第33話 ケイカイ

「お初にお目にかかります、ルティア様。今日はお越し下さりありがとうございます」


男性にしては小さめの身長で小太りしている人から声をかけられたルティア。


彼は、今日ここに集まっている人の中でも高価そうな服を着ている。


また、「今日はお越し下さりありがとうございます」と言っていることから、レイラ王国に住む者であり国の重鎮の者だと分かる。


「あ、初めまして。えっと……」

「すみません。自己紹介がまだでしたね。私は、グレイソン・バートです。現在はレイラ王国宰相の任に就かせていただいています。以後、お見知り置きを」


グレイソンは、ルティアに軽く笑顔を向けてからお辞儀をする。


そのグレイソンの挨拶を見ると、ルティアは慌ててお辞儀を返した。慌てていたので、きちんとした笑顔にはなっていない。


「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いします、グレイソン様」

「ルティア様は、今日のパーテイーを楽しめていますか?」

「はい、とても。素敵な催し物だったので、ついついはしゃいでしまいました」


照れくさそうに苦笑いを浮かべるルティア。


先程まで慌てていた心もやっと落ち着いてきたのだろうか。苦笑いの後、余裕が見える顔つきに戻った。


グレイソンの方も、うれしそうに笑みをこぼす。


「それは良かった。こちらとしてもうれしいです。国王陛下にもお伝えしておきますね」


目は細めずに笑顔を浮かべているグレイソン。その表情からは、どこか含みがあるようにも感じられる。


ルティアは、何か他に隠していることがないか疑いつつも話を進めた。もちろん、そのことは顔に出さないようにしながら。


「はい、ありがとうございます」

「ところでルティア様、普段はどんな公務を行っているのですか?」


いきなり脈略のなく話が飛んだことに何の意味があるのかよく分からないながらも差し障りのないことを伝えようと頭に思考を巡らせるルティア。


後ろへ意識を向けると、アメリアが相手への警戒をより強めたのが分かる。


「想像しているものと同じだと思いますよ。私でも出来るような父の仕事を手伝う、などですね。後は、参加した方が良い舞踏会やパーティーに参加もしています」

「そうですか……。分かりました。答えて下さりありがとうございます、ルティア様」


やはり話を進めていてもこの質問の意図が分からない。


ルティアは、他の国の王族もやっているようなことを返答しておいて良かったと改めて思った。


しかし、問題だったのはこの次の発言だったのだ。


「ルティア様の公務の量は少ないのですね。それか、他に大きな仕事を抱えているのを隠している、か」


その言葉を聞いてルティアとアメリアはビクッとする。言葉を発した当の本人は何かを企んでいるかのような、不気味な笑顔を浮かべていた。


少しでも誤魔化すために、アメリアは警戒を怠らない。


「それ以上我々について問うのは無礼に当たりますよ。我々がその質問に答える必要は無いはずです。それとも、今この場で訴えられたいのですか?」


厳しい目つきで見下すようにグレイソンをにらみつけるアメリア。


そんな怖い目つきを見てさすがに気が引けたのか、グレイソンは両手を出して横に振る。


「あぁ、いえいえ。そんなつもりは。訴えられたいだなんて、滅相もない。

しかし、これ以上私がここにいるとまた無礼を働いてしまいそうですね。私はここらで退散するといたしましょう。それでは、失礼いたします」


そう言ったグレイソンは、軽く一礼をするとそそくさとその場を去って行く。


ルティアとアメリアは、ぼーっとしたまま取り残されてしまったようだ。


「すみません、ルティア様。私、ついカッとなってしまって……。面目ないです」

「いいのよ。あそこでアメリアが言ってくれなかったら今頃余計なことを話してしまっていた可能性があるのだし。むしろありがたいわ。ありがとう、アメリア」


ルティアは申し訳なさそうにしているアメリアに笑顔を向ける。


それを受けて少しだけ安心感を得ることの出来たアメリア。不安と安心の二つの感情が混じった笑顔で頷いた。


「でも、グレイソン様のことは警戒しておいた方が良いかもしれないわね。帝国に戻ったら一応皆にも伝えておきましょう」

「はい、ルティア様」


ルティアの言葉に大きく頷くアメリア。


この後もしばらくパーティーは続いていたのだが、このルティアたちの不安と警戒が解かれるのはグランツやイーサンたちとともにスピカ帝国へ帰って来たときなのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

ル:ルティアです!

イ:イーサンです。

ア:アメリアです!!

ル:レイラ王国でのパーティーも無事に終わりました!

イ:姫様、男に話しかけられていましたが、大丈夫でしたか?

ル:心配しなくても大丈夫よ。アメリアもついていたもの。

ア:はい、悪者は私がやっつけます!!

イ:なら……安心です。

ル:と、いうことで、スピカ帝国に戻ってきた私たちは、また新たな作業を始めます!

イ:次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』

ア:第34話『カクニン』

ル&イ&ア:ぜひ、読んでくださいね!

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