第43話 カイワ

「ここら辺一帯の敵は全て倒せたみたいね」


ルティアが周りを見渡してから言葉を発する。隣にいるオスカーも、大きく頷き返した。


「そうですね。ここら辺一帯のことは我々騎士団にお任せください」

「えぇ、よろしくね。エイダン騎士団長」

「それでは、失礼致します」


違うところで敵を倒していたが、途中からルティアたちの助けに入ってきたエイダン。


ユニオン側の人間を捕まえるのを一任してもらうと、敬礼をして去っていく。


ルティアはその後ろ姿を見届けながらイーサンたちの方へ目を向けた。


「イーサンたちの方も、勝てそうね」

「そうですね。大分敵の人数も減ってきたようですし。後はまだ戦いを持ちかけてい来ていないユニオン幹部の皆様との戦いが残っていますので、まだ戦いは続きますが」

「えぇ。でも、あとちょっとよ」


オスカーに向けて少し安心したような微笑みを向けるルティア。オスカーもそれに微笑みを返す。


そうして、二人は再びイーサンたちの戦いを見るのに集中する。


しかし、戦場いくさばにおいて気を抜いたときにやってくるのは不意打ち。


しばらくしてルティアとオスカーは、後ろからすごい勢いで向かってくるものの気配を感じ取った。


「シールド!」


ルティアは勢いよく後ろを向くと、魔法具をつけている右手を斜め上へ向ける。シールドと叫ぶ声は、今までに無い緊張感に包まれている。


飛んできたのは、どうやら魔法でつくられた水の球のようであった。


「さすがは皇女様。優れた察知能力をお持ちのようだ」


茂みに隠れていたアンドレア。今回もあの余裕の笑みを浮かべながらルティアのことを褒めている。ただし、どこか皮肉めいた言い方で。


「その言い方だと褒めていただけているのか、けなされているのか分からないのだけど」

「どちらでも良い。皇女様の好きなように受け取ってくれ」


余裕そうな笑みを浮かべる中で目だけは笑っておらず、戦いで勝つことを目的としたより真剣な目でルティアたちを見つめている。


「どちらでも良いだなんて、あなたの真意はあなたじゃないと分からないじゃない」

「そうか? なら、褒めているものだと受け取ってくれ」

「分かったわ。それなら、あなたにお礼を言っておくわね」

「お礼などしなくて良い。何せ我らは皇女様の敵なのだから」


お互いの腹の内を探り合う状態が続く。しかし、その状態はアンドレアのある一言によって打ち消されることとなるのだ。


「それにしても、良いのか? 皇女様」

「何が?」

「皇女様の仲間が、苦戦しているようだが?」


その言葉を聞いた瞬間、ルティアとオスカーはイーサンたちへと目を向ける。


見ると、グレンにシリル、クラークの三人と倒しきれていなかったユニオンのメンバーが五人ほど、イーサンたちのことを取り囲もうとしているようだ。


「オスカー。私のことはいいから、イーサンたちの手伝いに行ってちょうだい」

「る、ルティア様!?」


ルティアの低く小さめな声による発言に驚いたオスカー。つい勢いでルティアの顔を見てしまう。


しかし、ルティアの顔は非常に真剣な表情だ。もちろんこの表情は、仲間を、自分の大切な人を守りたいという気持ちからのものである。


それをルティアの表情から悟ったオスカーは、考えを改め、ルティアの命令に頷いた。


「了解しました。ルティア様の守護は、アオイ様にお願いします」

「うむ。我の力の見せ所だ」


アオイもやっと自分の活躍出来る場が出来てうれしそう。


そんなアオイの様子に少し気を和ませてもらったオスカーは、ルティアに向けて一度微笑みを向けてからイーサンたちの助けに向かっていく。


剣を持ち、広場を駆けていくオスカーの背中は、「あなたなら勝てる」と伝えているようで、ルティアは少しうれしくなった。


「そろそろ準備はよろしいかな?」


最後の優しさからオスカーがあちらに向かうまでルティアのことを待ってあげていたアンドレア。


そのアンドレアの声によって再び戦いに意識を戻すことが出来たルティアは、改めてアンドレアとしっかり向き合う。


「えぇ。あなたのおかげでゆっくり時間を取ることが出来たわ」

「そうか。なら、遠慮はいらないな」


そう言うと、アンドレアは右手に持っていた剣を構える。


それに合わせて、ルティアも武器を出すことにしたようだ。


「第二形態、発動」


ルティアの右手に魔法具の第二形態である杖が現れる。そしてルティアは、その杖をしっかりと構えた。


「それでは、いくぞ!」


このアンドレアの元気の良いかけ声により、この二人の戦いが始まったのであった。



つづく♪




〈次回予告〉

エ:皆さま、お久しぶりです。エイダンです。

オ:オスカーです。

エ:第二章が始まってからというもの、なかなか出る機会がなかった上に久しぶりに出ることができたと思ったらあまり出番がなく、しかももうすぐで二章が終わりに近づいていると!? はぁ、どうやら私はあまり運がないようです。

オ:え、エイダン団長……?

エ:おっと、失礼。さて、次回の『皇女さまの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

オ:戦いもいよいよ終盤。それぞれの思いがぶつかりあいます!

エ:第42話『カンジョウ』

オ:では、エイダン団長。ここで言いたいことがあったら言ってください。

エ:……出番が欲し

オ:エイダン団長?

エ:皆さま、ルティア様の戦いを最後まで見てください!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る