第35話 シアワセノアオイイロ

「あの、マリア様。作業中申し訳ないんだけど、一つ、質問してもいい?」


こちらはマリアとアーサーの二人組が担当している、書類での調査組。レイラ王国の一件で気になったユニオンの外国とのつながりについてを調べている。


ソファのあるテーブルの上にたくさんの書類を並べながら、二人は作業を続けていたのだが、アーサーの一言によって二人とも作業の手が止まった。


「なんです? アーサー様?」


ちょうどテーブルを挟んでアーサーの反対側に立っていたマリアは、顔を前に向けると無邪気に問いかける。


そんなマリア独特の丸いキラキラした目を見てこの質問を本当にすべきなのかまた悩み始めたアーサーだが、やっぱり聞いてみたい気持ちには抗えない。


一息吸ってから、質問を始める。


「マリア様は、グレン様のことを学園にいたときから知っているんですよね」

「そうです。一緒に勉強しに行ったりもしていたですよ! グレンがわからないところを教えてあげてたです!」


懐かしそうに学園時代の思い出を語るマリア。アーサーもその表情や語りに頷きながらも話を進める。


「それで、グレン様の過去についてと、マリア様の過去について、少しお聞かせ願えたらと、思うんですけど……」


気まずそうなアーサー。やはり急に聞くのはよくなかったかなと、ちょっとだけ後悔しているのだ。


「私はいいですけど……グレンはともかく、私は話すことなんてないですよ?」

「些細なことでいいんです。マリア様とグレン様で話していたことを聞いたら、グレン様が出ていってしまった理由も、わかるような気がしたので」


アーサーの目には、グレンのことを仲間だと信じる強い気持ちがこもっているのが分かる。


そんな彼の目を無下にすることは出来ないマリアは、小さく微笑むと落ち着いた様子でソファに座った。


「私もたくさんは話せないです。でも、グレンのお家は兄弟が多かったから、よく比べられてはけなされていたです。だからグレンは、見返してやるんだって、いつも息巻いてました」


ゆったりとした口調で、孫に向けて自分の若かった頃の話をするお婆さんのように、話を始めるマリア。


懐かしい思い出を語る、優しい口調のはずなのになぜだかグレンが出ていったことへの疑問も含まれているような気がするアーサー。


しかし、マリアはそんなこと気にしない。そのまま話を進めていく。


「私は、両親にたくさん愛されて育ったので、グレンの気持ちはあまり理解してあげられないです。けど、一緒にいる間は仲良くしようと思っていたです」


マリアは、優しさと少しの後悔が混じった笑みを浮かべる。


その笑顔を見てしまったアーサーは、何を言ったら良いのかがよくわからなくなってしまったのであった。



***



 そしてこちらはルティア、イーサン、アメリア、オスカーの四人組で町への視察隊。もっと多くのユニオンの目撃情報入手のため、町に出てきている。


「すみません、ちょっとお時間良いですか?」

「あ、はい。大丈夫ですよ」


通りかかった女性に声をかけると、振り向いて返事をしてくれた上に質問にも応じてくれるらしい。


ルティアたちはほっと胸を撫で下ろすと女性にしっかりと向き合う。


「私たち、反社会的組織のユニオンの情報を集めているんです。何か知っていることがあれば、教えていただきたいんですけど、何かありますか?」

「ユニオンの情報ですか……何かあったかな」


腕を組んで考え始める女性。知っているという声を上げることを期待するルティアたち。


しかし、現実は甘くない。


「考えてみましたが、反社会的組織でよく商店街などの公共機関で事件を起こしていること以外には、何もわかりません。お役に立てず、申し訳ないです」


頭を下げる女性。ルティアは慌てて女性に近寄る。


「あ、ぜんぜん大丈夫ですので、顔をあげてください。こちらこそ、急な質問に応じてくださり、ありがとうございました」


笑顔で気持ちを伝えると、女性も納得したようだ。女性は気掛かりな表情のまま一礼して去っていった。


「やっぱり、なかなか情報は集まらないですね。もう一時間も調査を続けているのに」

「そうですね。現実は厳しいです」


オスカーとアメリアの二人が女性の後ろ姿を見つめながらポツリとつぶやく。ルティアとイーサンも曇った表情で、二人の言葉に頷いた。


「もう少し人通りの多い場所にいきましょうか。そうしたら、何か知っている人が現れるかもしれないわ」


そう言って、ルティアは再び歩き始める。他の三人も、そんなルティアの後ろからゆっくりと歩いてついてきた。


しばらく歩いていると、自分たちが歩いている道のわきに路地裏のような場所があることに気づく。


普段であれば気にならないはずなのだが、疲れていたのかルティアは珍しくその路地裏に目を向けていた。


「……あ」

「ルティア様!?」


小さな声で呟くルティア。何かを見つけたのか、危険性を考えずに路地裏へと近寄っていく。


それを止めようとアメリアが声をかけるが、聞こえていないようだ。


「ねぇ、みんな。この子、怪我しているわ」

「「「「え?」」」


ルティアは座り込むと、路地裏のど真ん中にいた“何か”を掬い上げる。それと同時に発した言葉に反応して集まってきたのはイーサンたち。


三人が覗き込んだ先、ルティアの手のひらの上には青い小さな小鳥が腹部に怪我をかかえた状態で寝ていたのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

イ:イーサンだ。

オ:オスカーです。

イ:あの鳥……一体、何者なんだ?

オ:さぁ? 少なくとも、僕は見たことがないです。

イ:やっぱり。青い色の鳥なんて、いたら話題に上る。

オ:まぁ、「幸せの青い鳥」と言いますから、害はないですよ。

イ:よ、予告で……サブタイトルの回収をしている……だと? オスカー、こんなので大丈夫か?

オ:大丈夫ですよ。それでは、次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は?

イ:第36話『アオイトリ』 姫様の応援を、よろしくお願いします。

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