第30話 ショウタイジョウ

 グリーンヒベルデ地域から戻ってきて更に一ヶ月ほどが過ぎた今日は拾月中旬。


いつも通りルティアの執務室で集まってくる情報を読んではまとめたり、ユニオンの目的を探るべく過去に何があったのかを調べたり、政治に詳しい人に聞き込みをしてみたりと、忙しい日々を送っていた。


「はぁ……。あのグリーンヒベルデ地域での休暇が懐かしい……」

「そうですね。弱音を吐くわけにはいきませんが、やっぱり疲れるものは疲れます」


アーサーとオスカーのつぶやくような息の混じった声による会話が飛び交う。書類仕事ばかりではやはり疲れが溜まってくるらしい。


「みんな、お疲れ様。そろそろ休憩にする? 疲れも溜まってきているみたいだし」

「あ、そうして下さるとありがたいです〜」


ルティアによる休憩の提案に、げっそりとした表情を見せているマリア。あのいつもの元気な雰囲気はどこへ行ってしまったのだろうか。


「じゃあ、休憩にしましょう。アメリア、お茶を入れてくれる?」

「はい。分かりました」


アメリアは頷くと紅茶を入れるために小走りでカップを取りに向かう。その間にテーブルの上を整えるルティアたち。


テーブルの上に出ていた書類やら何やらを片付ける。


「最近は上がってくる報告書も増えてきましたね。動きが活発になっているのでしょうか」


テーブルの上に置いたポットに、茶葉とお湯を入れるアメリア。この頃のルティアたちの様子を見て、気になったことを言ってみる。


「そうね。休暇をとっていた間の書類もあるけれど、やっぱり多くなっているわ。ユニオン側も色々考えて行動しているのでしょうね」


アメリアの言葉に頷きながらルティアはソファに腰掛ける。一方、その隣に座ったイーサンは、心の中でグレンのことを思い出していた。


(グレンが……情報を流していたりするのだろうか)

「イーサン? どうしたの?」


ふと顔を上げると視界にはルティアの顔が入ってくる。考え込んでいたせいか、険しい表情をしてしまっていたようだ。


「何でもありませんよ、姫様。大丈夫です」


ルティアを安心させるために微笑みを向けるイーサン。


微妙な感情が入り混じっているような微笑みを見て、あまり安心は出来ないルティアだったが、イーサンを困らせたくないため、微笑みを返して納得したようなフリをする。


恋心を自覚してから時間が経つにつれて、妙にしっくりくるようになってしまい、なぜか表情に出さないようにするのもルティアにとっては慣れてしまっていた。


今では端から見れば元の様子と変わっていない。


と、ルティアたちがそんなことをやっていた矢先、ドアを叩くコンコンという音が聞こえてくる。


「あ、はーい! どうぞ」

「失礼いたします」


ルティアが許可をすると、返事が返ってきてドアが開く。


「ルティア様、招待状が届いていますよ。送り主は……レイラ王国となっています」

「レイラ王国から? 何かしら。ちょっと確認してみるわね。持ってきてくれてありがとう」


ルティアは入ってきた侍女から招待状を受け取ると、微笑みと共に感謝の言葉を述べる。


その言葉にうれしそうな表情を浮かべた後に頭を下げて帰って行く侍女。その後、ルティアは招待状の封を開ける。


「ルティア様、どんな内容が書いてありますか?」

「え〜と、レイラ王国建国七〇〇周年記念パーティーの招待状みたい。自国だけで無く、周辺国家の王族も多く招いているみたいよ。この三週間後に開催されるみたいね」


かわいいお花の挿絵が入った一枚のカードを見ながら、ルティアは内容を読み上げる。


「建国記念パーティーですか……ルティア様はどうなさいますか?」

「う〜ん。どうしようかしら。ここは一つお父様の意見も聞いておきたいところだけど……」


招待状とにらめっこをしているルティア。そんなとき、いきなり勢いよくドアが開いた。


「ルティアはいるかい?」

「お、お父様!?」


突然のグランツの登場に驚くルティア。目を見開いてドアの前に立つグランツを見つめている。


そんなルティアと違って、陽気な雰囲気を前面に出してニコニコしているグランツは、明るい声で話しかけた。


「ルティア、レイラ王国から招待状が来ただろう?」

「は、はい……」

「いつもなら私だけで行くのだが……今回は外国の視察も兼ねて一緒にレイラ王国に来て欲しいんだ。もちろん、ルティアの仲間協力者の皆にもね」

「「「「「「え、えぇ!?」」」」」」


相変わらず笑顔のままのグランツ。しかし、彼の発言に対してルティアだけでなくイーサンたちも驚きの声を上げる。


ルティアは行くとしても、イーサンたちまでついて行くとは思っていなかったからだ。


「今までルティアは外国への公務には参加してこなかったが、今ではもう立派な時期皇帝候補なのだし、一緒に顔合わせの意味も込めて来た方が良いと思ってね。

あと、他の皆はルティアの補佐に慣れるため。イーサン君は、次期宰相候補でもあるし、色々知っていても損はない。試練も大変だと思うが、来てくれないだろうか」


理由を述べていくグランツ。イーサンやアメリア、マリアにアーサーにオスカーの五人は目配せで判断はルティアに任せると伝えた。


それを受けて、ルティアはしばらく考えた末、顔を上げる。


「分かりました。私たちも同行します。その代わり、ドレスの手配等はお父様がやってくださいね?」

「あぁ、分かっているよ」


——こうして、ルティアたちはレイラ王国へと向かうことになったのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

ア:アメリアです。

マ:マリアです〜!

マ:せーの、

ア&マ:次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ア:私たちのもとに来たパーティーへの招待状。私たちは、同じくパーティーに呼ばれているグランツ様とともにレイラ王国へと向かいます。

マ:第31話『レイラオウコク』

ア:ところでマリア様、レイラ王国に行ったことはありますか?

マ:私はないです。ルティア様の付き添いということで、緊張してるですが、楽しみですよ〜!

ア:と、いうことで、皆様も楽しみにしていてくださいね!

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