまり心配をしていないのだが、いつ戦いになるのかは早く知りたいグレイソン。


ルティアたちが来る気配は全く無いのに、瞬きもほとんどしない様子に、部下たちは心底やばいと思い始めていた。


「ちょっと、誰か絶対声かけた方がいいって!」

「でも、誰が行くんだよ。お前が行くのか?」

「いや、でも、グレイソン様が風邪引いちまうだろ!」


現在は冬真っ只中。外でいつ来るかも分からない人を待つのが厳しいぐらいには寒い。


そんな中、防寒具を着ているとは言えど仁王立ちをし続けていては風邪を引くに決まっている。


部下たちは、それを心配しているのだ。


「何をつべこべ言っている! さっさと持ち場につかんかー!」

「「「は、はい!!」」」


身を震わせて元いた場所に戻っていく部下たち。


怒鳴りながらも常にスピカ帝国側の動きを確認しているグレイソン。それだけこの戦いに力を入れていることが分かる。


しかし、その戦いが始まるまで、実に一日かかることとなるのであった——。



***



 グレイソンが戦いの始まるのを心待ちにしている頃、ルティアたちはユニオンの拠点から王宮へと戻ってきていた。


しかし、何やら侍女や騎士たちが忙しそうにしており、アンドレアたちの存在にも気づいていない。


「……! ルティア殿下! よくぞお戻りになられました!」


執事長がルティアの元に緊迫した表情で駆け寄ってきた。


「どうしたの? そんなに急いで」

「大変な事が起こりました」

「大変な事……?」

「隣国の宰相、グレイソン様が国境付近で戦いを挑んでいます」


予想通りの展開に、真顔で執事長の言葉に頷くルティアたち。


「よし、準備をしたらその足で戦場に向かうわよ!」

「「「「「「はい!」」」」」」

「大変な戦いになりそうだ……」


ルティアのかけ声に元気よく返事をするイーサン、マリア、グレン、オスカー、アーサー、アメリアの六人。


そして、小さな声でこれからについてつぶやいたアンドレア。


この三十分後、ルティアたちは急いで王宮を出発していったのであった。



つづく♪




〈次回予告〉

オ:オスカーです。

ク:クラークだ。

オ:さて、今回も次回に引き続き『皇女サマ』の楽しい振り返りコーナーをやっていきますよ!

ク:? 次回予告ではないのか?

オ:次回予告もやりますが、その前に振り返りをするのです。

ク:……そうか。

オ:それでは、クラークさんの一番思い出に残っていることは?

ク:あぁ、初登場の時だな。あのシリルのせいで息苦しくなって、路地裏で倒れたんだ。そのとき、皇女様たちに会った。

オ:そうですか。さて、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ク:とうとう始まった、最終決戦。

オ:お互いの意地がぶつかり合います!

ク:第52話『ナントシテデモ』

オ&ク:おたのしみに!

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