第40話 イクサバ

 ルティアたちとアンドレアたちがそれぞれにらみ合い、非常に静かで緊張感の高まっていく時間が続いていた。


ルティアたちの後ろには、応援を頼まれた騎士団の者たちがずらりと並んで立っている。


そんな中、グレンはギリギリまでルティアたちにバレないよう、アンドレアの後ろに隠れていた。


「お久しぶりね、ユニオンの皆さん。こんなところに陣を構えて、どうするつもりなの?」


主にアンドレアのことを睨みつけながら、ルティアはしっかりとした態度で問いかける。


それに対してアンドレアの方は、後ろにいるグレンのことがバレないよう気を遣いながらも相変わらずの自信満々な態度でルティアのことを見つめていた。


「そちらが聞いた通りのことだ。我々は、宣戦布告ののちにここに陣を構え、そちら側の人間と戦うためにここにいる」


あまりにも自信があるように見えすぎるアンドレアのこの態度は、ルティアたちに何か裏があるのではないかと思わせてしまう。


ルティアはアンドレアの行動に注目しながらも態度はそのままで問いかける。


「では、なぜそんなことをするの? 戦わなくても良いかもしれないじゃない」

「……そんなこと、以前も聞かれたな」


一瞬、声色こわいろが変化するアンドレア。


以前、とはルティアたちと初めて対峙することになったあの戦いのときのことだろう。


ルティアの発言によってさすがに自信満々な態度をとり続けていることが出来なくなったのか、アンドレアの顔はスッと真顔に戻る。


「以前も言ったが、我々はお前たちに教えるつもりはない。貴族様など、我々からすれば嫌いな相手でしかないのだ」


こうやって突き放されても、引き下がるわけにはいかないルティア。


イーサンたちの見守りの中、アンドレアに話を持ちかけていく。


「……で、でも、私たちは戦いたいんじゃなくて」

「うるさい! 戦いたくなくても、戦わなければいけない場はある!」


ルティアの話を遮るように若い男性の声が響き渡る。声がしたのは、アンドレアたちの方向。


ルティアたち、その中でも特にイーサンとマリアがその声に反応する。


((((((聞いたことのある声))))))


アンドレアたちをにらみつけるのは止めずに、キョロキョロと辺りを見回すルティアたち。


すると、注意深くユニオン側を見つめていたイーサンが、とうとうその声の主を見つけたようだ。


「……グレン」


特に驚いた様子もなく、ただ相手の名を呼ぶだけのイーサン。あの休暇の際にグレンと会い、今は仲間ではないと聞かされていたからであろう。


しかし、そんなことを知らないルティア、アメリア、マリア、オスカー、アーサーの五人はイーサンの言葉に過剰に反応する。


「え!? グレン!? こ、ここにはいないはずじゃ……」

「そうです! 私たちのところから逃げて行ってしまったのに、何でここにいるですか!」


信じられないルティアとマリア。ついつい声を上げてしまう。


一方、もう少し隠して置いて中盤でグレンがユニオン側の一員となっていることを公表し、戦況を有利に進めようとしていたアンドレア。


しかし、もう我慢が出来なくなってしまったグレンにより存在がバレそうになっていることに正直頭を抱えたい思いでいた。


「グレン、お前何やってんだ」


グレンの斜め前に立っていたクラークが小さめでかつ低めの声でグレンをにらむ。


その言葉によってハッとしたグレンは、決まりが悪そうに首をすくめた。


「はぁ、しょうがない。ここでグレンを出そう」


もう隠しきれないと悟ったアンドレアは、グレンにアンドレアたち三人の前に出るよう命令をする。


自分の失敗で作戦を変更させることになってしまったグレンは、おとなしくアンドレアの命令に従った。


それでも十分衝撃を与えられているようで。


「ぐ、グレン!?」

「本当にいたです!?」

「いつの間にユニオンに……」


ルティア、マリア、オスカーの三人が口々に言う。


ここで再び、アンドレアの不気味な微笑みが登場した。


「よし、皆の者! かかれー!」

「「「「「「「「「「うおー!」」」」」」」」」」


すごい勢いで攻めてくるアンドレアの手下たち。それに対抗しようと、ルティアの仲間としてその場にいる騎士団のメンバーも前に出ると剣を構える。


それを見たルティアは、やはり悲しい気持ちになったようだ。


「どうして? なぜ戦わなければならないのかしら。人間はなぜ殺し合わなくてはいけないの?」


だいぶ感情を抑えられなくなっているルティアのことを肩の上に乗りつつ見守っていたアオイ。


ルティアを正気に戻すため、ルティアの顔の目の前に飛んでくる。


「仕方の無いことだ。主の気持ちはよく分かるが、ここで気を乱してはこちら側にいらぬ怪我をする者が出るぞ」

「で、でも……!」

あるじ、ここは戦場いくさばだ。気を引き締めよ」


アオイも声を張り上げて説得する。


その言葉によって少し落ち着いたルティア。アオイの言葉に頷く。


「そうね。今はこの戦いに集中するわ」


こうして、戦いは本格的に進んでいくこととなるのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

ル:ルティアです!

ア:アーサーです。

ル:アーサーは、この戦いの行方はどうなると思う?

ア:……今はなんとも言えません。ぐ、グレン様が、あちら側にいるということは、こちらの情報も流れている、可能性がありますから、こちら側が不利かもしれませんね。

ル:そうね。参考になったわ。それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ア:まだ始まったばかりの戦いの熱が、更に上昇していきます。

ル:第41話『クノウ』

ル&ア:次回も、お楽しみに。

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