第34話 カクニン

 レイラ王国でのパーティーから数日が経ち、現在は拾壱月。


ルティアたちが自国に帰ってきて心が落ち着いてきた頃、ユニオンの方でも何かが始まろうとしていた。


「それで、今回はどのようなご用件ですか? そちらはブラックのリーダーともあろうお方。その上に国の重要な役職についていると記憶していますが」


アンドレアは自分の机に座り、通話機で電話をしているようだ。口調からして、相手はアンドレアよりも立場が上の者であると予想ができる。


ちなみに、この通話機は数年前からスピカ帝国で出回り始めた魔力を使って遠方にいるものと通話ができる、魔法具を応用して作られたものだ。


『ははは……今回はどうもしないよ。そちらの判断材料になるかと思ってね、情報の提供をしようと思ったんだ』

「情報の……提供ですか?」

『そうだ』


通話機の反対側、アンドレアが話している相手の比較的朗らかな声が聞こえてくる。


一方で、アンドレアの方は少し緊張している様子。あれだけ自身と威厳のあったアンドレアを緊張させてしまうほど影響力のある人物なのだろうか。


「それで、何の情報なんですか? おいしいホタテの食べ方、とかだったらもう二度と協力しませんよ?」

『そんなこと言わないよ。この情報は、君たちにとって有益なものだ。我々が追っている、スピカ帝国の情報を……ね』

「あぁ、それは確かに有益な情報ですね。ぜひ、聞かせてください」


アンドレアの表情がスッと変わり、いつもの真面目な表情になる。重要な話であると理解したからなのか、緊張も取れてきたようだ。


そのあともアンドレアはしばらく通話を続けていた。何でもかなり大事な情報だったようで、メモ帳にも写していたほど。


ルティアたちがこの事件を解決できるのは、まだまだ先のことのようであった――。



***



 アンドレアが通話をしていた日から三日ほどが経った頃、ルティアたちは新たに行動を開始しようとしていた。


「それじゃあ、私とイーサン、アメリアにオスカーで視察に、マリアとアーサーの二人で書類の調査を担当してもらうのでいいかしら」


ルティアがソファに座る他の五人に書類を渡しながら問いかける。書類には、それぞれの役割分担とやることの詳細が書かれているようだ。


そこで書類とルティアの言葉にふと思うことがあったオスカー。書類から顔を上げると、さっと手を挙げる。


「あ、オスカー、何かあった?」

「いえ、ちょっとした質問なのですが、なぜ視察に出る人数の方が多いのですか?」


ルティアに全員の視線が移る。オスカーの質問の内容に、気まずそうに目をキョロキョロさせているルティア。


「それは、え、えーっと……」

「どうされましたか? 姫様」


いつもと違って様子がおかしいルティアを心配したイーサンは、ルティアの顔を覗き込むと真剣な表情で話しかける。


「えーっと……ね、ほら、グレンが襲われてことがあったでしょう? お父様がそのことの報告の書類を覚えていたみたいで」

「もしかして、それで私やオスカー様、イーサン様をつけなくてはならないと言われたのですか?」


まだ目を逸らしつつも、ゆっくり、そして大きく首を縦に振るルティア。


その途端、ルティアのことを小さいときからよく知っているイーサン、アメリア、オスカーの三人に共通の衝撃が走った。


「グランツ様、ルティア様が大きくなられても親バカはお変わりないみたいですね」

「陛下もお考えがあってのことだと、分かってはいるんだがな」

「皇后陛下がいらっしゃったときはもう少しマイルドだったんですけどね。護衛騎士である僕がついていくのは分かりますが、イーサン様のことまで巻き込むとは……」


円の内側を向くように向かい合うと、前々から思っていたことを小声で話す三人。


そんな内緒話が始まってしまっては場の空気が悪くなると考えたのか、マリアとアーサーは慌て始める。


ルティアが介入しようと思う間もなく、マリアとアーサーの二人が一歩前に出た。


「あ、私たちは二人でも全然大丈夫なのですよ! 二人で調べ物と情報の整理、やっておくです! ね、アーサー様」

「そ、そうです。むしろ聞き込みの方が大変なんだから、皆様は聞き込みにまわってください」


それによって二人の思惑通り内緒話は収まったようだ。しかし、ルティアは二人に近づくと、それぞれの手をぎゅっと握っている。


「る、ルティア様!?」

「二人に結構負担がかかっちゃうけど、それでも大丈夫?」


純粋に心配の目を向けているルティア。驚きの色を隠せていなかった二人は、ルティアの目を見た途端に真剣さを取り戻したよう。力強く頷く。


「分かった。それでは、この計画のまま進めるわよ。各自、やることは書類を見てよく確認しておくこと! いいわね?」

「「「「「はい!!」」」」」


ルティアのハキハキとした掛け声と共にイーサンたちの威勢の良い声が王宮に響き渡る。


 こうして、ルティアたちは新たに行動を開始したのであった。



つづく♪




〈次回予告〉

ル:ルティアです!

マ:マリアです〜!

ル:せーの、

ル&マ:次回の、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ル:目撃情報を求めて再び街へ向かった私たちと、

マ:ルティア様の執務室で静かに書類を調べる私たちの、それぞれの様子が描かれているですよ〜!

ル:あ、私たちのところ、ちょっとだけ特別なことが起こるみたいよ。

マ:楽しみです!

ル:第35話『シアワセノアオイイロ』

マ:なんだか、他にも何かが起こる気がします〜!

ル:もしかして、マリアのところもいいことが起こるのかしら? 楽しみね!

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