第45話 リユウ

「……っ!」


アンドレアの殺気にだんだん遅れをとるようになってきているルティア。現在はアオイのサポートのおかげでなんとか逃げ切れている状況だ。


(体力が桁違いだわ……! 魔力は勝てても体力の点で負けてしまっていては私が勝つことはできないじゃない!)


ルティアは、ただ逃げるだけになってしまっている自分にいらだってきてしまっている。


なんとか打開する策を考えたいが、アンドレアの攻撃はやめることを知らないようで、全く攻撃が止む瞬間がない。


こうなったら仕方がない。温存しておきたい魔力も、ここで使うしかないのだろう。


「アオイ! 少しだけ相手を怯ませることってできる?」

「やればできると思うぞ?」


すました顔でアオイが言う。


アンドレアの攻撃を交わしながらのためルティアはアオイの表情を見ることはできないが、声から自信満々であることを悟り、その勢いでとあるお願いをする。


「じゃあ、合図するから、その時はよろしくね」

「承知した」


小声で伝えられたものに対し、アオイも小声で返事を返す。


それによって少し気が楽になったのか、ルティアの動きも少し軽くなった。


「はぁっ!」


すごい勢いでジャンプをすることにより、アンドレアの攻撃から少しだけ逃れるルティア。


「アオイ! 今よ!」


ルティアからの合図があり、アオイは間髪入れずにアンドレアの頭上に光の球を放つ。


飛んでいった弾は、目的の場所へとやってくると爆発するかのように光をアンドレアの目の前で飛ばした。


「……!?」


まぶしい光により目をやられてしまったのか、アンドレアは反動で後ろに一歩下がる。その上、目もつぶったままだ。


「アオイ! ナイスよ!」


そう言いながら、ルティアは手に持つ杖の先に魔力を集中させる。杖の中に魔力が蓄えられるようなイメージで。


しかし、その時間もすぐに終わってしまう。


「せっかく隙をつくったのに攻撃はなしか?」


殺気はそのままでその場に立ち止まったアンドレアは、ものすごく鋭い視線をルティアに向けている。


ルティアは、出来るだけ自分の作戦が相手に悟られないよう気をつけながら話を進めていくつもりのようだ。


「えぇ。前にも問うたことなのだけど、前回は回答を得られなかったから、改めて聞きたいことがあるの」

「改めて聞きたいこと……?」


アンドレアは、わざとらしく首をかしげてルティアを挑発する。しかし、さすがに挑発になれてきたルティアにとってはそんな挑発など気にならない。


「えぇ。あなたたちの、戦う理由を」

「……それはそちら側には関係ないと以前言ったはずだが?」

「だから、それでも、よ。あなたたちの戦う理由が分からなければ、私は本気で戦うことなんてできないわ」


ルティアの目はアンドレアにその言葉を本気で言っているということを訴えている。


以前より目力が強くなっているようで、今回のルティアの目つきはかなり迫力のあるものだ。


「……本気で戦えないなどと言われては、しょうがないな」


諦めたように一度ため息をつくアンドレア。


これを話す間は攻撃禁止だと示すように、アンドレアは地面に自分の剣を刺す。


ルティアもそれに習って杖の形である第二形態からブレスレットの形である第一形態に戻した。


「簡単なことだ。我々は貴族と皇族に恨みがある。人それぞれ恨んでいる内容は違うが、皆何らかの恨みがあり、国を変えていきたいと思っている。だから、戦いを選んだ」


アンドレアの声は、低くことの重さが伝わるようなものだが、表情は過去の出来事を悲しむような、そんな顔だ。


(あれは忘れもしない。しかし、今の皇女様に間接的とはいえ君の父上が私の両親を殺したなどと言えるだろうか)


敵であるルティアにさえも気を遣うアンドレアに、本当の理由を知って少し気持ちを整理することの出来たルティア。


この時点では、もう気持ちの面でも力の面でも互角と言えるほどになってしまったのだった——。



***



 イーサンたちの戦いもかなり勢いづいてきた頃。イーサンたちは、戦いに勝つことが出来るのか、だんだんと不安を募らせ始めていた。


(あの二人、ただ者ではないな。以前も戦ったが、あのときは一人ずつだった。それに、今はグレンまでもがユニオンに行ってしまっている。まずいかもしれない)


グレンと剣を交えながら、イーサンはこの戦いに対する危機感を覚えている。


グレンに関してはこちらの戦力でも普通に勝てるかもしれない。しかし、シリルとクラークがいる戦いではかなり戦力が足りない状況だ。


しかも、イーサンたちは人数でも負けているのだ。


(誰か応援を頼めないのか……? 騎士団の者たちはみな後始末の方へ言ってしまっている。今動けそうなのは……)


そうこう考えている間に、少し油断をしてしまっていたのかもしれない。


イーサンは気づかなかった。後ろから近づかんとする人物がいることに。


「成敗してくれる!」


グレンが剣を振るのと同時にクラークが飛びかかってくる。もう距離的に防御も間に合わないような位置にいるクラーク。


イーサンは、どうにか逃げようとするが、後ろにはシリルもいて引くことが出来ない。


そんな絶対絶命の危機が訪れ、イーサンは一瞬、死の覚悟をしてしまう。しかし。


カキン!!


いくら待っても痛みは襲ってこない。変化があったのは、すぐ近くで剣が交わる音。


目を開けてみると、イーサンへの攻撃を全て抑えている強力な助っ人が立っていた。


「お、オスカー!」

「イーサン様。ルティア様が頑張っているのに、死を覚悟するのはダメですよ」


オスカーは、イーサンに向けて戦場とは思えないような微笑みを浮かべた。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

ア:アメリアです。

マ&ア:次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

マ:とうとう自分たちの戦う理由を話したアンドレアさん。ルティア様との戦いも、もうすぐ決着がつきそうな感じです〜!

ア:一方、私たちの戦いはまだまだ続きます。さて、私たちは勝つことが出来るのでしょうか!?

マ:第46話『カツタメニ』

ア:グレン様も、こちらに戻ってきて下さると良いのですが……。

マ:大丈夫ですよ! きっとグレンは分かってくれるです! そう、きっと……。

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