第47話 ケッチャク
少し前までのアンドレアと同じく、殺気を身にまとっているシリル。
いつも笑顔で過ごしているシリルがそれだけの姿勢を見せたことに、アメリアたちは少し恐怖を覚えた。
「さぁ、いつでもかかってきてください。……必ず私が勝ちますから」
シリルは、殺気を放ったまま自信満々な態度を取っている。
そんな態度を見て、少し自信をなくし始めているアメリアたちだが、それでも戦う以外の選択は出来ない。
三人がかりでシリルを制圧することに決めた。
「皆様! 気合い入れていきますよ!」
「「はい!」」
アメリアとともに、マリアとアーサーの二人も一気にかけ出す。
最初にシリルと距離を縮めたのはアーサー。アーサーが駆けだした直後にシリルの剣と交わる音が戦場に鳴り響く。
「はぁぁっ!」
「まだまだ、それでは足りませんよ」
余裕で攻撃を剣で防御するシリル。アンドレアと同じくこちらも戦いに慣れているだけあって、動きがスムーズだ。
そういった違いから、一対一では勝てる気がしない。しかし、今のアメリアたちは三人いる。
「アメリア様!」
「はぁっ!!」
アーサーの頭上からアメリアが飛び出してくる。
シュン!
短剣が空気を切る音が鳴る。ギリギリのラインでよけているシリル。よけられたアメリア。
しかし、アメリアはすぐに自分の左斜め後ろに控えている人物に目を向ける。
「マリア様!」
「は、はい!」
名前を呼ばれたマリアは、両手でためていた魔力の塊をシリルに向けて投げた。
「マーレイ先生に教えてもらった魔法! なめないで下さいです!」
投げられた魔力の塊は、形を変え、光の矢のようなものになってシリルのいるところを目指していく。
「……っ!」
よけることの出来なかったシリル。瞬時に閉じた目を開けてみると、動けないよう魔法で地面に固定され、その上光のバンドが手の動きを食い止めてしまっていた。
「シリル様。俺たちの……勝ちで良いですか?」
アーサーはシリルの目の前に立つと、真っ直ぐに視線を向ける。
その視線があまりにも真っ直ぐで、シリルは一つの選択肢しか選べなくなってしまっていた。
「……そんな目を向けられてしまっては、頷くことしか出来ませんよ」
シリルからは殺気がなくなり、元の優しい笑顔を浮かべる人物に戻っていた。
そんなシリルの言葉に、アーサー、アメリア、マリアの三人は飛び上がって喜んだのであった。
***
イーサンとオスカーは、違う相手を相手にしているというのに二人で息ぴったりな戦いをしている。また、その上ほんの少しだけリードしつつもあった。
「くっそぉっ!」
そんな二人が面白くないグレン。大きな声で叫んでいる。
「隙が甘い! そんなことでは相手に一本取られるぞ!」
そう言いながら、微妙に外してあげているイーサン。その隙にチラッとオスカーを見る。
「クラークさん、今日はどうされたんですか? 以前戦った際よりも腕が落ちている気がするのですが?」
オスカーがクラークを煽りまくる。
一方のクラークは、煽られたことに対して言い返そうとするが、どうしても言い返すことが出来ない。
(いや……俺の腕が落ちているんじゃない。あいつの……オスカーの腕が上がっているんだ。あれじゃあ、俺は、俺らは勝てないじゃないか!)
心の中で苦し紛れに叫ぶクラーク。その変化にも気づいたオスカー。更に煽りを入れていく。
「どうされました? 言い返さないのですか?」
「……」
「あぁ、そうですか。それでは、とどめを刺させていただきます」
イーサンにも聞こえるように声を上げる。
その声でイーサンも本気を出したようだ。
「「はぁっ!」」
二人の声がシンクロしている。飛び上がり、すごいスピードで相手の肩に剣の柄をガッとぶつけた。
息を切らしているグレンとクラーク。二人は、負けたことのショックと肩に来た衝撃で膝から崩れていく。
ここでの結果も、一目瞭然。勝ったのは、イーサンとオスカーなのであった。
***
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
息切れしているルティアとアンドレア。お互い向かい合い、息を整える。
「魔力集中……。アオイ、あちらからの攻撃が来たら防御して」
「承知」
大型の魔法を使用する準備を始めるルティア。アオイもルティアのサポートへと回る。
一方、アンドレアの方も剣での戦いではなく、ルティアと同じく大型の魔法を使用する準備を始めていた。
(くそっ、剣では今の彼女の魔法に対抗できん。魔法に、ありったけの魔力を込める!)
しばらく沈黙の時がつづく。お互い、魔力を貯めているのだ。
五分ほどしてから、ルティアとアンドレアは大きくガッと目を見開いた。
「「シュート!!」」
杖を振り下ろし、雷と風の魔法を組み合わせた魔法『疾風迅雷』を発射するルティア。そして、アンドレアは魔法の媒体にもなっている剣を振り下ろす。
ドドーン!
大きな大きな音が響き渡り、ルティアとアンドレアの魔法がぶつかり合う。
微妙にルティアの魔法がアンドレアの魔法を侵食していく。
その侵食は、その状況は、最後の最後まで覆されなかった。
——勝者は、ルティアであった。
つづく♪
〈次回予告〉
マ:マリアです〜!
ア:アメリアです!
マ:とうとう戦いが終わったですね〜!
ア:えぇ。そうですね。無事に勝てて良かったです。
マ:それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?
ア:戦いが終わった私たちは、約束通りユニオンの皆様とお話を聞いていきます。
マ:そして、一通り聞き終わった我らがルティア様が起こした行動とは……?
ア:第48話『シンジツ』
マ:次回、とうとう第二章完結ですよ〜!
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