第36話 アオイトリ

 グレンとの思い出を語っていたマリアと、それを聞いていたアーサーの二人組は、話の内容が少し重たいものだったこともあり、場の空気が重くなってしまっていた。


しばらくの間、沈黙がつづく。しかし、ふと何かを思ったのかマリアが慌てた様子で口を開いた。


「あ、でも、次期宰相候補に選ばれたときとか、ルティア様に仲間協力者として認められたときはものすごく喜んでいたです。やっと俺の努力が認められたって言っていたですよ」


一瞬だけだったが、うれしそうな微笑みを浮かべたマリア。しかし、その笑顔もすぐに元の表情に戻ってしまう。


「だから、私はわからないです。グレンがここを出ていってしまった理由なんて。仲良くしていたつもりでも、ホントは仲良くなかったかもしれないですね」


悲しそうな表情の中、マリアは無理矢理笑顔を浮かべる。


それを見ていてアーサーも辛くなったのか、マリアに数歩近づき方を軽く叩いた。


「グレン様は、大丈夫だと、思う」

「なんでです?」


アーサーの顔を目を丸くして見上げているマリア。そんなマリアの表情を見たアーサーも、小さく微笑みを浮かべた。


「俺も……姉様たちから無口で無能だと、いい顔をされていなかった。けど、ルティア様のところにいたら、そんなこと忘れるくらい楽しい」


空気感の悪さは相変わらず変わらないが、雰囲気だけでも明るくしようと笑顔で語るアーサー。


それを聞いているマリアは、目を丸くしたまま動かない。


「グレン様はそれを分かった上でいなくなっているのだと思う。だから、いつか必ず戻ってくる。……そんな気がする」

「アーサー様……」


アーサーの言葉に少し自信を取り戻したマリアは、ソファから立ち上がると笑顔を浮かべる。


「そうですね。アーサー様の言うとおりです! 私たちは、グレンが帰ってくるのを、笑顔で待っているのがベストですね!」

「はい! そうですよ、マリア様」


マリアとアーサーの二人は、お互いの顔を見合っては笑顔で向かい合う。もう悩みの表情は浮かべていない。


これでやっと作業に戻る雰囲気になったため、二人は、書類作業へと戻っていったのであった。



***



「青い鳥……ですか?」

「うん。そうみたい。この子、怪我をしているからなのか呼吸が辛そうなの」


こちらはルティアたち町への視察隊。ルティアは青い小鳥を手のひらにのせたまま会話を続けている。


「とにかく、怪我の手当てをしてあげましょうか。私、道具を借りてきますね」

「え、えぇ。お願い、アメリア」

「はい!」


周囲の道具を借りれそうなお店へと駆けていくアメリア。すぐ近くのお店では借りることが出来なかったようで、戻ってくるのに十分ほどかかってしまった。


戻ってきたアメリアは、右手に道具箱を持って息切れをしていた。


「ルティア様、借りてきましたよ」

「ありがとう。早めに手当てをしちゃうわね」

「はい、お願いします」


アメリアの手から道具箱を受け取るルティア。そして、その箱を地面に置くと蓋を開ける。


中には、筒に巻かれた二本の包帯と、いくつかの塗り薬や飲み薬、それから包帯を切るためのはさみなどが入っていた。


「えっと、このお薬を塗って包帯をしてあげれば良いかしら?」

「はい、それで大丈夫だと思います」


後ろから見守っていたオスカーが頷きながら答える。


騎士団の訓練で怪我したときなどに手当てをしているからか、手当てについてはアメリアよりも詳しいのだ。


「じゃあ、傷口に塗るわよ」


指で薬をとって鳥の腹部につけてやるルティア。その際薬がしみたのか足が一瞬だけ動いた。


「よし、後は軽く包帯を巻いて……」


ルティアは、包帯を巻き終わると苦しくないように緩くリボン結びをして手当てを終える。


作業が終わると、ルティアはふうっと息を吐いた。


「これで良し」


少しは命を助けるお手伝いが出来たような気がしてうれしくなったルティアは、笑顔でつぶやいた。


そして、使った道具をまた箱の中に戻すと、再びアメリアに手渡す。


「それでは、貸して下さった方に返して来ますね。その間に、この子をこれからどうするか、話し合っていて下さい」


そう言い残して、アメリアは再び駆けていく。


アメリアの姿が見えなくなると、三人は同時に顔を見合わせた。


「あの、私はこの子の怪我が治るまで一緒にいてあげたいから、お城に連れて帰りたいのだけど、いい?」


二人の顔を除きながらゆっくりと発言していくルティア。そんな様子がかわいいと感じてしまった二人は、もうダメだと言えない状態になってしまった。


「俺は良いと思いますよ。姫様のやりたいようにやって下さい」

「僕もイーサン様と同意見です。とりあえず、お城に連れて帰ることにしましょう」


そんな二人の言葉を聞いて、表情が今までのものの中で一番明るくなったルティア。


こうして、ルティアたちは青い小鳥を連れて城へと戻ることになったのであった。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

ア:アーサーです。

マ:前回、ほとんど次回予告をしていなかったイーサン様とオスカー様はルティア様に怒られていたですから、私たちはちゃんとやるですよ!

ア:そうですね。

マ:ということで、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ア:青い鳥の怪我を治してあげるべく、世話を続けていたルティア様。

マ:とうとう、その努力が実って鳥さんが目を覚ますです!

ア:第37話『ケイヤク』

マ&ア:皆さん、見てくださいね〜!

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