第39話 カオアワセ
「ユニオンからの、宣戦布告……?」
「はい」
念のため確認をしておこうとルティアが発した言葉に、侍女は大きく、そしてゆっくりと頷く。
その侍女の行動により、ルティアたちの表情は真剣さと緊張を帯びたものとなった。
「今分かっていることを、全て話してちょうだい」
「は、はい! 分かりました」
宣戦布告に怯えて少し曲がってしまっていた背筋がピンと伸びる。侍女も、ルティアの雰囲気につられて意識が変わったようだ。
「ユニオンは現在帝都の大通りにある広場にて陣を構えています。
広場にいた民間人は全員避難しているので怪我人はいませんが、ユニオンは広場からこちらに攻め込む機会をうかがっているようです」
「……それだと、あまりゆっくりしている暇はないわね」
難しい顔をしながら腕組みを始めるルティア。いつもよりも重要な話題だったため、イーサンたちは作業を止めてルティアの周りに集まってくる。
情報を伝えに来た侍女の方も、いつの間にかこの話し合いに和んでしまっていた。
「ルティア様、どうしますか?」
「……そうね。帝都は戦場にしたくなかったのだけれど、致し方ないかもしれないわ」
この宣戦布告に応じてユニオンの元へ向かうか否かでルティアは悩む。
「そうですね。ユニオン側が何をするかも分かりませんし」
「騎士団の方々に応援を頼みましょうか?」
ルティアが決断しやすくなるよう、オスカーやアメリアも話に参加する。
それらを聞いて、ルティアは小刻みに頷きながら言葉を発した。
「えぇ。アメリア、騎士団の応援をお願いするわ。私たちも出撃しましょう」
「「「「「はい!」」」」」
ルティアの真剣な目に、他の五人も真剣なまなざしとはっきりとした返事を返す。
そんな五人を見た後、ルティアはアオイへと目線を向ける。
「アオイもついてきてくれる?」
「あぁ。主の助けになるぞ」
快く引き受けるアオイ。自分の主に頼まれて誇らしげにしているようにも見える。
そんな可愛らしいアオイの姿を見てルティアは小さく微笑むと、すぐさま真剣な表情に変わる。
「さぁ、行くわよ!」
「「「「「はい!!」」」」」
ルティアたちは、執務室のドアから一列に並んで勇ましく出て行く。
それと同時に、ルティアのかけ声とそのかけ声に対する返事が、スピカ帝国の王宮内に響き渡ったのであった——。
***
ここは、帝都の大通りにある広場。現在はユニオンのメンバーがずらりと並んで陣を取っており、ルティアたち王宮側の人物がやってくるのを待っていた。
「果たして、ちゃんとやってきますかね。ルティア皇女殿下たちは」
ユニオン側に入ったグレンは、この戦いの場にも呼ばれた上、アンドレアを含めた重要人物五人の中に含まれている。
ルティアたちがやってくるのを待つ間、グレンはアンドレアの隣で大通りの方向を見つめていた。
「いや、絶対に来る。前回の挑発にも来ていたしな」
自信満々に言うアンドレア。仁王立ちの格好で腰に剣を携えている。
その言葉に、グレンとアンドレアを挟むようにして立っているシリルとクラークがこれまた自信ありげに頷く。
「アンドレア様の発言って、かなり当たるんですよ」
「長年の経験上から言っている。それに、お前の仲間だった奴らだろう。少し考えれば分かるのではないか?」
クラークの方は、グレンをにらむようにして話をしている。
少しの間一緒にいるとはいえ、まだまだ微妙にグレンのことを信じることが出来ないようだ。
「まぁ、気長に待とう。例え来なかったとしても、こちら側から出向けば良いだけの話だ」
「そうですよ。グレンさん、緊張しているかもしれませんが、大丈夫です」
「……あぁ、そうだ。一応はユニオンの一員なんだ。ドンと構えておけ」
アンドレア、シリルに続いてクラークも口を開く。にらみながらも一応は気にかけてやっているらしい。
「……分かりました」
グレンは三人の言葉に頷くと、再び大通りの観察に戻っていった。
と、そのとき——!
「やってきたわよ! ユニオンの皆さん!」
「やっとか。皇女様」
全員が息切れした状態で広場に駆け込んでくるルティアたち。
そんな六人(と一匹)を見て、不気味な雰囲気でにやりと微笑んだアンドレア。
これが、ルティア率いる王宮側の人間と、アンドレア率いるユニオン側の人間が再び顔を合わせることになった瞬間であった。
つづく♪
〈次回予告〉
ア:アンドレアだ。
シ:シリルです。
ク:クラークだ。
ア:次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は?
シ:とうとう二度目の戦いが、幕を開けました。緊張感漂う戦場で起こることとは!?
ク:第40話『イクサバ』
ア:久しぶりの次回予告はどうだ? シリル、クラーク。
シ:知らぬ間に話数が増えていて驚いています。
ク:ユニオンの活躍も、たくさん伝えられる場が欲しい……。
ア:と、いうことだ。我々の活躍を、期待していてくれ。
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