第46話 カツタメニ

「お、オスカー!」

「イーサン様。ルティア様が頑張っているのに死を覚悟するのはダメですよ?」


なぜこちらにいるのかと言いたげな顔をしているイーサンに向けて、オスカーは戦場での表情とは思えないほどに微笑む。


せっかくの攻撃のチャンスをオスカーによって無駄にされてしまったことに対し、クラークとグレンは舌打ちをした。


「良かったな。助けてくれる仲間がいて。だが、もうそんな奇跡は起きないぞ!」


クラークは高らかにイーサンへ声をかける。


イーサンとオスカーはお互いの背中をつけると、グレンとクラークにそれぞれが向き合う。


「イーサン様。クラーク様の方は僕が相手をしますので、イーサン様はグレン様を相手して下さい」

「了解した。しかし……アメリアたちはどうしている?」

「大丈夫です。マリア様の魔法とアメリア様、アーサー様の活躍でシリル様や他の皆様の動きを食い止められていますので」

「そうか」


二人は小声で情報を伝え合う。相手に作戦を伝え合っていることを悟られないよう、お互いの顔は見ていない。


イーサンの目線はグレンに、オスカーの目線はクラークへ、誰よりもすごい集中力で向けられている。


「グレン。俺が勝ったら色々答えてもらうぞ」

「良いですよ。イーサン様が、勝ったら……ね」


自信満々な笑みを浮かべているグレン。それに対するイーサンは、絶対に勝ってやるというように気合いを入れているようだ。


一方、オスカーの方は。


「お久しぶりです、クラーク様。こちらとしては、あまり戦いたくないのですが……」

「それでも、我々は戦いを止めるつもりはない」

「それでしたら、しょうがないですね。……戦いましょう」


オスカーは、クラークに話しかけている間の表情は普段と同じような表情に戻っていたのだが、最後の一言によりまた真剣なものへと切り替わる。


クラークも、それに合わせて緊迫した雰囲気の中、剣を構える。


「いくぞ!」

「はい!」


イーサンのかけ声により、グレンも立っていた場所から飛び出していく。


その攻撃から身を守ろうと、攻撃をかわす準備を始めるグレンとクラーク。


こうして、グレンとクラークの戦いも本格的に始まっていくこととなるのであった。



***



 こちらはルティアとアオイの二人ペア。


アンドレアとの語り合いはまだ終わっておらず、心の余裕が出てきたルティアと少し余裕がなくなってきたアンドレアという構造ができあがっていた。


「アンドレアさんが私たちに恨みを持っているということは分かったわ」


しばらく考え込んでいたルティアがついに口を開く。


それによって、同じく過去に思いを巡らせて考え込んでしまっていたアンドレアもハッと気がついた。


「……そうか」

「だけど、なぜ恨みを持つようになったのかが分からないの」


問われるだろうと覚悟していたアンドレアは、予想通りの反応に少々混乱気味。


予想をしていたとはいえ、出来ればこの話をするのは避けたいところだ。


「それはユニオンのメンバーと言えど、人それぞれで理由が違う。そう先程言ったはずだが?」

「いいえ。私はあなたの理由を聞きたいの」


ルティアの目は、いつになく真っ直ぐにアンドレアのことを捉えている。


「今すぐ教えてとは言わないわ。だけど、戦いに勝ったら、教えてもらっても良いかしら?」


ルティアにとって、これは勝つための作戦でもある。


(こうやって戦いに勝つ目的を増やしていけば、やる気の面でも勝てるようになるはず。勝つために、なんとか頑張らなくては)


やる気を出すための作戦。しかしそれは、他の面においてもルティアにとって良い影響を与えたようだ。


「戦いの後……か。それなら良いだろう」


出来ればちゃんと勝って話をしない方向で進めていきたいアンドレア。


そんな中、ルティアの提案にによって余裕がなくなってきたところにプレッシャーをかけられてしまった。


(必ず……勝たなくては。我々の悲願を達成するため、そして、我の過去をばらさないようにするため)


プレッシャーがかかったところで、改めて剣を構え直すアンドレア。


ルティアも魔法具を第二形態に戻し、杖を構える。


緊張感漂う中。このあとすぐに再びルティアとアンドレアの対立が始まったのであった。



***



「マリア様! あちらに攻撃をお願いします!」

「は、はい!」

「アーサー様も、頑張って下さい!」

「はい!」


こちらでは、アメリアがマリアとアーサーの指揮を執っている。


そんなアメリアによって健闘しており、もうすでにシリル以外のメンバーを倒すことに成功していた。


「あらら……。他の皆様は全滅してしまいました。幹部だけしか残っていないユニオンですか。まぁ、我々が勝てば良いんですけど」


辛い状況のはずなのに、その顔に笑みを浮かべているシリル。


「シリルさん! 覚悟して下さい。俺たち、強くなっているから」


三人で並び、シリルに向けて武器を構えるアメリアとアーサーに、魔法を使う準備をしているマリア。


「えぇ。強くなっていらっしゃるのは自覚しています。ですから、こちらも本気を出すのです」


その言葉の後には、シリルの雰囲気はすっかり変わってしまっており、笑みを浮かべたままなのに後ろには火が見えると錯覚するほどの全力に変わっているのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

イ:イーサンだ。

オ:オスカーです。

イ:次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

オ:戦いもとうとう終盤にさしかかっています。

イ:グレンと俺の戦いも、

オ:僕とクラーク様との戦いも、

イ:ルティア様とアンドレアの戦いも、

オ:マリア様とアメリア様、シリル様の戦いも、

イ&オ:決着がつくときとなるのです。

イ:第47話『ケッチャク』

オ:戦いを最後まで見届けてくださいますよう、お願い申し上げます。

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